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本編
答えは単純
「どうして? 春が何故いま問題になるんだ」
僕の部屋の物と比べる必要を感じない程座りごこちの良いソファーに腰を下ろした僕は、対面に不機嫌そのものの顔で座る佐々木様の視線に負けない様に目を見開いて、だけどもう負け決定な気持ちでポーカーフェイスを意識していた。
「問題にならないと、どうして思えるのか僕には分かりませんが」
うわ、喧嘩売ってるよ僕。こんなんで生きて部屋を出られるんだろうか、不安になるけれど今は強気でいくしかない。
「私は愚かなのだろうか。君が何を言いたいのか理解出来ないな」
長い足をゆったりと組んで、佐々木様は困惑したという風なポーズを取る。
「今日の舞はとても傷付いていて、お昼休みに泣きながら美空とは佐々木様が舞に与えてくれた名前だと教えてくれました」
さっき僕に暴力を振るったのは余裕の無さからだと思うのに、今目の前にいる佐々木様は余裕綽々に見える。それがむかついた僕は、わざと舞が泣きながら僕に話したのだと強調しながら話す事にした。
「だから、何故舞が泣く。しかもお前なんかの前で」
教室ではお目にかかれない顔、それが僕の前に現れた。
さっきの暴力だって、普段の佐々木様からは想像出来ない。
彼は沈着冷静、そう皆に思われているだろう人だ。
「理由はお話します、でもその前に教えて下さい。転校生の木村春はどうしてあなたの名前を呼ぶ様になったのですか、しかもあなたも藤四郎君と呼ぶのを許している。それは何故ですか」
ゲームではある程度佐々木様の好感度を上げると、名前呼びイベントが起きる。
春という名前が女の子みたいで好きでは無いと言う主人公に、佐々木様が春というのは寒い冬から緑が芽吹き始める良い季節で、自分は一番好きだと話す。そこであなたが好きな季節が僕の名前で嬉しいと言う主人公に、名前を呼んでいいかと佐々木様が言うんだ。
「理由は簡単だ。あいつが平民だからだ」
「え」
それイベントじゃ無い。
「私以外、川島と信也が居たな。川島はもう春を名前で呼んでいた。春が俺の名前を藤四郎君と呼んで、それを信也がたしなめた。でも、春は平民ではクラスメイトなだけの親しさでも名前で呼び合うのが当り前だと言い始めて、私も信也もそんな気軽な考えが新鮮に思えて春になら名前を呼ばせてもいいかと。そんな簡単な理由だった」
「そうですか。佐々木様の約束は確かに誤解しそうな人にはでしたから、それなら当てはまらないのかもしれないですね」
イベントじゃ無いやり取りで名前を呼び始めたのか。
それが分った僕は脱力しながら、八つ当たり気味に佐々木様へ攻撃を始めた。
そんな単純な理由で、舞を泣かせたのか。
少しは考えろ馬鹿。
だけど、好感度が上がっての理由じゃ無いなら、勝機はある。
「どういう意味だ」
「自分の名前を呼ぶ許可を与える事で、未来があると誤解しそうな相手には名前を呼ばせたりしないから。美空は誰に何を言われても自分を藤四郎と呼べ。そう約束したのは覚えていますか」
舞が言っていた幼い頃の約束を、僕は佐々木様を睨み付ける様に言う。
優しくて気弱な舞は、僕が学園で一番に親しくなった友達だ。
寮に入った日に僕は学園内を探検していて道に迷ったんだ。そこで僕は舞と出会った。
彼は優しく寮まで案内してくれて、良かったらこれから仲良くして欲しいとお願いする僕に嬉しそうに頷いてくれた。
入学式で雅と出会って一目惚れして、凄く素敵な人が居たんだという話も舞にだけはした。雅と互いに名前を呼び合う様になって、周囲から嫌みを言われる様になって落ち込む僕を舞は慰めてくれたし、自分も佐々木様との仲を周囲に嫌みを言われていると教えてくれた。
「勿論覚えている。舞が私の名前を呼ぶのは恐れ多いと言うから、そう説得したんだ」
「ならどうして、木村春を名前で呼ぶんですか。何故藤四郎と彼に呼ばせてるんですか。舞がそれを知って、どれだけ傷付いたか。どれだけ悲しんだか想像もしなかったんですか」
「舞が、悲しむ」
「今日も、昨日もお昼休みあなたは舞の顔を見もしなかった」
「舞を、昼休み?」
「そんなに転校生の彼はあなたにとって魅力的でしたか」
そうなんだろうか。数回会話しただけで、主人公は他の存在を忘れる程の存在に変わるのか。
答えを聞きたいようで、でも聞きたくない。
だって、佐々木様がそうなら、雅だって同じ様に思うかもしれない。
「魅力的、そんな事は無い。あれはただの」
「ただの」
「ただ、この学園に転入出来る程優秀な平民が珍しかっただけだ。名前を呼ぶ許可を与えたのも深い意味はない。あれはそれで勘違いをする様なものではないと、何故私はそう思ったのだろう」
「佐々木様?」
なんだろう、様子がおかしい。
僕に説明しながら、佐々木様は不自然だと首を振り頭を掻きむしる。
「昼休みの食堂で、いつもなら舞が来るのを待っているんだ。舞は普段私が傍にいるのを恐れ多いからと喜ばない。でも、食堂で目が合うといつも嬉しそうにするから、私はその舞の顔が好きで、だから」
それってつまり、佐々木様は舞に会えるのが嬉しくて仕方ないって事だよね。
それって好きって事でいいんだよね。
わくわくしながら、僕は佐々木様の言葉の続きを待った。
「でも昨日も今日も、舞が来ることすら忘れていた。春を前にすると春のことしか考えられなくなる。それはおかしいと今は思うのに。どうしてなんだ」
佐々木様の衝撃的な言葉に僕は背筋が寒くなるのだった。
僕の部屋の物と比べる必要を感じない程座りごこちの良いソファーに腰を下ろした僕は、対面に不機嫌そのものの顔で座る佐々木様の視線に負けない様に目を見開いて、だけどもう負け決定な気持ちでポーカーフェイスを意識していた。
「問題にならないと、どうして思えるのか僕には分かりませんが」
うわ、喧嘩売ってるよ僕。こんなんで生きて部屋を出られるんだろうか、不安になるけれど今は強気でいくしかない。
「私は愚かなのだろうか。君が何を言いたいのか理解出来ないな」
長い足をゆったりと組んで、佐々木様は困惑したという風なポーズを取る。
「今日の舞はとても傷付いていて、お昼休みに泣きながら美空とは佐々木様が舞に与えてくれた名前だと教えてくれました」
さっき僕に暴力を振るったのは余裕の無さからだと思うのに、今目の前にいる佐々木様は余裕綽々に見える。それがむかついた僕は、わざと舞が泣きながら僕に話したのだと強調しながら話す事にした。
「だから、何故舞が泣く。しかもお前なんかの前で」
教室ではお目にかかれない顔、それが僕の前に現れた。
さっきの暴力だって、普段の佐々木様からは想像出来ない。
彼は沈着冷静、そう皆に思われているだろう人だ。
「理由はお話します、でもその前に教えて下さい。転校生の木村春はどうしてあなたの名前を呼ぶ様になったのですか、しかもあなたも藤四郎君と呼ぶのを許している。それは何故ですか」
ゲームではある程度佐々木様の好感度を上げると、名前呼びイベントが起きる。
春という名前が女の子みたいで好きでは無いと言う主人公に、佐々木様が春というのは寒い冬から緑が芽吹き始める良い季節で、自分は一番好きだと話す。そこであなたが好きな季節が僕の名前で嬉しいと言う主人公に、名前を呼んでいいかと佐々木様が言うんだ。
「理由は簡単だ。あいつが平民だからだ」
「え」
それイベントじゃ無い。
「私以外、川島と信也が居たな。川島はもう春を名前で呼んでいた。春が俺の名前を藤四郎君と呼んで、それを信也がたしなめた。でも、春は平民ではクラスメイトなだけの親しさでも名前で呼び合うのが当り前だと言い始めて、私も信也もそんな気軽な考えが新鮮に思えて春になら名前を呼ばせてもいいかと。そんな簡単な理由だった」
「そうですか。佐々木様の約束は確かに誤解しそうな人にはでしたから、それなら当てはまらないのかもしれないですね」
イベントじゃ無いやり取りで名前を呼び始めたのか。
それが分った僕は脱力しながら、八つ当たり気味に佐々木様へ攻撃を始めた。
そんな単純な理由で、舞を泣かせたのか。
少しは考えろ馬鹿。
だけど、好感度が上がっての理由じゃ無いなら、勝機はある。
「どういう意味だ」
「自分の名前を呼ぶ許可を与える事で、未来があると誤解しそうな相手には名前を呼ばせたりしないから。美空は誰に何を言われても自分を藤四郎と呼べ。そう約束したのは覚えていますか」
舞が言っていた幼い頃の約束を、僕は佐々木様を睨み付ける様に言う。
優しくて気弱な舞は、僕が学園で一番に親しくなった友達だ。
寮に入った日に僕は学園内を探検していて道に迷ったんだ。そこで僕は舞と出会った。
彼は優しく寮まで案内してくれて、良かったらこれから仲良くして欲しいとお願いする僕に嬉しそうに頷いてくれた。
入学式で雅と出会って一目惚れして、凄く素敵な人が居たんだという話も舞にだけはした。雅と互いに名前を呼び合う様になって、周囲から嫌みを言われる様になって落ち込む僕を舞は慰めてくれたし、自分も佐々木様との仲を周囲に嫌みを言われていると教えてくれた。
「勿論覚えている。舞が私の名前を呼ぶのは恐れ多いと言うから、そう説得したんだ」
「ならどうして、木村春を名前で呼ぶんですか。何故藤四郎と彼に呼ばせてるんですか。舞がそれを知って、どれだけ傷付いたか。どれだけ悲しんだか想像もしなかったんですか」
「舞が、悲しむ」
「今日も、昨日もお昼休みあなたは舞の顔を見もしなかった」
「舞を、昼休み?」
「そんなに転校生の彼はあなたにとって魅力的でしたか」
そうなんだろうか。数回会話しただけで、主人公は他の存在を忘れる程の存在に変わるのか。
答えを聞きたいようで、でも聞きたくない。
だって、佐々木様がそうなら、雅だって同じ様に思うかもしれない。
「魅力的、そんな事は無い。あれはただの」
「ただの」
「ただ、この学園に転入出来る程優秀な平民が珍しかっただけだ。名前を呼ぶ許可を与えたのも深い意味はない。あれはそれで勘違いをする様なものではないと、何故私はそう思ったのだろう」
「佐々木様?」
なんだろう、様子がおかしい。
僕に説明しながら、佐々木様は不自然だと首を振り頭を掻きむしる。
「昼休みの食堂で、いつもなら舞が来るのを待っているんだ。舞は普段私が傍にいるのを恐れ多いからと喜ばない。でも、食堂で目が合うといつも嬉しそうにするから、私はその舞の顔が好きで、だから」
それってつまり、佐々木様は舞に会えるのが嬉しくて仕方ないって事だよね。
それって好きって事でいいんだよね。
わくわくしながら、僕は佐々木様の言葉の続きを待った。
「でも昨日も今日も、舞が来ることすら忘れていた。春を前にすると春のことしか考えられなくなる。それはおかしいと今は思うのに。どうしてなんだ」
佐々木様の衝撃的な言葉に僕は背筋が寒くなるのだった。
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