【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香

文字の大きさ
5 / 119
本編

通学路での二人

しおりを挟む
「雅、足早い」

 手を繋がれ歩くいつもの道。
 いつもの慣れた通学路なのに、雅に手を繋がれて歩くと全く違う道に感じてしまう。
 遅刻ギリギリで周囲には人気がないせいか、それともドキドキとうるさい程の僕の心臓の音のせいなのか。
 判断出来ないままそれでも繋いだ手を離したくなくて、学校に着いたら日常に戻ってしまうのが怖くて、ぎゅっと雅の手を握りながらそう告げる。
 だっていつ転校生が、主人公が来るか分らない。
 雅と手をつなげるなんて、これが最後って可能性だってあるのだからもう少しこの時間を堪能したい。

「あ、悪い。早かったか」
「ごめんね、なんか早く歩くのが辛くて」
「ハル体調悪かったのに、気がつかなくて悪い。このくらいならいい?」

 ふっと、なんだよこれ、無意識なのか?
 腰を屈めて僕の顔を覗き込む様に見た後笑って、雅は歩く速度を落とす。

「そこまでゆっくりしなくても。あの、ごめんねやっぱり体調悪いみたいで、いつもならもっと早く歩けるんだけど。もうちょっとゆっくり歩いてくれたら助かる。どうせ遅刻だし、いい? 雅」

 繋いだ手をきゅっと握り、立ち止まって雅の顔を見上げる。
 身長差があるから、僕はどうやっても雅を見上げる事になる。
 可愛い女の子なら、見上げるじゃなく上目遣いという表現になるであろう行為は、僕程度の容姿ならただの見上げるだけれど。 

 主人公は明るく朗らかで、その場にいるだけで周囲を和ませる癒やしの存在として、ゲームに描かれている。男の子なのに。
 そんな人物と競うなんて、そもそも無理だ。
 僕はただのモブでしか無いし、雅は主人公と恋する設定の攻略対象者だ。
 モブの僕がいくら頑張ったとしても、主人公に勝てる術などないのだ。

「ハル、具合が悪いなら寮に戻った方がいいんんじゃ無いか?」
「そこまでじゃないけど、でも雅まで遅刻しちゃうのは駄目だよね。僕ゆっくり歩いて行くから、雅は先に行って」

 僕は雅と二人きりの時間を満喫したいけれど、雅はそうじゃないんだろう。
 心配そうに見つめる顔に、僕は罪悪感を隠して笑みを浮かべて誤魔化す。

 一緒に居たい。

 主人公と出会って、雅が恋するのは少しだけ先の未来。
 主人公に恋したら、雅は僕なんてどうでも良くなるのかもしれない。
 こうして二人で歩く事も、僕を心配することも無くなって、主人公第一になる。
 予測でしかないけれど、ゲームの進行を知っている僕にはそれは当り前に来る未来だったからこそ、今だけは一緒に居たい。

「そんな事出来るはずないだろ。ハルを置いて一人で先に行くなんて出来るか」
「遅刻しちゃうよ、そんなの駄目だよ。申し訳ないもん」
「遅刻して、それがなんだ? その程度で困る様な生活は送っていない」

 先に行ってというお願いは、雅に即却下された。
 嬉しいと思う反面。期待しちゃ駄目だとか、なんで雅はそう言うの? とか色んな気持ちが僕の頭の中を駆け巡る。

「じゃあ、具合が悪い僕に付き添ってくれたって先生に言うよ」
「先生への言い訳なんてどうでもいいが。具合、悪いのか? やっぱり寮に戻ろうか」

 僕の顔を見つめて一瞬眉をしかめた後、雅は驚くべき行動に出た。

「み、雅。なんで抱き上げてるのっ!」

 いきなり視界が変わって、僕は大声を上げてしまう。
 お姫様抱っこだよ。なんでいきなり?
 顔が赤くなる。
だって、雅の顔がすぐ傍で、僕は雅の両腕に抱かれて、これってなに? どうしたらいいのか分らないよっ!! とパニックになる。

「歩けないなら、こうするしかないだろ」
「歩けないなんて言ってないよ。ゆっくり歩こうって言っただけだってば」
「そうか? でも、心配だからこのまま行く」

 嘘だろ。
 雅は僕を横抱きにしたまま、歩き始めた。
 僕、男にしては背も低いし華奢な部類に入ると思うけれど、でも体重五十キロはあるんだよ。決して軽くない。

「雅下ろしてよ。僕重いでしょ。下ろしてってば」

 焦って雅の腕を叩く。
 学校までの道のりはまだまだあるというのに、僕を抱きかかえたままなんて歩かせられるわけがない。

「顔色良くないんだって自覚あるのか」
「少し寝不足なだけだよ。授業は受けられるし、自分で歩けるから」

 寝不足は間違い無いし、そのせいで調子もわるい。
 昨日突然前世を思い出して、雅に見つめられながら夕食を食べて、それからゲームの展開とか諸々考えてたからあまり眠れないまま朝になってしまった。
 でも、これは違う。僕はこんな事雅にしてもらえるポジションにいない。

「雅おろして、僕歩けるから」

 悲鳴にも似た叫び声で雅に告げると、彼は納得していない顔のまま、道の脇にあるベンチに腰を下ろした。

「少し休もうか。そしたら下ろしてやる」
「ベンチに座るなら、今下ろしてよ」

 僕の文句は聞こえない振りをされて、優しく僕を拘束する雅の腕の中で僕はこっそりとため息をついた。
 ベンチに座っても、雅は僕を腕に抱いたまま。こんなのクラスメイトの距離じゃない。
 こんな展開、おかしすぎる。
 僕はゲームに名前すら登場しないモブで、雅は攻略対象者。
 主人公に恋する筈の雅が、モブの僕に親切にする理由がない。

「雅」
「ん?」
「心配かけてごめん。僕もう大丈夫だよ」

 雅と距離を置かないといけない。優しすぎる雅に甘えていちゃ駄目だ。
 こんな風に優しくされたら、僕は雅を諦められなくなってしまう。
 そう決心した僕は、ベンチに座り十分程度過ごした後雅を見上げてそう告げた。

「気持ち悪いとか、頭が痛いとかないのか」
「うん。大丈夫」
「学校休んでもいいんじゃないか? 俺が寮まで連れて行くし」
「大袈裟だってば。雅って結構過保護なの?」

 誤解するなと自分に言い聞かせながら、それでも雅の腕の中に居られる今を止められない。
 雅って結構体つきががっしりしてる。僕を抱き上げる腕も体も、僕とは違うしっかりと大人の男って感じがする。
 所謂お姫様抱っこで歩いて居たときも、ベンチに座る今も不安は感じない位しっかりと抱き上げられている。それを自覚した僕は、雅への思いを諦めようと決心しながら雅に見とれる自分を止められずにいた。

「ハルが心配掛けるのが悪いんだよ」
「それは謝るけど、でも雅過保護過ぎる」

 苦情を言いながら、でもこの時間をまだ続けたい。
 そんな矛盾が心の中にあって、強気には出られない。
 強気どころか、雅の背中に僕の両腕を伸ばしたいという欲望を隠すので精一杯だった。

「過保護で悪いか。ハルが心配なんだから仕方ないだろ」
「雅は優しいなあ。それって雅のお家の教育方針なのかな」

 誤解するな。
 雅はただ優しいだけだ。
 誤解するな。自分にそう言い聞かせる。
 僕だけ特別なわけじゃないんだ。

「優しくなんてない。ただ、心配なだけだ」

 僕を腕に抱いたまま離そうとしない雅は、何故か苦しそうにそう言うと僕の頭をそっと撫でて「具合悪くないならもう行こうか」と立ち上がった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

【完結】我が兄は生徒会長である!

tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。 名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。 そんな彼には「推し」がいる。 それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。 実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。 終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。 本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。 (番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

処理中です...