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第1章 偽王太子断罪編
第3話
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そして現在に至る。
トームスの自供を聞き終わるとエドワルドは得心がいったという風に頷いた。
「なるほど。付け焼き刃で貴公子の所作まではなかなか身につかぬからな。元貴族であれば、城の者が見抜けなかったのも頷ける。しかし突然フィルミナに婚約破棄を告げたのはなぜだ? 適当に挨拶をかわして中座すればよかったであろう?」
「適当ですか? 殿下はいつもそのように思われていたのですか?(もう泣いちゃうからね)」
「そのようなことはないぞ。私はフィルミナだけにはいつも真剣なのだ」
エドワルドは頬を膨らませているフィルミナに今までの毅然とした態度を崩してなだめにかかる。
「まあ。そんな殿下も素敵ですわ(わたくし以外には真剣ではないのかしら? かわいそう)」
瞬間、会場中の貴族令嬢の視線がフィルミナではなく、エドワルドに集まった。今にも視線で殺しそうである。フィルミナの顔だけをうっとりと見つめていたエドワルドは気づかなかったが。
その後、フィルミナを蹴落として王太子妃の座を狙うものはいなかったという。
トームスはエドワルドを気の毒なものでも見るような目で見てため息を吐く。
「なあ、王太子様。その女のどこがいいんだ? そいつ変人で性悪だぞ」
「何を言う! フィルミナほど可愛い女はこの世におらぬといっても過言でないほど可愛いのだぞ!」
力説するエドワルドにトームスはもう1度ため息を吐く。
「その女に婚約破棄を告げたのは、王太子様あんたのためだと思ったからだ」
エドワルドは眉をしかめて「どういうことだ?」と聞き返す。
「その女……フィルミナはな。昔、俺が貴族だった頃に父親と一緒に家に来たことがあったんだ。遊び相手をしてやったってのに俺を池に突き落としやがったんだ」
トームスの回想を要約するとこんなくだりだ。
トームスがまだ貴族だった頃、フィルミナは父であるヴィルシュタイン公爵とともにトームスの家にやってきたことがあった。ヴィルシュタイン公爵と話をしている間、フィルミナに庭園を案内するようにトームスは父に頼まれたのだ。相手は公爵令嬢で王太子殿下の婚約者だからくれぐれも失礼のないようにするんだぞと、念を押された。
父に言われたとおり、トームスはフィルミナを庭園へ連れ出して案内をしていた。だが、フィルミナはトームスが話しかけても読んでいた本から目を離さず、器用に歩きながら読書をしていたという。
どんな本を読んでいるか気になったトームスはちらっと本のタイトルを見る。本のタイトルは『美しいつむじの見分け方』。トームスがフィルミナを変人認定したのはこの時だったと思われる。
池のほとりに差しかかった時に、本に夢中だったフィルミナは目の前の池に気づかず、落ちそうになっていた。咄嗟に止めようとトームスは「危ない!」とフィルミナの腕を引っ張ったのだ。
しかし、池に落ちたのはトームスだった。腕を引っ張られ驚いたフィルミナが「この無礼者!」と振り向きざまトームスの襟をつかみ投げ飛ばしたのである。本は離さず片手で……。
そのまま足早にフィルミナは屋敷の中へ戻っていってしまった。なんとか自力で池から這い上がったものの直後にヴィルシュタイン公爵家の馬車が走り出す音が聞こる。
急いで父の元に行き、事の顛末を話した。だが、相手は公爵家。こちらは子爵家で立場が弱いため、無かったことにされた。
トームスはその夜から熱を出して3日間寝込むハメになったという。
「あの時の恨みは忘れてないぜ」
昔を思い出し、怒りのあまり爪が掌に食い込むほど両手を握りしめたトームスだ。彼が語り終わった後、会場中がしんと静まりかえる。静けさを破ったのはエドワルドだった。
「子供の頃の事ではないか。そんな些細な出来事でフィルミナを変人で性悪呼ばわりするか」
「王太子殿下に姿は似ていても、つむじが違ううえに器の大きさまで違いますわ(そういえばそんなことがありましたわね)」
エドワルドとフィルミナの言葉にトームスの怒りが頂点に達した。
「些細な出来事だと!? そのせいで俺は水が怖くて風呂嫌いになったんだ! 領地の名物温泉が好きだったのに入れなくなっちまったんだぞ! どうしてくれるんだ!」
すっかり風呂嫌いになってしまったトームスを風呂へ入れるのに、母と侍女が苦労したのはまた別の話である。
トームスと出会った時、フィルミナは本に夢中でトームスがエドワルドに似ていることには気づかなかった。気づいていれば悲劇はおきなかったであろう。おそらく……。
「それは……なんか……気の毒だったな。フィルミナも謝罪をしなさい」
エドワルドは怒りのあまり息が荒くなったトームスの肩をぽんと慰めるように叩く。
「不可抗力とはいえ申し訳ないことをしましたわ(だってビックリさせたあなたがいけないのよ。思わず習ったばかりの護身術を使っちゃいましたわ。てへ)」
フィルミナは謝罪したが本音がだだ漏れなので、全く謝っていないと思うのは気のせいではないだろう。
「普通びっくりしただけで人を投げ飛ばすか!? 王太子様よ。こんな引きこもりの性悪女と結婚したらこの国が滅んじまうぞ。悪いことは言わないから婚約破棄しちまえよ」
「婚約破棄などせぬ!」
婚約破棄をすすめるトームスに対してエドワルドははっきりと否定した。
「フィルミナの事を知らぬ者は変わり者だの性格が悪いだの勝手なことを言っているようだが、私は3歳からフィルミナをずっと見てきた。フィルミナは素直で可愛い。一生手放す気はない!」
エドワルドはフィルミナに向き合い手を握る。
「フィルミナ、愛している。引きこもりでも構わない。一生私のそばにいて欲しい」
「殿下、わたくしも愛しております。初めてお会いした時から殿下の妃になるのを心待ちにしておりました(妃教育は死ぬほどキツかったけれど)」
会場上の人々を無視して2人の世界に浸っていたエドワルドとフィルミナだったが、コホンと咳払いの横やりが入る。フィルミナの父ヴィルシュタイン公爵だ。
「お取込中申し訳ございませんが、殿下。しかるべき書類をお持ちいたしました」
会場上が「しかるべき書類?」「婚約破棄の書類では?」「まさか?」とざわめく。
ヴィルシュタイン公爵の後ろには衛兵に連れられた男が1人いる。男は泣きながらトームスに顔を向けた。
「トームス、ごめん! 王太子をお前だと勘違いして声をかけたら捕まっちまったんだ」
男は御者の代わりをしてくれたトームスの仲間だった。馬車で待っている時に視察から帰ってきたエドワルドを見かけた男は「おい、トームス。うまくいったのか?」と声をかけてしまったのだ。
「王太子様がなんで俺の名を知っているのか不思議に思ってたんだ。そういうことだったのか。いいんだ、ジン。計画は失敗したよ。大人しく捕まろう」
トームスは仲間が捕まってしまったことで観念した。仲間を見捨てて1人で逃げるわけにはいかない。
「捕まえる? 何のことだ?」
フィルミナの手を握りしめたままエドワルドが真剣な表情で意外なことを口走った。
「不敬罪で牢に入れるって言ってただろう? 宰相が持ってる書類は逮捕状じゃないのか?」
トームスは訳が分からないという顔だ。
「お前がフィルミナを処刑すると申すからだ。思わず感情的になってしまった。お前か仲間がすでに盗みを働いていたならば逮捕状を出していたが、そうではないだろう?」
王宮舞踏会が終わったら金目の物を物色する予定だったので、トームスはまだ何も盗んではいない。
「この書類は君の爵位継承の書類だよ、トームス。君の叔父上は先日事故で亡くなった。奥方との間に子供はいないので継承するのは君しかいない」
トームスは驚いて目を見開いた。自分を貧民街の孤児院に放り込んだあの叔父は死んだのか。
「行方が分からなくてやっと探し出したと思ったら、まさか王宮舞踏会で殿下の影武者をしていたとは」
ヴィルシュタイン公爵はやれやれと肩をすくめる。
「影武者? 偽物ではありませんの、お父様?(影武者ならつむじも一緒にすればいいのに)」
あくまでつむじにこだわりがあるフィルミナである。
「ちょっと待て。いかにも俺を断罪する流れだったよな? なんで影武者に話がすり替わってるんだ?」
トームスは眉をしかめて、エドワルドに詰め寄る。エドワルドは相変わらずフィルミナの手を離さない。
「余興だ。最近、フィルミナに借りた本が悪役断罪ものでな。面白くてハマってしまった。おまえが私にすり替わ……影武者でそれらしいことをしていたので思いついた」
「ろくなことを考えない王太子様だな。この国大丈夫か?」
トームスは諦めたようにがっくりとうなだれる。
「トームス。本日より爵位を継承し、トーマス・マルク子爵として王太子付き侍従を命じる」
ヴィルシュタイン公爵が爵位継承の書類を掲げ宣言すると、会場から盛大な拍手がトームスに贈られた。
「おい! 爵位継承はともかく王太子付き侍従なんて職業は嫌だぞ!! 勝手に締めくくってるんじゃねえ!」
トームスの叫びは拍手にかき消され、人々の耳には届かなかった。エドワルドの「影武者ができて便利になるな」という声も届かなかった。フィルミナとトームス以外を除いて……。
やっと手を離してもらったフィルミナはトームスに近づき耳元で囁く。
「これで謝罪はいたしましたわよ」
「お……おまえ……覚えてたのか?」
フィルミナはもちろん覚えていなかった。正確には王宮舞踏会前にヴィルシュタイン公爵がトームスの正体に気づき、急いでフィルミナに真相を伝えたのだ。但し、つむじの話は本当だが……。
エレナには事前にこっそりと話を合わせるようにと、侍女を通して打ち合せをしておいた。あまり社交の場に出てこないので知られていないが、実はエレナとフィルミナは仲が良いのだ。
華のある笑顔でフィルミナは微笑む。
「偽物の王太子殿下との婚約なんてこちらから願い下げですもの」
トームスの受難はここから始まる。
トームスの自供を聞き終わるとエドワルドは得心がいったという風に頷いた。
「なるほど。付け焼き刃で貴公子の所作まではなかなか身につかぬからな。元貴族であれば、城の者が見抜けなかったのも頷ける。しかし突然フィルミナに婚約破棄を告げたのはなぜだ? 適当に挨拶をかわして中座すればよかったであろう?」
「適当ですか? 殿下はいつもそのように思われていたのですか?(もう泣いちゃうからね)」
「そのようなことはないぞ。私はフィルミナだけにはいつも真剣なのだ」
エドワルドは頬を膨らませているフィルミナに今までの毅然とした態度を崩してなだめにかかる。
「まあ。そんな殿下も素敵ですわ(わたくし以外には真剣ではないのかしら? かわいそう)」
瞬間、会場中の貴族令嬢の視線がフィルミナではなく、エドワルドに集まった。今にも視線で殺しそうである。フィルミナの顔だけをうっとりと見つめていたエドワルドは気づかなかったが。
その後、フィルミナを蹴落として王太子妃の座を狙うものはいなかったという。
トームスはエドワルドを気の毒なものでも見るような目で見てため息を吐く。
「なあ、王太子様。その女のどこがいいんだ? そいつ変人で性悪だぞ」
「何を言う! フィルミナほど可愛い女はこの世におらぬといっても過言でないほど可愛いのだぞ!」
力説するエドワルドにトームスはもう1度ため息を吐く。
「その女に婚約破棄を告げたのは、王太子様あんたのためだと思ったからだ」
エドワルドは眉をしかめて「どういうことだ?」と聞き返す。
「その女……フィルミナはな。昔、俺が貴族だった頃に父親と一緒に家に来たことがあったんだ。遊び相手をしてやったってのに俺を池に突き落としやがったんだ」
トームスの回想を要約するとこんなくだりだ。
トームスがまだ貴族だった頃、フィルミナは父であるヴィルシュタイン公爵とともにトームスの家にやってきたことがあった。ヴィルシュタイン公爵と話をしている間、フィルミナに庭園を案内するようにトームスは父に頼まれたのだ。相手は公爵令嬢で王太子殿下の婚約者だからくれぐれも失礼のないようにするんだぞと、念を押された。
父に言われたとおり、トームスはフィルミナを庭園へ連れ出して案内をしていた。だが、フィルミナはトームスが話しかけても読んでいた本から目を離さず、器用に歩きながら読書をしていたという。
どんな本を読んでいるか気になったトームスはちらっと本のタイトルを見る。本のタイトルは『美しいつむじの見分け方』。トームスがフィルミナを変人認定したのはこの時だったと思われる。
池のほとりに差しかかった時に、本に夢中だったフィルミナは目の前の池に気づかず、落ちそうになっていた。咄嗟に止めようとトームスは「危ない!」とフィルミナの腕を引っ張ったのだ。
しかし、池に落ちたのはトームスだった。腕を引っ張られ驚いたフィルミナが「この無礼者!」と振り向きざまトームスの襟をつかみ投げ飛ばしたのである。本は離さず片手で……。
そのまま足早にフィルミナは屋敷の中へ戻っていってしまった。なんとか自力で池から這い上がったものの直後にヴィルシュタイン公爵家の馬車が走り出す音が聞こる。
急いで父の元に行き、事の顛末を話した。だが、相手は公爵家。こちらは子爵家で立場が弱いため、無かったことにされた。
トームスはその夜から熱を出して3日間寝込むハメになったという。
「あの時の恨みは忘れてないぜ」
昔を思い出し、怒りのあまり爪が掌に食い込むほど両手を握りしめたトームスだ。彼が語り終わった後、会場中がしんと静まりかえる。静けさを破ったのはエドワルドだった。
「子供の頃の事ではないか。そんな些細な出来事でフィルミナを変人で性悪呼ばわりするか」
「王太子殿下に姿は似ていても、つむじが違ううえに器の大きさまで違いますわ(そういえばそんなことがありましたわね)」
エドワルドとフィルミナの言葉にトームスの怒りが頂点に達した。
「些細な出来事だと!? そのせいで俺は水が怖くて風呂嫌いになったんだ! 領地の名物温泉が好きだったのに入れなくなっちまったんだぞ! どうしてくれるんだ!」
すっかり風呂嫌いになってしまったトームスを風呂へ入れるのに、母と侍女が苦労したのはまた別の話である。
トームスと出会った時、フィルミナは本に夢中でトームスがエドワルドに似ていることには気づかなかった。気づいていれば悲劇はおきなかったであろう。おそらく……。
「それは……なんか……気の毒だったな。フィルミナも謝罪をしなさい」
エドワルドは怒りのあまり息が荒くなったトームスの肩をぽんと慰めるように叩く。
「不可抗力とはいえ申し訳ないことをしましたわ(だってビックリさせたあなたがいけないのよ。思わず習ったばかりの護身術を使っちゃいましたわ。てへ)」
フィルミナは謝罪したが本音がだだ漏れなので、全く謝っていないと思うのは気のせいではないだろう。
「普通びっくりしただけで人を投げ飛ばすか!? 王太子様よ。こんな引きこもりの性悪女と結婚したらこの国が滅んじまうぞ。悪いことは言わないから婚約破棄しちまえよ」
「婚約破棄などせぬ!」
婚約破棄をすすめるトームスに対してエドワルドははっきりと否定した。
「フィルミナの事を知らぬ者は変わり者だの性格が悪いだの勝手なことを言っているようだが、私は3歳からフィルミナをずっと見てきた。フィルミナは素直で可愛い。一生手放す気はない!」
エドワルドはフィルミナに向き合い手を握る。
「フィルミナ、愛している。引きこもりでも構わない。一生私のそばにいて欲しい」
「殿下、わたくしも愛しております。初めてお会いした時から殿下の妃になるのを心待ちにしておりました(妃教育は死ぬほどキツかったけれど)」
会場上の人々を無視して2人の世界に浸っていたエドワルドとフィルミナだったが、コホンと咳払いの横やりが入る。フィルミナの父ヴィルシュタイン公爵だ。
「お取込中申し訳ございませんが、殿下。しかるべき書類をお持ちいたしました」
会場上が「しかるべき書類?」「婚約破棄の書類では?」「まさか?」とざわめく。
ヴィルシュタイン公爵の後ろには衛兵に連れられた男が1人いる。男は泣きながらトームスに顔を向けた。
「トームス、ごめん! 王太子をお前だと勘違いして声をかけたら捕まっちまったんだ」
男は御者の代わりをしてくれたトームスの仲間だった。馬車で待っている時に視察から帰ってきたエドワルドを見かけた男は「おい、トームス。うまくいったのか?」と声をかけてしまったのだ。
「王太子様がなんで俺の名を知っているのか不思議に思ってたんだ。そういうことだったのか。いいんだ、ジン。計画は失敗したよ。大人しく捕まろう」
トームスは仲間が捕まってしまったことで観念した。仲間を見捨てて1人で逃げるわけにはいかない。
「捕まえる? 何のことだ?」
フィルミナの手を握りしめたままエドワルドが真剣な表情で意外なことを口走った。
「不敬罪で牢に入れるって言ってただろう? 宰相が持ってる書類は逮捕状じゃないのか?」
トームスは訳が分からないという顔だ。
「お前がフィルミナを処刑すると申すからだ。思わず感情的になってしまった。お前か仲間がすでに盗みを働いていたならば逮捕状を出していたが、そうではないだろう?」
王宮舞踏会が終わったら金目の物を物色する予定だったので、トームスはまだ何も盗んではいない。
「この書類は君の爵位継承の書類だよ、トームス。君の叔父上は先日事故で亡くなった。奥方との間に子供はいないので継承するのは君しかいない」
トームスは驚いて目を見開いた。自分を貧民街の孤児院に放り込んだあの叔父は死んだのか。
「行方が分からなくてやっと探し出したと思ったら、まさか王宮舞踏会で殿下の影武者をしていたとは」
ヴィルシュタイン公爵はやれやれと肩をすくめる。
「影武者? 偽物ではありませんの、お父様?(影武者ならつむじも一緒にすればいいのに)」
あくまでつむじにこだわりがあるフィルミナである。
「ちょっと待て。いかにも俺を断罪する流れだったよな? なんで影武者に話がすり替わってるんだ?」
トームスは眉をしかめて、エドワルドに詰め寄る。エドワルドは相変わらずフィルミナの手を離さない。
「余興だ。最近、フィルミナに借りた本が悪役断罪ものでな。面白くてハマってしまった。おまえが私にすり替わ……影武者でそれらしいことをしていたので思いついた」
「ろくなことを考えない王太子様だな。この国大丈夫か?」
トームスは諦めたようにがっくりとうなだれる。
「トームス。本日より爵位を継承し、トーマス・マルク子爵として王太子付き侍従を命じる」
ヴィルシュタイン公爵が爵位継承の書類を掲げ宣言すると、会場から盛大な拍手がトームスに贈られた。
「おい! 爵位継承はともかく王太子付き侍従なんて職業は嫌だぞ!! 勝手に締めくくってるんじゃねえ!」
トームスの叫びは拍手にかき消され、人々の耳には届かなかった。エドワルドの「影武者ができて便利になるな」という声も届かなかった。フィルミナとトームス以外を除いて……。
やっと手を離してもらったフィルミナはトームスに近づき耳元で囁く。
「これで謝罪はいたしましたわよ」
「お……おまえ……覚えてたのか?」
フィルミナはもちろん覚えていなかった。正確には王宮舞踏会前にヴィルシュタイン公爵がトームスの正体に気づき、急いでフィルミナに真相を伝えたのだ。但し、つむじの話は本当だが……。
エレナには事前にこっそりと話を合わせるようにと、侍女を通して打ち合せをしておいた。あまり社交の場に出てこないので知られていないが、実はエレナとフィルミナは仲が良いのだ。
華のある笑顔でフィルミナは微笑む。
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