悪役令嬢(仮)に断罪された偽王太子は本物王太子に影武者としてこき使われる

雪野 みゆ

文字の大きさ
9 / 24
第2章 学園編

第9話

しおりを挟む
 昼の休憩を告げる鐘がなると、エレナは席で教科書を片付けているフィルミナの元に行く。

「フィルミナ様、本日は中庭でランチをいただきませんこと? うちの料理長が腕によりをかけて作ってくれましたの? フィルミナ様にも召し上がっていただきたいですわ」

「わたくしは食堂でテイクアウトをしようと思っていたのだけれど、お言葉に甘えてごちそうになろうかしら?(エレナのところのお料理は美味しいのよね)」

 エレナは周りを見渡して、エドワルドとトームスを探す。

「あら? エドワルド様とトームスはおりませんのね」

「先ほど2人で出ていったわ。お仕事の話ではないかしら?」

「そうですか。4人分あるのですけれど。では、先に準備をさせましょう」

 エレナは教室の入り口で待機していた侍女に目配せをする。あらかじめ打ち合わせをしてあったのだろう。侍女は一礼すると準備するため中庭へと向かった。


 フィルミナとエレナは放課後に寄り道する例のパンケーキの店での話をしながら、中庭へと向かう。

「ご覧になって。四重奏カルテットのお二人よ」

「フィルミナ様はお美しいし、エレナ様はお可愛いし、素敵ね」

 すれ違う生徒たちがフィルミナとエレナに賛辞をおくる。ちなみに四重奏とはエドワルドとトームス、フィルミナとエレナの4人のことである。いつも一緒に行動しているので、誰ともなく四重奏と呼ぶようになった。
 
 4人とも成績優秀で美男美女。1人ビン底メガネがいるが、鼻と口の形は良いので、あのメガネをはずせば美形だろうと令嬢方は勝手に思っている。全生徒の注目の的なのだが、当人たちはどこ吹く風である。

 フィルミナとエレナはすれ違う生徒たちのつむじをチェックすることを忘れない。今日の考察の主題は『つむじ』である。ほんの一瞬で気づかれることなく、つむじを見るのだ。もはや名人芸と言っても過言ではない。

 中庭に続く回廊に差し掛かった時に、庭にある木の下にいる2人に目がとまる。エドワルドとアンジェリカだった。

「あれはアンジェリカ様とエドワルド様……ではありませんわね」

「トームスですわね(つむじが逆向きよ。まだまだね)」

 エドワルドに変装した(といってもメガネをはずしただけだが)トームスとアンジェリカが何事か話をしている。フィルミナとエレナは近くの木陰に移動するとそば耳を立てる。

「エドワルド様。よろしければ今日の放課後お茶をご一緒していただけないでしょうか?」

「すまぬが、今日はどうしても抜け出せぬ用事があるのだ」

 アンジェリカはしゅんとすると「どうしてもですか?」と上目使いで偽エドワルドを見る。なんとも庇護欲をそそる様だ。

(うっ。断わりづらいけど、今日は絶対パンケーキを食うんだ!)

「女性には優しく」と父に言われて育ったが、パンケーキの誘惑が勝った。

「すまぬ、アンジェリカ嬢。また埋め合わせはしよう」

(殿下がな)

 心の中でこっそりとつぶやく。

「絶対ですよ」

 アンジェリカはにこりと微笑むと駆け出し、回廊の奥へと消えていった。トームスはアンジェリカが去ったのを見届けるとふぅと息を吐く。

「そこの木陰にいる2人と木の上にいる殿下、出てこいよ」

 フィルミナとエレナは木陰から出ていき、エドワルドは木からひらりと飛び降りる。ビン底メガネをかけている。

「エド、そこにいらっしゃいましたの(木登りは得意ですものね)」

「フィーこそかくれんぼが上手だね」

「いや。わりとバレバレだったぞ」

「あら? 気配は隠していましたのに」

 それぞれ会話が合っているようでかみ合っていない。エレナが中庭の反対側を見ると侍女が待機している。ランチの用意ができたようだ。

「用意ができたようですわ。さあ、まいりましょう」



「ところでエドとトームスはどうして入れ替わっていましたの?(このテリーヌは絶品ですわ)」

 美味しいランチに舌鼓を打ちながら、フィルミナが首を傾げる。

「殿下に頼まれたんだよ。アンジェリカ嬢に呼び出されたから、影武者の出番だとか言って。なあ」

 豪快にサンドウィッチを頬張りながら、エドワルドに同意を求める。

「フィー以外の女性と2人きりになる気はないからな」

 トームスとは正反対に上品にサンドウィッチを食べるエドワルドは眉間にしわを寄せている。フィルミナに見られたことがいやだったようだ。サンドウィッチは美味しいらしく「美味だ」とつぶやいている。

「まあ、エド。わたくしのことを想ってですのね(うれしい)」

「フィーは本当に可愛い。抱きしめていいか?」

「だから、いちゃつくのは2人きりの時にしろ!」

 今にもフィルミナを抱きしめそうなエドワルドを窘める。

「人の恋路は邪魔してはいけませんわよ」

 静かにランチを味わっていたエレナに、大きな鶏の肉を口に突っ込まれたトームスは噛み砕くのに時間がかかった。

 午後の授業が始まる予鈴が鳴るまで、楽しい? ランチの時間を過ごした4人だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...