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屋敷にて待つ
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「え、チヌもう帰っていまうの? 今日くらい泊まって体を休めて、あなた二日間駆け通しなのよ」
「お嬢様、この程度で倒れる軟弱な体はしておりません。どうぞお気遣いなさらないで下さい」
二角獣は驚く程の速度で駆け続け、伯爵領を出て一日弱で王都の屋敷に着いてしましました。
町は出来るだけ避け遠回りし、王都の中は勿論他の馬同様の速度しか出していないというのに短時間で到着したのは驚きですが、馬車から降りようとしたところでチヌが休憩も取らずに伯爵領に戻ると聞いて驚きというよりも心配が先に立ちました。
「でも。私の為に無理をさせて申し訳なくて」
御者台から馬車の中に移動してきたチヌは、私達が皆心配そうにしているのに気が付き笑っていますが、休みも取らずにそのまま戻る等、心配するなと言う方がおかしいのです。
「お嬢様は相変わらず優しすぎますね。お嬢様が今しなくてはいけないのは、私ではなくご自分の心配でしょうに」
「それはそうだけど」
「私を心配してくださるのはとても嬉しいですが、私が安心して休める様にご自愛ください」
「分かったわ」
チヌにはある程度今回の件について話をしました。
だからこその苦言に苦笑して頷くと、チヌは満足そうにしながら懐に手を入れ小さく丸まった何かを取り出し私に差し出しました。
「チヌ?」
「起きろ」
「え」
チヌの言葉にピクリと震えたそれは、ゆっくりと丸くなった体を伸ばしました。
「この子は?」
「これはモモンという魔物です。モモンガという動物はご存じですか?」
「実物は見たことはないけれど、聞いたことはあるわ。でもこの子はモモンガではなくモモンなのね」
「ええ。飛膜がありモモンガの様に木から木へと滑空移動しますが、それだけでなくモモンは飛べます」
「まあ、そうなの」
なぜチヌがモモンを私に渡してきたのか分からないまま両手で受け取ると、ふわふわな毛と高めの体温に思わず目を細めて見つめてしまいました。
「キュ?」
私の手の中で、モモンは顔を上げ大きな丸い目が私を見つめています。
「可愛い」
「可愛くても魔物ですから、私が従魔化していないモモン以外には油断しないでくださいね」
「あ、そうね。気を付けるわ。あなたは大丈夫なのよね。チヌ、撫でてもいいかしら」
「ええ、でもその前にお嬢様の血を一滴頂けますか」
「血を?」
どうして血が必要なのでしょう? 疑問に思いながら頷くとチヌは私の右手を取り何か呪文を呟きながら私の人差し指をモモンの口元に持っていきました。
「え」
「チヌ、何をする」
チヌの行動にケネスが慌てて声を荒げますが、チヌが私に害する様なことをするはずがないのは分かっています。
「私を信じて下さい」
「分かったわ。ケネス大丈夫よ」
私が落ち着いているのを見て、ケネスも口を閉じましたが視線は険しいままです。
ケネスが見守る中、私はモモンに血を与えました。
ケネスがチヌを睨むのはいけないと分かっていますが、私をケネスが心配しての行いだと思うと何故か嬉しいと感じてしまうのはどうしてなのでしょう。
今まで近くに居たお父様以外の男性が、フィリップ殿下だったのですから心配されるという行為が単純に嬉しく感じてしまうのでしょうか。
「今からお嬢様とモモンに主従の絆を結びます。私の従魔なのは変わりありませんから、一時的なものですが」
「主従の絆?」
「はい。日頃はこの魔石の中に入って休んでいますから、こちらを身に着けていてください」
「分かったわ。でも、どうして?」
「モモンは体は小さいですし力も弱いですが、噛みつき攻撃をする際に体が痺れる唾液を相手の体に送り込みます。それは少量ですが、すぐに体に影響し半刻程動けなくなります」
「そうなの。凄いのね」
私が驚いているのが分かっているのか、モモンは首を傾げて私を見つめていてとても可愛らしいです。
「私はお側にいられませんが、モモンが私の代わりにお嬢様をお守り致します。お嬢様がモモンが外に出る様に魔石に魔力を送り念じればモモンが外に出て対象者に飛び掛かり噛みつきます。不意打ちで相手興味を反らしたら、相手が少数なら噛みつきの痺れ攻撃で対抗することも出来るかと」
「そうね」
「それから、主従の絆を結ぶと主への強い敵意や悪意をモモンが感じて、魔石の中にいる場合は石が熱を持ちます」
「そんな力もあるのね。でもいいの? チヌ、この子私の記憶違いでなければあなたが従魔師になって一番最初に従魔化させた魔物では無かった。そんな大事な子を私に貸してくれるの?」
チヌに初めてあって、おばあ様の領地に身を寄せると決まった時にチヌが家を出た理由を聞きました。
その時にチヌが自分が従魔師の才があると自覚した時の話も聞いていたのです。
「覚えていらっしゃったのですか」
「あの時はモモンを紹介して貰ってはいないけれど、チヌが辛い時に一緒に居てくれた子だったと言っていたわよね」
「はい。そうです。だからこそ今はお嬢様のお側に」
久しぶりに会った私の状況を心配してくれているのでしょう。
私は有難くモモンを借りることにしました。
「ありがとうチヌ。この子を少しの間借りるわね」
「はい」
「名前はなんていうのかしら。好きな食べ物は?」
「食べ物は不要です。お嬢様と絆が出来ましたから、お嬢様の魔力を微量ですが自然と頂いていますので。ですが、甘いものは好きですから、たまにお菓子などを分けてあげて頂ければ喜ぶでしょう」
「甘いものが好きなのね。分かったわ」
私の手に目を細めて頭を摺り寄せているモモンの小さな背中を指先で撫でながら、木の実入りのクッキー等を用意しようと決めました。
「名前は、クルと言います」
「クルね」
古語で友という意味ですが、それはチヌには言わないでおこうと思いました。
「クルよろしくね。チヌ、ありがとう」
「いいえ。お嬢様、どうぞお体を大切になさってください」
柔らかく笑ってチヌは御者台に戻って行きました。
「クル、私の肩に乗っていて」
「キュウ」
返事をしてクルは私の左肩に飛び乗りました。
「お待たせしてごめんなさい。降りましょうか」
馬車が停まったのに降りてこない私達を出迎えてくれている筈の使用人達が心配していることでしょう。
三人に声を掛け、私達は馬車を降りたのです。
「お嬢様、この程度で倒れる軟弱な体はしておりません。どうぞお気遣いなさらないで下さい」
二角獣は驚く程の速度で駆け続け、伯爵領を出て一日弱で王都の屋敷に着いてしましました。
町は出来るだけ避け遠回りし、王都の中は勿論他の馬同様の速度しか出していないというのに短時間で到着したのは驚きですが、馬車から降りようとしたところでチヌが休憩も取らずに伯爵領に戻ると聞いて驚きというよりも心配が先に立ちました。
「でも。私の為に無理をさせて申し訳なくて」
御者台から馬車の中に移動してきたチヌは、私達が皆心配そうにしているのに気が付き笑っていますが、休みも取らずにそのまま戻る等、心配するなと言う方がおかしいのです。
「お嬢様は相変わらず優しすぎますね。お嬢様が今しなくてはいけないのは、私ではなくご自分の心配でしょうに」
「それはそうだけど」
「私を心配してくださるのはとても嬉しいですが、私が安心して休める様にご自愛ください」
「分かったわ」
チヌにはある程度今回の件について話をしました。
だからこその苦言に苦笑して頷くと、チヌは満足そうにしながら懐に手を入れ小さく丸まった何かを取り出し私に差し出しました。
「チヌ?」
「起きろ」
「え」
チヌの言葉にピクリと震えたそれは、ゆっくりと丸くなった体を伸ばしました。
「この子は?」
「これはモモンという魔物です。モモンガという動物はご存じですか?」
「実物は見たことはないけれど、聞いたことはあるわ。でもこの子はモモンガではなくモモンなのね」
「ええ。飛膜がありモモンガの様に木から木へと滑空移動しますが、それだけでなくモモンは飛べます」
「まあ、そうなの」
なぜチヌがモモンを私に渡してきたのか分からないまま両手で受け取ると、ふわふわな毛と高めの体温に思わず目を細めて見つめてしまいました。
「キュ?」
私の手の中で、モモンは顔を上げ大きな丸い目が私を見つめています。
「可愛い」
「可愛くても魔物ですから、私が従魔化していないモモン以外には油断しないでくださいね」
「あ、そうね。気を付けるわ。あなたは大丈夫なのよね。チヌ、撫でてもいいかしら」
「ええ、でもその前にお嬢様の血を一滴頂けますか」
「血を?」
どうして血が必要なのでしょう? 疑問に思いながら頷くとチヌは私の右手を取り何か呪文を呟きながら私の人差し指をモモンの口元に持っていきました。
「え」
「チヌ、何をする」
チヌの行動にケネスが慌てて声を荒げますが、チヌが私に害する様なことをするはずがないのは分かっています。
「私を信じて下さい」
「分かったわ。ケネス大丈夫よ」
私が落ち着いているのを見て、ケネスも口を閉じましたが視線は険しいままです。
ケネスが見守る中、私はモモンに血を与えました。
ケネスがチヌを睨むのはいけないと分かっていますが、私をケネスが心配しての行いだと思うと何故か嬉しいと感じてしまうのはどうしてなのでしょう。
今まで近くに居たお父様以外の男性が、フィリップ殿下だったのですから心配されるという行為が単純に嬉しく感じてしまうのでしょうか。
「今からお嬢様とモモンに主従の絆を結びます。私の従魔なのは変わりありませんから、一時的なものですが」
「主従の絆?」
「はい。日頃はこの魔石の中に入って休んでいますから、こちらを身に着けていてください」
「分かったわ。でも、どうして?」
「モモンは体は小さいですし力も弱いですが、噛みつき攻撃をする際に体が痺れる唾液を相手の体に送り込みます。それは少量ですが、すぐに体に影響し半刻程動けなくなります」
「そうなの。凄いのね」
私が驚いているのが分かっているのか、モモンは首を傾げて私を見つめていてとても可愛らしいです。
「私はお側にいられませんが、モモンが私の代わりにお嬢様をお守り致します。お嬢様がモモンが外に出る様に魔石に魔力を送り念じればモモンが外に出て対象者に飛び掛かり噛みつきます。不意打ちで相手興味を反らしたら、相手が少数なら噛みつきの痺れ攻撃で対抗することも出来るかと」
「そうね」
「それから、主従の絆を結ぶと主への強い敵意や悪意をモモンが感じて、魔石の中にいる場合は石が熱を持ちます」
「そんな力もあるのね。でもいいの? チヌ、この子私の記憶違いでなければあなたが従魔師になって一番最初に従魔化させた魔物では無かった。そんな大事な子を私に貸してくれるの?」
チヌに初めてあって、おばあ様の領地に身を寄せると決まった時にチヌが家を出た理由を聞きました。
その時にチヌが自分が従魔師の才があると自覚した時の話も聞いていたのです。
「覚えていらっしゃったのですか」
「あの時はモモンを紹介して貰ってはいないけれど、チヌが辛い時に一緒に居てくれた子だったと言っていたわよね」
「はい。そうです。だからこそ今はお嬢様のお側に」
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私は有難くモモンを借りることにしました。
「ありがとうチヌ。この子を少しの間借りるわね」
「はい」
「名前はなんていうのかしら。好きな食べ物は?」
「食べ物は不要です。お嬢様と絆が出来ましたから、お嬢様の魔力を微量ですが自然と頂いていますので。ですが、甘いものは好きですから、たまにお菓子などを分けてあげて頂ければ喜ぶでしょう」
「甘いものが好きなのね。分かったわ」
私の手に目を細めて頭を摺り寄せているモモンの小さな背中を指先で撫でながら、木の実入りのクッキー等を用意しようと決めました。
「名前は、クルと言います」
「クルね」
古語で友という意味ですが、それはチヌには言わないでおこうと思いました。
「クルよろしくね。チヌ、ありがとう」
「いいえ。お嬢様、どうぞお体を大切になさってください」
柔らかく笑ってチヌは御者台に戻って行きました。
「クル、私の肩に乗っていて」
「キュウ」
返事をしてクルは私の左肩に飛び乗りました。
「お待たせしてごめんなさい。降りましょうか」
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三人に声を掛け、私達は馬車を降りたのです。
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