【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香

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本編

焦ったり落ち込んだり

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「あーーぁ。最低」

 部屋に逃げ帰った僕は、ドアに『清掃不要』のプレートを付けると中に入り鍵を閉めドアガードも掛けた。

「雅に声も掛けずに逃げてくるとか、馬鹿でしょ。迷惑掛けたんだから謝らないとっ」

 雅が優しいのをいいことに抱っこされたまま会話する馬鹿もいなければ、そのまま寝ちゃう大馬鹿もいない。
 その上雅に黙って帰っちゃうとか、いやメイドさんには声掛けたけど、でも、でもだ。

「テンパりすぎだよ、僕」

 あんな風に腕の中で目を覚ますとか、最初で最後なんだなあとか。
 雅の事好きなのに、雅は主人公を好きになっちゃうんだよなあとか。
 友達レベルであんなに親切で優しくて甘々なら、恋人になったらどれだけ甘々にしてくれちゃうんだろうとか。
 それは僕じゃなく、主人公だけが知る雅なんだろうなとか。

「雅が無駄に優しすぎるんだよ」

 ポイポイと脱いだ服をクリーニングボックスに放り込んで、棚からフェイスタオルを取るとスマホを片手にバスルームに入る。
 昨日部屋を出る前にお風呂の予約入れてたから、バスタブにはお湯が張られている。
 寮のお風呂は給湯予約でバスタブにお湯を張った後は、お湯を抜くまで設定温度に保温し続けてくれる。

「ふう」

 バスタブの側にある小物置き用の棚にスマホとタオルを置いて、髪と体を洗うとバスタブに入る。

「ううぅ。お風呂に入ってなかったのに、汗臭かったりしてなかったかな、雅に臭いとか思われてたらどうしようっ」

 ただでさえ図々しく他人の部屋で眠り込んでるのに、汗臭いとかだったら最悪すぎる。
 夏じゃないから、大丈夫だろうか。

「雅起きたかな電話して謝った方が、でもまだ寝てたりしたら……」

 電話をする決心がつかないまま、お湯に浸かったままタオルで手を拭いてスマホを取ろうとしたら手が滑った。

「うわっ」

 画面が光ってた気がするし、バイブが振動してた様な気もする。
 だけど、確認する前にスマホはバスタブの中に滑り落ちてしまった。

「うそっ、まって、え。防水だったっけ?」

 慌てて拾ったスマホは、画面が暗かった。

「ええと、こういう時は電源いれずに出来るだけ水分を拭き取るんだっけ?」

 通電した時に基盤に水分が付いてるとショートするんだっけ?
 いや、もう画面が暗いから無理?

「ショップ」

 島の中には携帯のショップもあるし、画面破損程度の修理はお店でやってくれると聞いたことがある。
 濡らしてすぐならデータは大丈夫かもしれない。

「あーっ、もうっ!馬鹿すぎ!!」

 スマホを掴んだまま立ち上がりバスルームから出ると、急いで着替えて髪を適当にドライヤーで乾かす。

「ええと、鍵、財布。身分証明書」

 コートを着こんでポケットに色々詰め込んで部屋を出ると廊下をダッシュした。

「おや、早いね」
「おはようございまーすっ!急いでるのでスミマセンっ!」

 いつもなら呑気に立ち話する管理人さんに、ペコリと頭を下げて寮を出ると、そのまま走る。
 電話帳とかトークアプリは保存サービスにデータが残ってるからいいんだ。
 問題は写真データだ。
 先月あったマラソン大会の時、雅をこっそり撮ってた奴保存サービスのデータに同期してなかったんだよ。
 僕は丁度風邪ひいててマラソン大会に出てなかったから、見学席からゴールする雅とか他の人と話をしてる所とか沢山撮ってたのに。
 雅が滅茶苦茶格好良くて、風邪ひいて良かったって喜んでたのに。
 なんですぐデータ同期しなかったんだろ。
 自動同期設定だってあるのに、面倒がってやってなかったから。

「データだけなんとか、無事でいてよぉ」

 無理かな、無理だよね。
 でも希望はあるかも。

「神様お願いっ」

 悲壮感漂わせながら、僕は開店したばかりのショップに駆け込んだ。

★★★★★★

「やっぱり駄目だった」

 新しいスマホが入った紙袋を抱えて、僕はしょんぼりとショップを出た。
 携帯ショップは開店時間を少し過ぎたばかりだというのにかなり混んでいて、一時間近く待たされた後やっと僕の番になった。水没した時の状況を説明し修理出来そうかデータだけでも何とか復旧出来ないかの確認を経て、新しいスマホ購入となった。
 同期してなかったデータは、やっぱり復旧出来なかった。
 悲しみにくれながら、店員さんが色んなスマホを紹介してくれるのを聞いて、勧められるまま最新機種を購入した。
 前世はそんなにお金に余裕なかったから、スマホの性能より本体代重視なところがあったけれど、今世はお金を気にせず購入出来る。勿論お小遣いの範囲ではあるけれど使える額が違う。
 今回購入したスマホは前世では絶対に選ばないだろう、処理能力が高くカメラが無茶苦茶高性能らしい。店員さんが詳しく説明してくれたんだけど、如何せん僕はこの手の話が苦手でちっとも理解出来なかった。
 担当してくれた店員さんはとても親切な人で、丁寧に些細な事も説明してくれた。僕が操作に不慣れだから上手く設定出来るか心配だと不安を口にすると「店の規則で店内ではアプリのインストールや設定のお手伝いは出来ませんが、こちらにご連絡頂ければ営業時間後にお伺いしてお手伝い致しますよ」と名刺をくれた。
 さすがに悪いからそういうのはお願いしたりしないけれど、機械音痴に優しい人が担当してくれて助かった。
 高性能カメラってどの程度凄いのか全く理解出来なかったし、使いこなせる自信もないけれどこれで雅の写真沢山撮れたら嬉しいなあ。

「色、合わせちゃった」

 雅が持ってるスマホは本体がシャンパンゴールドで、縁がゴールドでカバーは付けていない。
 僕のは同じ様なシャンパンゴールドにピンクゴールドの縁だから、一見ペアな感じだけど手帳タイプのスマホケースも買ったから誰にもバレないだろう。
 部屋に戻ったらまずはカバーを付けて、充電しないといけない。

「この位いいよね。データ消えちゃたんだもん」

 部屋に戻ったら、アプリ色々ダウンロードしなきゃいけないのが憂鬱だ。
 この手の作業苦手なんだよなぁ。
 上手く出来る自信がない。
 ガックリと落ち込みながら、休日を楽しんでいる様子の人達を避けつつ寮へと歩く。
 テスト前だというのに、結構皆外出しているなと自分の事を棚に上げて思う。
 そう言えば商業施設のエリアも結構混んでいたし、携帯ショップも混んでいた。
 来週末はテストも終わってるし映画でも観たいな、テスト開けだから混むかな。
 でも誰誘おう、雅とか? 勉強教えてくれる約束だったし、そのお礼とか理由にして誘ったらどうかな。
 島の映画館、一番後ろの席になっちゃうけれどカップルボックスっていうスペースがあるんだよね。ちょっと料金が高いんだけど、ソファーにテーブルがある個室っぽい造りで周囲からは中が見えないけれど、スクリーンを観る分には支障がないらしい。
 軽食も頼めるし他人の目も気にしなくていいから家でリラックスしている様な感覚で、ソファーにゆったり座って映画を楽しめると聞いた時から、いつか雅と行けたらなあって思ってたんだ。

「まあ無理だよね」

 雅が最近特に優しいからせめて一度位夢を叶えてくれるかも、なんて期待したくなるけれど主人公がいるんだ。無理に決まってる。
 虚しい妄想は止めて早く部屋に戻ろう。
 あ、コンビニでおやつ買って帰ろうかな。
 視界に入ったコンビニの中に入ろうとした瞬間、肩を掴まれた。

「ハルッ」
「え?」

 振り向いたら、雅が立っていた。
 髪を乱して、額に汗が浮かんでてなんだか色っぽい。
 あれ? これ何かのご褒美スチルですか? なんてとぼけた思考に陥る位僕は雅に見とれてしまったのだった。
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