ひとめぼれなので、胃袋から掴みます

木嶋うめ香

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ニルスさんも過保護4(ニルス視点)

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「突然訪ねて申し訳ないのぉ」

 バロンとの会話をそこそこに商会を出ると、そのまま私はワルドの家に向かったんじゃ。
 ワルドの家の中は、昨日冒険者ギルドで見せていた荒々しい口調からは想像出来ない程に整頓され掃除も行き届いており居心地がよかった。

「いや、昨日の件謝罪に行かねえといけなかったんですから、わざわざニルス会頭に足を運ばせて、俺の方こそ申し訳ないです」
「謝罪?」
「俺は酔っていたとはいえ、ウヅキを馬鹿にしてしまいました」
「ふふふ、話しにくいならいつもの口調でいいんじゃよ」

 踏み台の件といい、今のことといい、良い方向に予想を外してくれるワルドに私は悪いとは思いながらつい笑ってしまったんじゃ。

「すまねえ、そう言ってもらえると助かる。丁寧な言葉は話してるだけで肩が凝ってきていけねぇよ」
「職人なんてそんなもんさの」

 砕けた口調で話す方が本音が出やすい。
 ワルドは最初見せていた緊張をほぐし、木製の手付きの椀に薬草茶をいれてテーブルの上に置いてくれた。

「ウヅキ君の件は彼自身で解決したのじゃから、私への謝罪はいらんよ。ウヅキ君も気にしてはいないようじゃからの」
「そう言ってもらえると助かるが、俺はゲルトの前ではつい憎まれ口を吐いてしまうんで」

 ワルドはゲルト君よりは幾分年上だった様に思うが、こうしてみると素直な性格をしている様に見える。
 まあ若いんじゃろうな、多分二十代位なんじゃろう。かなりの若造じゃな。

「パーティーに何度も誘ってるんだが、断られてばかりだったからさ俺も意地になってたんだな」
「あの子も頑固だからのぉ」

 だからこそウヅキ君とパーティーを組むと聞いて驚いたんだが、まあこれは時が過ぎたということもあるんじゃろうな。

「それで、ウヅキの件じゃねえなら何の?」
「ああ、ギルドで踏み台を見ての。ウヅキ君の為に考えてくれたんじゃな。ありがとう」
「え、い、いや。あのくれぇなんでもねぇし。あのチビは自分で何でもやりてえみてえだから、受付も自分で出来た方がいいんじゃねぇかと、いや。勝手して申し訳ねえ」
「ふふふ、ウヅキ君はとても喜んでいたよ」

 私がウヅキの後ろにいると分かっての行為ではない様子に、心は決まった。

「とても丁寧に作ってあったから、あれなら長く使えるだろうて」
「まあ、暫く必要になりそうだからな。頑丈に作ったさ」
「あの作りを見ての、頼みたいものがあるんじゃよ」

 懐から椅子の希望を描いた紙を取り出すと、テーブルの上に広げてワルドに見せる。

「椅子?」
「そうさの、ウヅキ君は体は小さいが大人に抱っこされて食事をするのは流石に嫌な様なんじゃ。もう十歳じゃなかのう。それで椅子の上にクッションを重ねて座らせてみたんじゃがどうにも危なくてのう」
「それで、椅子の脚を長く」
「これはウヅキ君が描いたものに寸法を入れたんじゃが、試しに一つ作ってもらえんかの」

 試作して良ければ食堂用も含めて注文する。
 ウヅキ君が言っていたもっと幼い子用の、椅子に小さなテーブルが付いたものは、出来上がった椅子を見て大きさを考えるつもりじゃった。

「俺がですか?」
「そうじゃよ」
「俺は余所者ですが」
「腕のいい職人に地元も余所も関係ないじゃろう? 私はウヅキ君が気分良く食事出来ればそれでいいんじゃ」

 食が細いあの子が気分良く食事が出来るように、それだけなんじゃ。

「取り急ぎ、この寸法で一つ仕上げて貰うが使ってみて椅子が高すぎる様なら脚を少し短くするかもしれん。それを考えて作ってみてもらえるかの」
「本当に俺でいいんですか」
「あんたに十分な技術があるのは、踏み台を見て分かっておるからのぉ。私の屋敷の食卓に使っている椅子はこれなんじゃが、これに合わせられそうかの」

 マジックバッグから椅子を取り出しワルドに見せると、何とも頼もしい表情でワルドは椅子を見ていたんじゃ。
 こういう顔を見ると、ワルドは冒険者ではなく職人なのだと分かるのぉ。
 職人仕事だけでは食べて行けず、冒険者をやりながら職人の仕事を続ける者は多いがワルドもその口なんじゃろうか。

「あぁ、それくらい造作もねえ」
「よろしい。それじゃ契約といこうかの」

 懐から魔法契約の書類と専用の筆記用具を取り出しワルドへ契約書を見せる。

「条件はこれじゃよ」
「椅子一脚につき基本金貨ニ枚。一脚につき? 高価な素材使用の場合は都度価格相談?」
「最初の一脚が満足な出来なら、商会で経営している食堂にも何脚か置こうかと思っていてのぉ。後は売る分じゃの、これはまだ数の予想は出来んがの。貴族にも売れるかもしれんと思っておるんじゃよ、そちらは高級な素材を使って作って貰う様になるが、トレント等は扱えるかの」

 この町だけでも商会が経営している食堂は三件あるし、大きな宿屋もある。この町以外にもあるからすべてに椅子を置こうとすればかなりの数になるじゃろう。

「それは勿論、だが食堂にも?」
「ウヅキ君を連れて行くこともあるじゃろうし、体が小さい種族も使えるじゃろ?」
「それは、確かに。俺のパーティーのビアンカの文句も減るな」
「ビアンカは鼠獣人じゃったかの?」
「ああ、あいつだけ体が小さいから、パーティーの奴らと食うときに困るんだ。あいつに合わせると俺たちには椅子もテーブルも低すぎるし、逆じゃあいつには高すぎる。ウヅキと違って大人だから抱っこするわけにもいかねえ」

 つまりどちからが食事の度に我慢しているというのが現状だったんじゃな。

「これギルドの食堂は」
「あそこはうちの経営じゃないからのぉ。じゃがウヅキ君が一番行く可能性が高そうじゃな、まあ、ニ、三提供してもいいかの。それ以上必要な場合は注文して貰わないといけないがの」

 体が小さい獣人は、冒険者登録している者はあまり多くない印象なんじゃが、実際はどうなのかの。

「それは助かる。ウヅキ以外も使っていいんだよな?」
「そうさの、必要な者が必要な時に使うのが道具というものじゃろうて」
「ああ、そうだな。ニルス会頭、ありがとうございます。絶対に気に入ってもらえる物を作ってみせますぜ」
「期待しておるよ。あ、ウヅキ君には出来上がるまで秘密じゃよ」

 ウヅキ君の喜ぶ顔が早く見たいのぉ。
 魔法講習はもう終わる時間じゃろうか、少し早いかもしれんが迎えにいこうかの。

 ウヅキ君が困った貴族冒険者に講習をじゃまされていたなんて、この時の私は知らなかったんじゃ。
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