後悔はなんだった?

木嶋うめ香

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我が儘な子供の行ないだったのです。

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「ジョゼット大丈夫?」
「はい。少しお休みすれば。お嬢様、お守り出来ず申し訳ありません」
「お守り?」
「母が、もっと注意してお傍に居ればお嬢様はお熱を出したりしなかったはずです」
「ジョゼットの怪我、ミルフィのせい?」

 静かな話し方の中に感じるのは怒りだろうか、パティの声は冷たく突き放すように聞こえてくる。やはり、ジョゼットの怪我は私を庇ったせいなのだ。
 
「いいえ、いいえ。お嬢様のお熱の原因が母なのです。母がもっと気をつけていれば。申し訳ありません。小さいお嬢様はどれだけ怖い思いをなさったか、高熱を出して何日も意識が戻らかったのです。母がもっともっと気をつけていれば」

 私が尋ねたせいだろう、パティは慌てて否定する。
 こんな会話を他人が聞いたら、パティが私を責めていると誤解しかねない。けれど。

「違うよ」
「え」
「ミルフィ知ってる。ジョゼット、ぎゅってしてくれたの。ジョゼット、ジョゼットはぎゅってしてくれたの」

 三歳の時の記憶なんて、前世だって覚えていない。
 でも、お母様から聞いた話は覚えている。
 私を庇い階段を落ちていくジョゼットを、両親も執事も見ていたのだ。
 外出するお父様を見送るため、お母様と執事が玄関にいた。
 その日寝坊したせいで、着替えが終わった頃にはお父様はもう出かける時間になっていた。
 階段を下りるときはジョゼットに抱っこされるか手を繋ぐ約束だったのに、どうしてもお父様を見送りたくて、繋いでいたジョゼットの手を振りほどき大階段を駆け下りようとして足を滑らしたのだ。
 ジョゼットが上げた悲鳴に振り反ったお父様達の目に映ったのは、私を庇う様に抱きかかえ階段を落ちてくるジョゼットの姿だったそうだ。

「ジョゼット、ぎゅって。ぎゅって」

 落ち着いていれば前世の様に話せるのに、感情が高ぶると三歳の子供に戻ってしまう。
 ぽろりと涙を一粒こぼした後は、もう駄目だった。

「ジョゼットじゃないよ。ミルフィが、ミルフィが」
「お嬢様、泣かないで下さい。どうか、泣かないで」
「パティ、ミルフィーヌは。ミルフィ!」

 ドアを開き部屋に入ってきたお母様は、泣いている私を見て駆け寄ってきた。

「ミルフィどうしたの? パティこれはどういう事」
「おか、さま、ジョゼットは」

 すんすんと鼻を鳴らし、近寄ってきたお母様に抱きつく。

「申し訳ありません奥様。ミルフィーヌ様は階段から落ちたときの事を覚えていらっしゃる様で、母の事を」
「ジョゼット怪我したの? 怪我、痛いの?」
「ミルフィーヌ泣かないで。パティ、怪我の話をしたのね」
「申し訳ございません。お嬢様が母は何故いないのかと気にされたもので。申し訳ございません、申し訳ございませんっ!」

 パティが何度も何度も頭を下げる。
 パティだってまだ子供なのに、何の非もないのに頭を下げ続けている。

「ミルフィーヌが心配する様な怪我ではないのよ。少しお休みしたら、またジョゼットはミルフィーヌのところに戻ってくるわ」

 謝り続けるパティを無視して、お母様は私がいるベッドに近寄ると細い指先で私の頬を撫でながら話し始めるから、パティは黙ってお母様の後ろに移動した。

「ガスパール先生、ジョゼットを診てくれた? ガスパール先生に、ガスパール先生に」
「ミルフィーヌ」

 パティが何を言ってもお母様は聞いてくれないだろう、そう判断した私は精一杯三歳の子供を演じながら状況を確認し始めた。
 ジョゼットが誰に見て貰ったのか、そもそも治療を受けているのかそれが気になった。
 上級治癒師のガスパール先生は、貴族専門の治癒師で治療費も高い。普通に考えれば使用人のジョゼットでは治療費を払えない。

「ミルフィーヌ。ガスパール先生はね上級治癒師なのよ。ジョゼットでは治療費は払えないわ」

 諭すように言われて私は黙るしか無かった。
 私には優しい両親も、使用人のジョゼットを上級治癒師に治療させようなどとは思わなかったのだ。
 ジョゼットは多分、使用人の彼女が払える程度の治癒師に診て貰っただけなのだろう。
 だから、怪我で何日も休み後遺症も残ったのだ。
 その未来を知っているのは私だけだ、だったらここで折れるわけにはいかなかった。
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