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25(ライアン視点)
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「それではリナリアとライアン、前に出て今の曲の演奏をしてください」
学校で教師は生徒を名前で呼び捨てにする。
教師は下級貴族家の者に人気の職業だから、生徒の家の方が上の場合が殆どだ。
教えるものが家の格を気にしては良い授業は行えない、という考えからこの決まりが出来たのだという。
「はい、リナリア」
「はい」
リナリアに手を差し出し歩きながら、先程の廊下での出来事を思い出していた。
上級生らしい女生徒達は、どうもリナリアを待ち伏せしていたらしい。
私達が廊下の隅に立ち止まっていた彼女達の前を通り過ぎたと同時に、リナリアの悪口を言い始めたのだ。
その中の一人は、私宛に何度も婚約の打診をしていた家の令嬢だった。
私はリナリアと婚約を続けるつもりだったし、両親も躊躇いなく断ってくれていたので私には後ろ暗い気持ちは全く無い。
私の一つ上だから、もしかすると本当にリナリアの腹違いの姉モーラの友人なのかもしれないが、移動教室での授業が無い限り使わない渡り廊下に態々やって来てリナリアに悪口を聞かせようとする行いは、品が無いものでしかなかった。
リナリアは少し悲しそうな顔をした後は、私に気を遣っているのか何も言わずに歩き続けていた。
だけど私の方が我慢が出来なかった。
本当は刺激しない方が良いのかもしれないし、私の行いは頭が悪いと言われるものなのかもしれない。
でも、抗議しないのも弱腰と言われる。
だから『品がないな』と彼女達を一瞥し、リナリアを甘やかした。
それは相手に見せつける意味はあったけれど、単純にリナリアを甘やかしたいし触れたい気持ちもあった。
前髪を長くし目元を隠していてもリナリアの言動は可愛くて大好きだった。それが顔が見えて、ついでに婚約者ではなく妻になったリナリアは、可愛くて愛おしい。
殆ど家から出なかったリナリアは、だいぶ人見知りで私やシシリーを頼り切っている。
私と手を繋ぐだけで、ホッとしたような顔になるのは夫として自尊心を刺激されるし、守りたいという気持ちになってしまう。
私を頼っているリナリアの姿は本当に可愛いし、シシリーを慕う顔も可愛い。
それだと弱いだけだけれど、リナリアは自分が弱いところを自覚して一生懸命それを治そうとしている。
私やシシリーに守られているだけじゃ駄目だと頑張っているのが、健気だと思うしそういう健気なところも可愛いと思う。
というか、もうリナリアは何をしていても可愛いんだ。
正直言えば、毎日毎日リナリアを好きになっていく。
私が贈った髪留めを嬉しそうに毎日着けてくれるし、一番好きなのは私の瞳の色の様な琥珀だと、上目遣いに言う姿に『私の妻はこの国で一番可愛い』と叫びたくなる。
リナリアが可愛い、好きだと思う度に私は過去の自分を後悔する。
過去私は、いくら子供だったとはいえ、どうしてリナリアにもっと会おうとしなかったんだ。
手紙を出してもなかなか返事を貰えず、私が婚約者なのは嫌なのだろうかなんて臆病にならずにもっと積極的に会おうとすれば良かった。
大好きなのは自分だけなんだろうかとか、あんまり手紙を出すのも迷惑なんだろうかと考えず、毎日でも手紙を書いて会いたい会いたいと言い続ければ良かったと、リナリアの暮らしを詳しく聞く度に後悔している。
後悔しても遅いけれど、本当に後悔しているんだ。
だから、学校ではリナリアに悲しい思いをさせないと自分自身に誓った。
まず人目に慣れないリナリアの為、なるべく私とシシリーは常にどちらがリナリアの側にいるようにした。
父上が話していた通り、リナリアの母親のやらかした事は私達の代でも有名で、リナリアを初めて見る者達は『無理矢理婚約予定の者の仲に割り込んだ妖精姫が産んだ娘』だとして蔑みの目で見ていた。
幸いシシリーと彼女の友人は、昔から私の母がリナリアの状況をそれとなく話していたらしく、リナリアに同情的だったからシシリーと友人達と一緒にいる場合は問題が無い。
シシリーがリナリアの性格を気に入ったというのも大きい。
彼女は割と好き嫌いがはっきりしているし、ビッケ侯爵家の跡継ぎとして勉強をしている分判断力もある。
その彼女がリナリアを気に入ってくれたのは、かなりありがたい話だ。
私達の学年は、公爵家の令息令嬢がいないし、王家の方々もいない珍しい年だ。
つまり侯爵家の私やシシリーの影響力はかなり高いと言えるから、シシリーの好き嫌いの影響も強いんだ。
それに私とリナリアがすでに仮婚姻を終えているというのも、条件としては良かった。
私の両親は『妖精姫の暴挙の被害者の一人である、妖精姫に虐げられながら育った娘』という、貴族令嬢としてはどうなんだという真実を密かに広めていた。
私がずっとリナリアを大切に思っていると知っていたからこその行いなんだと、父の話と手紙から理解はしたけれど、彼女を家に迎え入れるのは侯爵家と領地を守る役目にある両親からすれば難しい事だっただろう。
多分私が知らないだけで、親族からは反対もあったと思う。
なにせ、リナリアの母の後ろには隠居の身だとしても前陛下がいる。
リナリアの母を溺愛して無理は何でも聞いていた祖母、リナリアの曾祖母はすでに亡くなっていても前陛下はまだそれなりに力がある。
「リナリア、大丈夫?」
「はい、この曲は何度も練習していますから」
先程渡り廊下で聞こえて来た陰口はリナリアに影響はしていない様で、私の好きな笑顔で返事をすると手にしていたリュートを持ち先生が用意した椅子に座る。
「準備はいいかな」
椅子に座ったリナリアに、私は横笛を構えてから目配せする。
リュートと横笛だと、主旋律は私が奏でる事になるから私が最初の音を出し演奏を始めた。
「うん、いいね」
先生は満足そうに私達を見ている。
目の前に座る級友達は、感情の見えない目で私達を見ている。
感情は見えなくても私ではなく、リナリアの行動の一つ一つを観察しているのだと分かる。
彼らはリナリアの人となりを見極めようとしているのだろう、それをひしひしと肌で感じているんだ。
学校で教師は生徒を名前で呼び捨てにする。
教師は下級貴族家の者に人気の職業だから、生徒の家の方が上の場合が殆どだ。
教えるものが家の格を気にしては良い授業は行えない、という考えからこの決まりが出来たのだという。
「はい、リナリア」
「はい」
リナリアに手を差し出し歩きながら、先程の廊下での出来事を思い出していた。
上級生らしい女生徒達は、どうもリナリアを待ち伏せしていたらしい。
私達が廊下の隅に立ち止まっていた彼女達の前を通り過ぎたと同時に、リナリアの悪口を言い始めたのだ。
その中の一人は、私宛に何度も婚約の打診をしていた家の令嬢だった。
私はリナリアと婚約を続けるつもりだったし、両親も躊躇いなく断ってくれていたので私には後ろ暗い気持ちは全く無い。
私の一つ上だから、もしかすると本当にリナリアの腹違いの姉モーラの友人なのかもしれないが、移動教室での授業が無い限り使わない渡り廊下に態々やって来てリナリアに悪口を聞かせようとする行いは、品が無いものでしかなかった。
リナリアは少し悲しそうな顔をした後は、私に気を遣っているのか何も言わずに歩き続けていた。
だけど私の方が我慢が出来なかった。
本当は刺激しない方が良いのかもしれないし、私の行いは頭が悪いと言われるものなのかもしれない。
でも、抗議しないのも弱腰と言われる。
だから『品がないな』と彼女達を一瞥し、リナリアを甘やかした。
それは相手に見せつける意味はあったけれど、単純にリナリアを甘やかしたいし触れたい気持ちもあった。
前髪を長くし目元を隠していてもリナリアの言動は可愛くて大好きだった。それが顔が見えて、ついでに婚約者ではなく妻になったリナリアは、可愛くて愛おしい。
殆ど家から出なかったリナリアは、だいぶ人見知りで私やシシリーを頼り切っている。
私と手を繋ぐだけで、ホッとしたような顔になるのは夫として自尊心を刺激されるし、守りたいという気持ちになってしまう。
私を頼っているリナリアの姿は本当に可愛いし、シシリーを慕う顔も可愛い。
それだと弱いだけだけれど、リナリアは自分が弱いところを自覚して一生懸命それを治そうとしている。
私やシシリーに守られているだけじゃ駄目だと頑張っているのが、健気だと思うしそういう健気なところも可愛いと思う。
というか、もうリナリアは何をしていても可愛いんだ。
正直言えば、毎日毎日リナリアを好きになっていく。
私が贈った髪留めを嬉しそうに毎日着けてくれるし、一番好きなのは私の瞳の色の様な琥珀だと、上目遣いに言う姿に『私の妻はこの国で一番可愛い』と叫びたくなる。
リナリアが可愛い、好きだと思う度に私は過去の自分を後悔する。
過去私は、いくら子供だったとはいえ、どうしてリナリアにもっと会おうとしなかったんだ。
手紙を出してもなかなか返事を貰えず、私が婚約者なのは嫌なのだろうかなんて臆病にならずにもっと積極的に会おうとすれば良かった。
大好きなのは自分だけなんだろうかとか、あんまり手紙を出すのも迷惑なんだろうかと考えず、毎日でも手紙を書いて会いたい会いたいと言い続ければ良かったと、リナリアの暮らしを詳しく聞く度に後悔している。
後悔しても遅いけれど、本当に後悔しているんだ。
だから、学校ではリナリアに悲しい思いをさせないと自分自身に誓った。
まず人目に慣れないリナリアの為、なるべく私とシシリーは常にどちらがリナリアの側にいるようにした。
父上が話していた通り、リナリアの母親のやらかした事は私達の代でも有名で、リナリアを初めて見る者達は『無理矢理婚約予定の者の仲に割り込んだ妖精姫が産んだ娘』だとして蔑みの目で見ていた。
幸いシシリーと彼女の友人は、昔から私の母がリナリアの状況をそれとなく話していたらしく、リナリアに同情的だったからシシリーと友人達と一緒にいる場合は問題が無い。
シシリーがリナリアの性格を気に入ったというのも大きい。
彼女は割と好き嫌いがはっきりしているし、ビッケ侯爵家の跡継ぎとして勉強をしている分判断力もある。
その彼女がリナリアを気に入ってくれたのは、かなりありがたい話だ。
私達の学年は、公爵家の令息令嬢がいないし、王家の方々もいない珍しい年だ。
つまり侯爵家の私やシシリーの影響力はかなり高いと言えるから、シシリーの好き嫌いの影響も強いんだ。
それに私とリナリアがすでに仮婚姻を終えているというのも、条件としては良かった。
私の両親は『妖精姫の暴挙の被害者の一人である、妖精姫に虐げられながら育った娘』という、貴族令嬢としてはどうなんだという真実を密かに広めていた。
私がずっとリナリアを大切に思っていると知っていたからこその行いなんだと、父の話と手紙から理解はしたけれど、彼女を家に迎え入れるのは侯爵家と領地を守る役目にある両親からすれば難しい事だっただろう。
多分私が知らないだけで、親族からは反対もあったと思う。
なにせ、リナリアの母の後ろには隠居の身だとしても前陛下がいる。
リナリアの母を溺愛して無理は何でも聞いていた祖母、リナリアの曾祖母はすでに亡くなっていても前陛下はまだそれなりに力がある。
「リナリア、大丈夫?」
「はい、この曲は何度も練習していますから」
先程渡り廊下で聞こえて来た陰口はリナリアに影響はしていない様で、私の好きな笑顔で返事をすると手にしていたリュートを持ち先生が用意した椅子に座る。
「準備はいいかな」
椅子に座ったリナリアに、私は横笛を構えてから目配せする。
リュートと横笛だと、主旋律は私が奏でる事になるから私が最初の音を出し演奏を始めた。
「うん、いいね」
先生は満足そうに私達を見ている。
目の前に座る級友達は、感情の見えない目で私達を見ている。
感情は見えなくても私ではなく、リナリアの行動の一つ一つを観察しているのだと分かる。
彼らはリナリアの人となりを見極めようとしているのだろう、それをひしひしと肌で感じているんだ。
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