【完結済み】婚約破棄致しましょう

木嶋うめ香

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喰いついたのは4(王妃視点)

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 伯爵家に都合のいい家に嫁ぐ為に養女になった私は、嫁がないという選択は出来ないと分かっていました。
 けれど、どこかで結婚してもお義兄様の妹としていられればいいと思ってもいました。
 貴族家通しであれば、何人か子供を産んでしまえば愛人を作る等は当たり前です。
 この国は公に妾を囲ったり第二婦人を娶ったりは出来ませんが、それでも政略で結婚して恋愛を愛人とするというのはある程度黙認されるのです。
 勿論子供を作ってしまうのは認められませんし、運悪く出来てしまった子供は不義の子として蔑まれてしまいますから絶対に避けなければなりません。
 ですがお義兄様が頷いてくれさえすれば、義理の兄妹で世間を誤魔化し愛人になれるのです。
 お義兄様は私をとても大切にしてくれます。私が泣き付けばきっと私を愛人にして下さる筈です。
 居心地の悪い屋敷の中で暮らす私にとって、それだけが希望でした。

「お義兄様、どうして私に心を下さらないの」

 他人の心をある程度操れると気が付いたのは、お義父様に躾だと体を触られそうになった時でした。
 お義兄様と似た顔のお義父様、私を貧乏な生活から救ってくれた人でしたが彼に好き勝手されたくはありませんでした。
 日々の手入れで髪や肌が美しくなり、貴族令嬢として周囲に認められつつあった私を厭らしい目で見ているのは気が付いていましたが、まさか行動に移されるとは思っていませんでした。

 お前には色気が足りない、それでは誰も誘惑出来ないぞ。

 舌なめずりして私に近寄るお義父様に腕を掴まれて、酒臭い顔を近づけられて死にたくなりそうな気持で必死に抵抗していた時です。
 嫌だと言うなら家に戻すと言われて、逃げるなら今まで教育に使った金を返せと脅されて何も抵抗が出来なくなって絶望したその時『止めて、私の言う事を聞いて!』と心の中で叫んでいた通りにお義父様の動きが止まったのです。
 魔力が体から抜ける感じがしました。
 お義父様の手を両手で掴み、恐ろしさに目を逸らせなかった私は『止めて。脅さないで』と必死に願いました。

 するとどうでしょう。
 お義父様は動きを止めただけでなく、脅して悪かったと謝罪したのです。

 まさかと思いながら私は『私の言う事はこれからなんでも聞くと誓って、行動して』と強く願いました。
 するとまた魔力が抜ける感覚がして、お義父様が『お前の言う事はなんでも聞くと誓う』と言ったのです。
 
 魔法なのかと思いました。
 私は魔力はあっても使える適性が無いのだと思っていました。
 伯爵家に養女になる際の適性検査では、そういう結果だったのです。
 ですが、私には使える魔法があったのだとその時に悟りました。

『お義父様』
『なんだ』
『ドレスを買ってくださいませ。今のお詫びに』

 手を放しそう言うとお義父様は、さっきの誓いを忘れた様にそれは出来ないと言い始めました。
 心の中で願いながら言ったのに、魔力が抜ける感覚はなくお義父様も頷いてはくれませんでした。

『お義父様、ドレスを買ってくださいませ。私の為に』

 さっきと同じ条件が必要なのかと、お義父様の手を両手で握りお義父様の目を見ながら言えば、また魔力が抜ける感覚がしてお義父様はいくらでも好きなだけ買ってやろうと約束してくださいました。
 それから私は何かお願いをしたい時はお義父様の手を握り、視線を合わせお願いする事にしたのです。
 お義父様はなんでもいう事を聞いてくれました。
 試しに他の男性にも同じことをしましたが、どの人も私のいう事を聞いてくれました。
 不思議なことにそうして聞いてくれた事は、後々は何故そうしたのか理由を忘れ自分の判断でそうしたのだという記憶に変わっている様でした。
 そして何度も何度も同じ人に魔法を使うと、その人は私に強い好意を持つようになり私が望むように動こうと自ら考えてしていく様になるのだと分かりました。

「お義兄様にも魔法を使えばいいのかしら」

 お義兄様に魔法を使ったのはたった一度だけ、フィリップを授かった夜だけです。
 実家に帰った私は、お義姉様が領地にいることを天の采配と判断してお義兄様に葡萄酒を勧めました。
 メイド達は私が伯爵家に暮らしていたころに私の配下とした執事に人払いさせ、執事と私とお義兄様だけの部屋で油断しているお義兄様に葡萄酒を沢山飲ませたのです。
 お義兄様はあまりお酒が強くありません。
 葡萄酒を飲んで気が緩んだお義兄様の隣に座り、両手でお義兄様の手を握り視線を合わせました。
 
『お義兄様、私を抱いて。お義姉様と間違えて、一晩中抱いて子供を授けて』

 いつも以上の魔力が抜ける感覚に、一瞬意識が飛びました。
 お義兄様は虚ろな目になったまま、お義姉様の名を呼び私を抱き上げ寝室へと運びました。

 生まれてきて一番幸せな夜でした。
 お義姉様の名前を呼ばれながら、お義兄様は私を揺さぶり何度も私の中ではてました。
 
 愛しているよと言ってくれました。
 お義姉様の名前を呼びながら、それでも私を見てそういうお義兄様の姿を私は忘れないと心に決めました。
 一番幸せで一番不幸な夜でした。
 
「お義兄様に自分から私を好きになって欲しかったのに。どうしてお義兄様は私とフィリップを愛してくださらないの」

 翌朝、私を抱いて寝ていたと気が付いたお義兄様は絶望しそのまま命を絶とうとしました。
 妹なのに、妹としか見ていなかった。
 昨日の自分はどうかしていたんだ。

 好きだから抱いた。
 好きだとどこかで思っていた。

 私が期待した言葉は一度も聞くことが出来ませんでした。
 それでも私はお義兄様との子供を授かる事が出来たのです。

 愛の証の子供を、フィリップを。
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