ひとめぼれなので、胃袋から掴みます

木嶋うめ香

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抱きしめて眠る理由(ゲルト視点)

「ゲルト君、周囲は問題ないかしら」

 馬車の中でウヅと一緒に休んでいたマリアさんが、ひょいと顔を出し尋ねてきたのは、あと一刻程で町に着くという頃だった。
 本当ならとっくに着いていなければならないけれど、ウヅにスライムを狩る練習をさせていた為に遅くなってしまったんだ。

「今のところ問題ありませんが、何か」
「ウヅキ君が眠ってしまったから、ゲルト君にお願いしたいのよ」
「え、ああ、わかりました」

 ニルスさんが頷くのを確認して、御者台から馬車の中に入る。
 荷物の間に作った簡易の寝床には、ウヅが小さな体を更に小さく丸めて眠っていた。
 本当ならマリアさんが休む時は壁についている寝台用の台を広げて使っていたんだが、ウヅは広い場所よりも狭いところの方が落ち着いて眠れる様で、それに気が付いてからは台は使わずに寝る様になったんだ。

「やはり泣いてしまうんですね」
「ええ、目が覚めた時に本人は覚えていないみたいだけど」

 マリアさんは心配そうにウヅの顔を覗き込んでいるが、きっと俺も似たような顔をしているんだろう。
 ウヅは小さい体を更に小さく丸めて、苦しそうに眠っているんだ。

「手紙を読んだ後ウヅキ君は何でもないように振る舞っているけれど、心の中で傷ついているのでしょうね」
「そうですね」
「知っている? ウヅキ君はね顔の辺りに手を伸ばすと、首をすくめてしまうのよ。そして無意識に手を後ろにするの。だから気を付けてあげてね」
「気が付きませんでした。でも、なぜ」

 それはどういうことなんだろう。
 理由が分からずに首を傾げると、ウヅの様に耳をへにょりと伏せながらマリアさんは恐ろしいことを言い始めた。

「多分ウヅキ君は虐待を日常的に受けていたのだと思うの。殴られる時に抵抗する事も禁止されていたのかもしれないわね」
「ぎゃく、虐待?」
「そうよ。だから急に顔の近くに手が来ると殴られるかもしれないと緊張してしまうの。でも本人はそんな反応していると気がついていないのよ」
「手を後ろにするのは、じゃあ」
「多分そうやって暴力を振るわれていたのでしょうね。腕を後ろにするのは人族の奴隷が服従して何をされても受け入れますという姿勢だと聞いたことがあるわ」

 それじゃあ小さく体を丸めているのは、何かから隠れているんだろうか。

「時々、母さんと言っている時があるわ。行かないでとも、ごめんなさいと言っている時も」
「それは、俺も聞いた時があります」

 起きている時は明るく振る舞っているのに、眠りにつくとこうして泣き始め寝言を言うのだと気がついてから、ウヅが眠りにつくと三人で交代しながら添い寝をし、抱きしめて眠ることにしていた。夜はマリアさんとニルスさんが、まだ幼いウヅは馬車に乗っているだけでも疲れてしまうようで、昼寝をする時もあるからその時は俺が添い寝することが多かった。

「ごめ……。捨て、ないで……ごめ……さい」

 魘されていたウヅは、そう言うと手を伸ばし何かに縋ろうとしていた。

「ウヅ」

 泣きながら、何度も謝るウヅを見ていられなくて俺は馬車の囲いに背中を預け胡座で座ると、ウヅの小さい体を毛布で包み膝の上にのせた。

「馬車の移動の間は、まだ暫くはウヅキ君が起きていても抱っこして過ごした方がいいと思うの」
「そうですね」

 獣人の子は幼い頃は親に抱かれて日々を過ごす。
 子煩悩な親が多いのと、力の弱い子を守るためだ。
 ほとんどの種族は生まれたばかりは獣体で人の形を取ることは出来ない、それは生まれて半年から一年程の頃でそれからは人の形を取る様になるが、五、六歳前後まではとても弱いから大人が抱っこして過ごすんだ。
 それなのにウヅは、抱き上げられたことが無いと言っていた。腕に抱いて守られ育つ獣人の子が、身近な奴に暴力を振るわれて育つなんて想像すら出来なかった。

「気持ちが落ち着いてくれば、抱っ子されるのを恥ずかしがる様になるでしょうけれど、今は甘えたそうでしょう? 決めつけるのも良くないけれど、他の人の温もりに安心しているのかもしれないと思うのよ」

 確かにウヅはすぐに泣くし、遠慮するくせに甘えたがりだ。あれは精神的に不安定なのか。

「宿は、申し訳ないけれどゲルト君と同じ部屋にしてもいいかしら」
「それは、勿論大丈夫です」

 横抱きにして背中を撫でてやると、ウヅは段々落ち着いてきて深い眠りに入っていく。
 この分だと夜の眠りは浅くなるかもしれないから、宿を取ったら少し剣の稽古でもした方がいいかもしれない。
 体が疲れていた方が良く眠れるだろう。

「良い子に、な……、でも、す……か」

 落ち着いてきた呼吸に安心して、マリアさんが御者台に向かうと、気配を感じたのかまたウヅが小さな寝言を言い始めた。
 寝言と共に流れる落ちる涙に、俺はただ背中を撫でるしかできない。

「俺が側にいる。ニルスさんもマリアさんもいる。誰もお前を捨てたりしないから、もう悲しむな」

 ウヅの親に会ったら、なぶり殺しにしてやりたい。
 そう思う程に、眠るウヅの姿は悲しかったんだ。

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