【完結済み】婚約破棄致しましょう

木嶋うめ香

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それが許されるのなら

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「ふん、婚約者を大切にするどころか自分の仕事を押し付けて、優しい言葉を掛けることも誕生日に贈り物をすることすらしてこなかったお前が、他の女性を愛しい? 守ってあげたいだと?」
「不実なのは分かっています。婿に入る立場で、いいえ逆の立場でも許されない思いだったと今なら分かります。でも、あの頃はそんなこと頭の隅にも無かったのです。私はエミリアの存在だけが大切で他はどうでもよかった」
「どうでもよかった? あれだけお前に尽くしていたフローリア嬢を蔑ろにして?」

 フィリップ殿下のお気持ちがエミリアさんに向いていたというより、エミリアさん以外の誰にも向けられていなかったと言う方が正しいのかもしれません。
 あの日、生徒会室にフィリップ殿下がエミリアさんを連れて『運命の相手』だと私に紹介される以前から、二人の仲は噂されていました。
 爵位の低い令嬢とフィリップ殿下は親しくしているという噂は当然私のところにも聞こえてきましたが、私はその噂を信用していませんでした。私の事を所詮はただの侯爵家の娘だと軽んじていらっしゃったフィリップ殿下が、さらに下の爵位の令嬢を大切にしている等、想像すら出来なかったからです。
 だから運命の相手だと言いながら遊びなのだと思っていました。
 私への嫌がらせの為、下位貴族の令嬢と遊んでいるのだと思いながら婚約破棄の口実として、あの日私は利用したのです。

「下位貴族の令嬢が野心を持ってお前に近づいただけだろう。それに騙されるとは」
「そんな事ありません。エミリアには野心などありませんでした。彼女は、エミリアは、私が第三王子だと知り身を引こうとしました。私に婚約者がいると知って、自分は学園を辞めて家に戻ると言ったんです」

 それでは何故あの日、二人は一緒に?
 フィリップ殿下はあの日私に、エミリアさんは運命の相手だとはっきり仰ったのに。
 その疑問はすぐに答えが出てきました。

「フローリア嬢は、お前が浮気相手と一緒に生徒会室に来たから婚約破棄の手続きをすすめたんだろう? 学園を辞める決意をしたものの行動とは思えないが」
「私はエミリアを失いたくなかった。フローリアとはお互い割り切った関係でしかありませんでした。フローリアは理想的な婚約者だったと思います。私を常に立て私がどんな我儘を言っても、気分のまま罵声を浴びせても彼女は理想的な婚約者の顔のまま私の近くにいつもいましたがそれが鬱陶しくて仕方なかった。母上はそれでは王子の婚約者としては足りない、フローリアは私に尽くす為に存在しているのだから、私が何かを指示する前に私の気持ちを察してフローリアが動くべきなのだと。それを出来ない彼女は無能なのだといつも仰っていて、私はそれを盲目的に信じていたから、フローリアは怠慢なのだと愚かにも思っていたのです」

 その王妃様の言葉が、精神操作の魔法だったのでしょうか。
 アヌビートが王妃様の魔法でどんなことをさせられていたのか、それはある程度察することが出来ます。
 ですが、フィリップ殿下の方は王妃様がどんな事を精神操作の魔法で指示していたのか分からない部分があるのです。私を嫌い蔑む様に誘導していただけなのか、他にもあるのか分からないのです。

「愚かな私は、フローリアは婚約者の私が望んでいるのだからエミリアの存在も認めるべきだと思っていました。私とエミリアは運命の相手、運命の恋なのだから。私の意思に関係なく結ばれたフローリアとの婚約等、その前には価値の無いものだと信じていたからです」
「愚かだな」

 不愉快そうに仰る第二王子殿下は、それでもフィリップ殿下の告白を聞き続けていらっしゃいます。
 神の裁きをフィリップ殿下が賜った後はまともな会話等望めないでしょう。
 それを考えるとこれは最後の兄弟の会話なのです。
 王妃様の魔法の呪縛から解放されたフィリップ殿下の本心を聞く最後の機会、そう第二王子殿下もお考えなのかもしれません。

「愚かです。でも、私に尽くす為に存在する婚約者なら私が望むエミリアとの未来を祝福して当然だと思っていたのです。私は浮かれていました。エミリアとの未来を信じて、嫌っていた婚約者にお前など私達の運命の恋の前には全く価値の無い者だと言い放つのは気分が良かったのです」
「あれだけお前に尽くしてきた婚約者にそんな非情なことが出来たお前が信じられないよ」
「はい。今なら私もそう思います。私は恥知らずなことをフローリアにしました。彼女に許しを請うことすら恥ずかしい程の愚行をしたと、今の私は分かっています」

 それは冷静になったからなのでしょうか。それともこれまでは思考を王妃様の魔法によって完全に操られていたというのでしょうか。

「私は愚かです。その為にフローリアから婚約破棄をされ、エミリアを不幸にしました。許されるなら二人に謝罪したい。全く優しくない最低な婚約者だったことをフローリアに。私のせいで人生を台無しにしてしまったエミリアに、謝罪したい。私の謝罪等二人は望んでいないと思いますが」
「お前の謝罪等、自分が楽になりたいだけだろう」
「そうなのかもしれません。二人に謝罪したいと思うのも、エミリアの分も神の裁きの杯を賜りたいと願うのも、すべて愚かだった自分が償った様な気持ちになりたいだけなのかもしれません。ですが、それが私の望みです。死を賜る私の望みなのです」

 謝罪など、そんなものいりません。
 フィリップ殿下は酷い婚約者だったかもしれませんが、私にはきっと何かが足りなかった。
 それを知らずに私はフィリップ殿下を、少しでも親しくなる努力をしている風を装いながら内心では蔑んでいたのです。
 だから私はエミリアさんに負けたのでしょう。
 負けた? そうです私は負けたのです。エミリアさんの存在に負けたのです。

「ふん。言いたいことはそれで全部か」
「はい。あ、いいえ。もう一つだけあります。もし兄上に、王太子殿下に言伝をお願い出来るなら」
「なんだ」
「謝罪と私の本心を」

 謝罪と本心? フィリップ殿下は一体何を伝えたいというのでしょう。
 考えながら私は、王太子殿下の方をそっと盗み見たのです。
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