【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香

文字の大きさ
87 / 119
本編

騙されていた人達3

しおりを挟む
「これは」

 大林君の写真を見て声を上げたのは、安田明だ。
 挨拶をされていない人を敬称を付けて呼びたくない。
 木村春に『君』を付けているのは、一応挨拶をしている為の礼儀としてだ。

「昨日店の防犯カメラから起こした写真です。当店では二、三千万の腕時計等も複数取り扱っていますし、宝石に至っては億の値が付くものもございますから、防犯カメラも高性能の物を備え付けているんですよ」

 にこにこと笑っているのに、何か恐い雰囲気が漂う大林君の笑顔は、それでも僕を守ってくれているんだと分かる。

「商品を手にした人物がいる場合、予備のカメラも作動し四方八方から撮影が開始する上、カメラのズーム機能も同時に作動します。ほら、どんな腕時計かまではっきりと分かりますよね」

 嬉しそうに隣の人の腕にすがりながら腕時計を見てい る。
 木村君の表情は、甘くて弱々しい。買ってもらうのが申し訳ないと言うようにも見える。
 大林君の話の通り、何人にも買わせているのだとしたらこれ演技してるのかな?

「同じもの、だ」
「なんて言われて店に行ったんですか?」

 そんなに簡単に百万以上するものを買い与えるものなんだろうか?
 疑問に思ってつい聞いてしまった。

「小姓にしたいと言ったら、自分は断っているのに無理矢理小姓手続きをしようとしている方がいて平民の自分では手続きを止められない。本当は俺がいいけれどお付き合い出来ないから、せめて思い出になるものが欲しいと」
「それで腕時計を?」
「前に腕時計を持つのが夢だったと聞いた事があったんだ。施設ではそういうものは贅沢品だと言われて禁止されていたからと。だから小姓に出来たら買ってあげようと思っていたんだ」

 しょんぼりとしている彼に、大林君は大袈裟なため息をつく。

「それで店に連れていき、商品を選ばせたと?」
「そうだよ。あの店、値段は店員に聞かないと分からないだろ?遠慮せずに選んで欲しかったから丁度良かったんだ」

 なんだろう、この人大丈夫なのかなと心配になる。
木村君を信用しすぎだ。

「小姓手続きなんて完了していないのですから、あなたも出してしまえば良かったのではありませんか?」
「父が許さないのは分かっていたんだ。でも春君が望んでくれるなら父を説得しようと思っていたんだ」
「なにもかも甘すぎですね。安田伯爵もお気の毒に、教育失敗だとお嘆きになるのではありませんか」

 大林君の呆れた様な声に、彼は崩れ落ちる様にしゃがみこんでしまった。

「ハル!」

 この人どうしたらいいんだろ、床にしゃがみこみ頭を抱えている人を放っておくわけにもいかないよね。
 大林君に判断を仰ぐのも違うだろうし、仕方ないからサロンに連れていくしかないかと考えていたら、背後から名前を呼ばれて振り返ると雅と佐々木様が走ってくるのが見えた。

「雅っ」

 僕と舞を守るように立っていた四人が、さっと道を開けたから舞と二人で駆け寄るとそれぞれしっかりと抱き止められた。
 あぁ、雅だ。この腕の中は安心できる。

「なにがあった、あいつは何を」
「あのね、僕達が木村君に嫌がらせをしているって言い掛かりをつけられて」

 木村君の名前を出した途端、雅が呆れた顔をしてため息をつき、舞を抱き締め頭を撫でていた佐々木様の方から動物の唸り声の様な低い声が聞こえてきた。

「体育館のところで木村君が泣いていたみたいなんだけど、雅達見た?」
「見たんじゃなく、俺とあいつに声を掛けてきたから川島に押し付けて来た」
「川島君に?」

 あれ? でも一人でいたんだよね?
 だから彼が苛められてるって話を聞いたんだよね?

「川島も正気に戻ったんだろ」
「正気に?どうして」

 大林君があの写真を川島君にも見せたのかな。

 雅は僕の旦那様になった。
 佐々木様は舞の旦那様になった。
 谷崎様は退学して、森本様は実家に呼び出されたらしい。
 そして最後の攻略対象者である川島君も離れてしまった?

「皆が離れたから、他の人を?」

 振り返りると、しゃがみこんだまま動かない。
 彼が正義感で僕に苦情を言いに来なければ、木村君の嘘を知らないままだったかもしれない。

 だとしたら、彼の正義感は彼を助けたのかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

【完結】我が兄は生徒会長である!

tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。 名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。 そんな彼には「推し」がいる。 それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。 実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。 終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。 本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。 (番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

処理中です...