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「品がないな」
ライアン様は、令嬢達を一瞬見た後そう一言言うと私の手を引いた。
「ここはどうやら空気が悪い様だね」
「ライアン様」
パチンと音が鳴りそうな程見事に、私に向かって綺麗に片目を閉じる。
世間知らずな私は、ライアン様の見た目が極上の部類に入るものだとは知らなかった。
私の世界は家とライアン様の家にほぼ限られていて、歳の近い男性は弟とライアン様とライアン様の弟君、そして季節の折に手紙のやり取りをする母方の従兄弟だけだ。
弟はお母様に似ているし、従兄弟は伯父様に似ている。
弟の顔立ちも整っているのかもしれないが、私には意地悪をするか怒鳴るかだから顔の作りを考える余裕は私にはない。
そして、ライアン様と弟君。
とても似た兄弟で、幼い頃からの付き合いだから見慣れているけれど、綺麗で凛々しいお顔をされているのが辛かった。
私は不自然極まりない長さの前髪で目元を隠している。
それがおかしなことだとは、いくら世間知らずな私でも自覚していた。
周囲にいる人達に、そんな変な姿をしている人がいないのだから理解して当然だ。
こんな変な姿で、ライアン様と一緒にいるのが苦痛だった。だからライアン様を素敵だと思う度に、婚約者が私なのは申し訳なくて仕方がなかった。
ずっとそう思っていたのに、学校に来てみたらライアン様は人気が高く、同学年だけでなく上級生達もライアン様の姿を一目見ようと教室に来る程だった。
勇気を出して前髪を上げるようになって、自分の顔の作りは兎も角普通になった事でやっと私はその事実を受け入れられた。
そうでなければ、ライアン様が歩くだけで意識を向けてくる女生達に気後れして仕方なかっただろう。
「どうしたの」
「ライアン様が素敵すぎて」
ライアン様は素敵だから、他に言い様がない。
言いながらチラリと後ろに視線を向けると、私の噂話をしていた人達は、ライアン様の「品がないな」の言葉が聞こえたのかこちらを見ながら悔しそうな顔をして睨んでいる。
「……ありがとう。リナリアは可愛いよ」
「ラ、ライ、ライアン様っ」
私の頬に顔を寄せてきて、悲鳴の様な声でライアン様の名前を呼ぶ。
私も驚いているが、まだその場にいた彼女達の悲鳴も聞こえてきた。
なんでもない事の様にライアン様は微笑んで、ちゅと私の頬に小さな音を立ててライアン様は離れていった。
こ、これは。
「ライアン様っ」
「私の妻が可愛すぎる。仮婚姻出来て幸せだよ、リナリアはどう?」
「そ、そんなの幸せに決まっていますっ」
力いっぱい、令嬢らしからぬ大声で叫んでから、はっとして口を閉じた。
「両想いで嬉しいよ。リナリア」
「……うぅ。私もです」
恥ずかしさで体が熱くなる。
ライアン様に手を引かれ早足で歩きながら、後ろを振り返るとさっきの令嬢達をの一人が床に座り込んでいた。
具合が悪くなったのだろうか、急にどうしたのだろう。
「ライアン様、ありがとうございます。でも、あまり無理はなさらないで下さいね」
私を害意から守ろうと、彼女達に向けてキツイ言葉を告げて、私とライアン様の仲が良好だと知らしめた。
言葉は兎も角後のはやり過ぎに感じるけれど、そうでもしないと私がお母様の様に無理矢理ライアン様を求めた都思われると考えたのかもしれない。
「無理はしてないよ。リナリアに素敵だと言われたからちょっと舞い上がっただけ。嫌だった?」
「あの、出来たら人目が無ければ……」
ライアン様の本心が分からないけれど、私を思っての事だと思うから拒否したりしない。
だから繋いだ手に思いを込めて、キュッと握る。
「二人きりならいい?」
「……恥ずかしくてそんなこと言えません」
周囲に見せつける為なのか、ライアン様の言葉はどこまでも甘くて私は恥ずかしさで視線を合わせられない。
「幸せだなあ、可愛いリナリアに毎日会えて話せて、こうして触れられる」
「……私もです」
睨む視線に気が付かずに、私達は手を繋ぎ歩いていた。
ライアン様は、令嬢達を一瞬見た後そう一言言うと私の手を引いた。
「ここはどうやら空気が悪い様だね」
「ライアン様」
パチンと音が鳴りそうな程見事に、私に向かって綺麗に片目を閉じる。
世間知らずな私は、ライアン様の見た目が極上の部類に入るものだとは知らなかった。
私の世界は家とライアン様の家にほぼ限られていて、歳の近い男性は弟とライアン様とライアン様の弟君、そして季節の折に手紙のやり取りをする母方の従兄弟だけだ。
弟はお母様に似ているし、従兄弟は伯父様に似ている。
弟の顔立ちも整っているのかもしれないが、私には意地悪をするか怒鳴るかだから顔の作りを考える余裕は私にはない。
そして、ライアン様と弟君。
とても似た兄弟で、幼い頃からの付き合いだから見慣れているけれど、綺麗で凛々しいお顔をされているのが辛かった。
私は不自然極まりない長さの前髪で目元を隠している。
それがおかしなことだとは、いくら世間知らずな私でも自覚していた。
周囲にいる人達に、そんな変な姿をしている人がいないのだから理解して当然だ。
こんな変な姿で、ライアン様と一緒にいるのが苦痛だった。だからライアン様を素敵だと思う度に、婚約者が私なのは申し訳なくて仕方がなかった。
ずっとそう思っていたのに、学校に来てみたらライアン様は人気が高く、同学年だけでなく上級生達もライアン様の姿を一目見ようと教室に来る程だった。
勇気を出して前髪を上げるようになって、自分の顔の作りは兎も角普通になった事でやっと私はその事実を受け入れられた。
そうでなければ、ライアン様が歩くだけで意識を向けてくる女生達に気後れして仕方なかっただろう。
「どうしたの」
「ライアン様が素敵すぎて」
ライアン様は素敵だから、他に言い様がない。
言いながらチラリと後ろに視線を向けると、私の噂話をしていた人達は、ライアン様の「品がないな」の言葉が聞こえたのかこちらを見ながら悔しそうな顔をして睨んでいる。
「……ありがとう。リナリアは可愛いよ」
「ラ、ライ、ライアン様っ」
私の頬に顔を寄せてきて、悲鳴の様な声でライアン様の名前を呼ぶ。
私も驚いているが、まだその場にいた彼女達の悲鳴も聞こえてきた。
なんでもない事の様にライアン様は微笑んで、ちゅと私の頬に小さな音を立ててライアン様は離れていった。
こ、これは。
「ライアン様っ」
「私の妻が可愛すぎる。仮婚姻出来て幸せだよ、リナリアはどう?」
「そ、そんなの幸せに決まっていますっ」
力いっぱい、令嬢らしからぬ大声で叫んでから、はっとして口を閉じた。
「両想いで嬉しいよ。リナリア」
「……うぅ。私もです」
恥ずかしさで体が熱くなる。
ライアン様に手を引かれ早足で歩きながら、後ろを振り返るとさっきの令嬢達をの一人が床に座り込んでいた。
具合が悪くなったのだろうか、急にどうしたのだろう。
「ライアン様、ありがとうございます。でも、あまり無理はなさらないで下さいね」
私を害意から守ろうと、彼女達に向けてキツイ言葉を告げて、私とライアン様の仲が良好だと知らしめた。
言葉は兎も角後のはやり過ぎに感じるけれど、そうでもしないと私がお母様の様に無理矢理ライアン様を求めた都思われると考えたのかもしれない。
「無理はしてないよ。リナリアに素敵だと言われたからちょっと舞い上がっただけ。嫌だった?」
「あの、出来たら人目が無ければ……」
ライアン様の本心が分からないけれど、私を思っての事だと思うから拒否したりしない。
だから繋いだ手に思いを込めて、キュッと握る。
「二人きりならいい?」
「……恥ずかしくてそんなこと言えません」
周囲に見せつける為なのか、ライアン様の言葉はどこまでも甘くて私は恥ずかしさで視線を合わせられない。
「幸せだなあ、可愛いリナリアに毎日会えて話せて、こうして触れられる」
「……私もです」
睨む視線に気が付かずに、私達は手を繋ぎ歩いていた。
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