62 / 123
王都への帰還
しおりを挟む
「お嬢様、本当にこれで王都に?」
伯爵邸の玄関前の車寄せに現れた馬車につながれた二角獣を見たイオン様は、呆けた様な顔で大きな二頭を見あげました。
大人の男性が三人乗っても疾走出来る大きな黒い身体は、近くで見ると圧倒されてしまいますがそれが二頭馬車に繋がれているのですから、見慣れていない人は恐怖を感じるかもしれません。
「ええ、これなら一日で王都に着きますから」
「なんと。ですが、そんな速度に馬車が耐えられますか」
「この馬車そのものが魔道具なのです。領地で叔父様から託されたそうです」
二角獣の背に乗り領地に向かった護衛とチヌは、領地で待っていた叔父様から魔道具を渡されながらこの馬車を使う様に言われたそうです。
二角獣の走る速度に通常の馬車は耐えられません。
普通の馬の十倍以上の速度で走るのですから、普通の馬車なら途中で車輪が外れてしまっても仕方がないのです。
「そうですか。まさか私の人生で二角獣が引く馬車に乗ることがあるとは思いませんでした」
「外見に比べて中は快適だそうです。進展がありましたので、中で話をしながら行きましょう」
話をしている時間が惜しく私は言いながら馬車の中に入ると、慣れない馬車の中を見渡しました。
二角獣が全速力を出して疾走しても耐えられる頑丈な馬車は、疾走時の振動にも耐える造りをしているそうですが、内装を見る限りは普通の貴族の乗る馬車です。
「広い、ですね」
「この馬車は、領地の魔道具師達の技術をすべて込めた造りになっているそうです」
「外見よりも広いらしいぞ。簡易だが寝台もあるし、御不浄もあるらしい」
ケネスが少しうんざりした様な顔で言うのがおかしくて、私はつい笑ってしまいました。
領地で魔道具を作っている者達を纏めているのは、叔父様です。
彼はお父様の弟であるというのになぜか魔道具造りの才があり、その発想力には目を見張るものがあります。
領地の魔道具発明が発展したのは、叔父様の存在が大きいと思います。
「それは凄いですね」
「だろう。これを設計したのは俺の父だが、あの人の発想は俺の想像の斜め上をいくんだよなあ」
ケネスのうんざりしたような言い方が、何故かとてもおかしくてつい笑ってしまうとケネスに睨まれてしまいました。
叔父様は若い頃から魔道具師の才を発揮していて、父を助けてくれていたそうです。
私が常に身に着けている魔道具も叔父様の『一つに色々効果付けるのって出来ないのかな』の一言でできた物です。
それまで魔道具は、一つに一つの機能というのが定番でそれ以外は考えもしなかったそうですが、叔父様の発想から、一つの魔道具にいくつ機能を付けられるかを魔道具師の間で競うようになったそうです。
「私は不勉強でしたが、今の世はこんな凄い魔道具があるのですね」
「まあ、この馬車を注文で作ろうとしたら、王都の貴族の屋敷が三つか四つ建てられるらしいがな」
ケネスの苦笑いは、叔父様の暴走具合を暗に説明しています。
叔父様は発想は素晴らしいのですが、それを形にするまでの費用の換算の計算が苦手です。
そこをうまく補助するのは、叔父様の長男つまりケネスのお兄様です。彼が上手く叔父様の希望を聞き予算を組んでいくのです。
「王都の貴族の屋敷が三つか四つ建つのですか」
イオン様は完全に引いています。
侯爵家の令嬢として生を受け育った私でも驚く設備なのですから、普段魔道具に縁のない神殿に属するイオン様が驚くのは無理のない話です。
「この馬車の実力は、走っている時に発揮するらしいから楽しみにとおやじが言っていたらしい」
「ああ、驚く程振動が無いと言っていたわね」
この馬車を開発している時に叔父様が言っていた言葉を思い出します。
あれは数年前の事ですが、こんな風に形になるとは思っても居ませんでした。
「馬車の性能はともかく。父からきた手紙についてイオン様にお話し致します」
「あ、はい」
まだ呆けているイオン様に、私は父からの手紙の内容を告げ始めました。
伯爵邸の玄関前の車寄せに現れた馬車につながれた二角獣を見たイオン様は、呆けた様な顔で大きな二頭を見あげました。
大人の男性が三人乗っても疾走出来る大きな黒い身体は、近くで見ると圧倒されてしまいますがそれが二頭馬車に繋がれているのですから、見慣れていない人は恐怖を感じるかもしれません。
「ええ、これなら一日で王都に着きますから」
「なんと。ですが、そんな速度に馬車が耐えられますか」
「この馬車そのものが魔道具なのです。領地で叔父様から託されたそうです」
二角獣の背に乗り領地に向かった護衛とチヌは、領地で待っていた叔父様から魔道具を渡されながらこの馬車を使う様に言われたそうです。
二角獣の走る速度に通常の馬車は耐えられません。
普通の馬の十倍以上の速度で走るのですから、普通の馬車なら途中で車輪が外れてしまっても仕方がないのです。
「そうですか。まさか私の人生で二角獣が引く馬車に乗ることがあるとは思いませんでした」
「外見に比べて中は快適だそうです。進展がありましたので、中で話をしながら行きましょう」
話をしている時間が惜しく私は言いながら馬車の中に入ると、慣れない馬車の中を見渡しました。
二角獣が全速力を出して疾走しても耐えられる頑丈な馬車は、疾走時の振動にも耐える造りをしているそうですが、内装を見る限りは普通の貴族の乗る馬車です。
「広い、ですね」
「この馬車は、領地の魔道具師達の技術をすべて込めた造りになっているそうです」
「外見よりも広いらしいぞ。簡易だが寝台もあるし、御不浄もあるらしい」
ケネスが少しうんざりした様な顔で言うのがおかしくて、私はつい笑ってしまいました。
領地で魔道具を作っている者達を纏めているのは、叔父様です。
彼はお父様の弟であるというのになぜか魔道具造りの才があり、その発想力には目を見張るものがあります。
領地の魔道具発明が発展したのは、叔父様の存在が大きいと思います。
「それは凄いですね」
「だろう。これを設計したのは俺の父だが、あの人の発想は俺の想像の斜め上をいくんだよなあ」
ケネスのうんざりしたような言い方が、何故かとてもおかしくてつい笑ってしまうとケネスに睨まれてしまいました。
叔父様は若い頃から魔道具師の才を発揮していて、父を助けてくれていたそうです。
私が常に身に着けている魔道具も叔父様の『一つに色々効果付けるのって出来ないのかな』の一言でできた物です。
それまで魔道具は、一つに一つの機能というのが定番でそれ以外は考えもしなかったそうですが、叔父様の発想から、一つの魔道具にいくつ機能を付けられるかを魔道具師の間で競うようになったそうです。
「私は不勉強でしたが、今の世はこんな凄い魔道具があるのですね」
「まあ、この馬車を注文で作ろうとしたら、王都の貴族の屋敷が三つか四つ建てられるらしいがな」
ケネスの苦笑いは、叔父様の暴走具合を暗に説明しています。
叔父様は発想は素晴らしいのですが、それを形にするまでの費用の換算の計算が苦手です。
そこをうまく補助するのは、叔父様の長男つまりケネスのお兄様です。彼が上手く叔父様の希望を聞き予算を組んでいくのです。
「王都の貴族の屋敷が三つか四つ建つのですか」
イオン様は完全に引いています。
侯爵家の令嬢として生を受け育った私でも驚く設備なのですから、普段魔道具に縁のない神殿に属するイオン様が驚くのは無理のない話です。
「この馬車の実力は、走っている時に発揮するらしいから楽しみにとおやじが言っていたらしい」
「ああ、驚く程振動が無いと言っていたわね」
この馬車を開発している時に叔父様が言っていた言葉を思い出します。
あれは数年前の事ですが、こんな風に形になるとは思っても居ませんでした。
「馬車の性能はともかく。父からきた手紙についてイオン様にお話し致します」
「あ、はい」
まだ呆けているイオン様に、私は父からの手紙の内容を告げ始めました。
357
あなたにおすすめの小説
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~
桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜
★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました!
10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。
現在コミカライズも進行中です。
「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」
コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。
しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。
愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。
だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。
どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。
もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。
※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!)
独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。
※誤字脱字報告もありがとうございます!
こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。
婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢
alunam
恋愛
婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。
既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……
愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……
そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……
これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。
※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定
それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる