後悔はなんだった?

木嶋うめ香

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許すこと許さないこと6 (キム先生視点)

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「……お待たせ……おや」

 部屋に入ると、ミルフィ様はセドリック様にもたれ掛かるようしにて眠っているようだった。
 お二人が覗いていた扉が閉まってからそう時間は経っていないと思うが、目覚めたばかりだから、体が怠いのかもしれない。

「キム先生、スープの手配ありがとうございます」
「あまり召し上がれなかったようですがご気分が悪くなりましたか?」

 ミルフィ様の眠りの邪魔にならない様に、彼女にだけ防音の魔法を軽めに掛ける。
 この魔法で、私達の声はかすかに聞こえる位になっていると思う。
 ミルフィ様の様な繊細な子供は、完全に無音になるのも不安を与えることがある。それに侯爵夫人の無神経な発言で気落ちしているだろうし、気配を全て断つのは良くないだろう。

「美味しいと喜んではいましたが、お母様にあんな酷いことを言われたのですから食欲なんて……」
「そうですね」

 テーブルの上に苺が盛られたガラスの器と、サービングカートに置かれた中途半端に残ったスープの器を見ればミルフィ様の心の傷の酷さが分かる。
 魔力量の多いミルフィ様だから、生命力が減った状態で何日も目が覚めなくても生きていられた。
 意識がない状態で固形物を飲み込むことは出来ないから、魔牛の乳を様子口に含ませるのがせいぜいで、後はガスパール先生が滋養魔法を掛けて下さることで命を繋いでいた。
 ミルフィ様の魔力の多くは、食事が出来ないミルフィ様の体を守ることに使われていたと思う。本来であれば目覚めたばかりであんな風に起き上がれたりはしない筈だ。
 禁忌魔法で生命力等のすべての能力を上げたとはいえ、それはミルフィ様の体を十分に回復させるには足りなかったと思う。
 だから目覚めたばかりのミルフィ様の体の回復のため、魔力が大量に消費されている。魔力回復薬を一本飲んだ程度では十分に回復していないところに大量の魔力の消費、つまりミルフィ様はかなり空腹になっている筈なのだ。

「本来であればミルフィ様はとても空腹を感じている筈なのですが……」
「そうなのですか?」
「ええ、魔力量が多いということは魔力で体を回復出来るということなんです。だから力が強い魔法使いの体は丈夫なんですよ。セドリック様は今魔力量最大、現在の魔力量は中ですから、今後魔法を沢山使う様になると、ミルフィ様のいつもの食欲が理解出来る様になるでしょう」

 セドリック様の場合、魔力量がどれだけ増えても精神力が大だから魔力暴走の心配は少ない。
 
「そういえば生命力だけ考えていましたが、魔力も大きくなっていましたね」
「ええ、これからは今まで以上に魔力制御の訓練をしましょうね」
「はい、キム先生ミルフィーヌの精神力はどの程度増えたのでしょう。ミルフィーヌは最小だった生命力が中になったと言っていましたが、それは魔法で回復したということですよね」

 セドリック様はミルフィ様の耳に万が一にでも禁忌魔法の話が入らない様にだろうか、わざと回復と言っている様だ。
 ミルフィ様は元々魔力最大、現在の魔力量大。精神力大、現在の精神力最小、生命力大、現在の生命力中だった。それがミルフィ様がご自分で体調確認の魔法で確認したとおり現在の生命力が最小まで落ちていて、それが禁忌の魔法で中に回復したことを考えると、精神力も最小から中は難しくとも小にはなっている筈だ。
 魔力も同様に増えているだろうが、魔力暴走を起こしていないのはミルフィ様が魔力を大量に消費していたのが一つと、精神力が最小ではないからというのがもう一つの理由だと考えられる。

「ミルフィ様の周囲にだけ防音魔法を掛けていますから、会話は気になさらなくて大丈夫ですよ。念のため部屋の声が外に漏れない様にしましょうね。それでは鑑定してみます」

 セドリック様を安心させるため、防音魔法について説明しながら魔法を発動する。
 鑑定では器の大きさまで分からないが、大事なのは現在の値だ。
 魔力量だけが増え、精神力が(ないとは思うが)最小のままだと、魔力量を完全に回復させた時に魔力暴走の心配が出て来てしまう。

「防音魔法、ありがとうございます。でも鑑定なのですか、詳細確認ではなく?」
「今、ミルフィ様の魔力は体の回復に使われていますから、針を刺した程度では血は採取出来ないでしょう」

 ミルフィ様は治癒魔法を無意識に使うから、下手をすると今もそれを行っている可能性がある。

「ああ、そうですね。可哀相だけどミルフィが起きている時にしないと難しいですね」
「ええ、では鑑定します。あ、その前にセドリック様先程の様に指輪を使ってください」
「え、ああ、また解毒魔法が発動しました」
「そうですか、分かりました」

 先程パティと侯爵夫人には簡易鑑定しか使っていないが、今回は普通の鑑定の魔法を掛ける。
 
「私の鑑定で分かるのは現在の値のみです、生命力中、魔力量中、精神力は小ですね。毒の症状はありません」
「最小ではなく、小なんですね。魔力量はかなり少ない?」
「これは、現在の値ですから、ミルフィ様の魔力は回復の途中ということです」

 殺されかけたのに精神力が小というのは、体が回復すれば精神力も回復する可能性がある。
 元々精神力の器は大だったから、心身の不安がなければ現在の値は器の大きさに近くなる筈だ。
 精神力の場合は現在の値の変化が大きいのが難だが、今の状態なら魔力暴走の心配は無い筈だ。
 禁忌の魔法は現在の値を回復させるだけでなく、器も大きくするのは分かっている。
 魔力の器も大きくなっているだろうが、精神力の器も同じく大きくなっているのであれば、後はミルフィ様の現在の精神力をこれ以上減らさない様に気を付けていけばいいだけだ。
 
「良かった、それなら魔力暴走は起こらないのですね」

 鑑定結果からの推測を説明すると、セドリック様は安心したように微笑みながらミルフィ様の髪を優しく撫で始める。

「それならミルフィーヌにもう一度禁忌魔法を掛けられますか」
「先程は咄嗟にミルフィ様に使ってしまいましたが、あれは常用してはいけない魔法です」

 怒りにまかせてパティと侯爵夫人に使ったが、あれは気軽に使っていいものではない。

「でもキム先生は、先程お母様とパティに禁忌魔法を使っていましたよね」
「セドリック様」
「使っていましたよね? 僕の勘違いでしょうか」

 二人が寝室を覗いているのは気が付いていた、でも禁忌魔法を使っているのを気付かれているとは考えてもいなかったのだ。
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