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第2章 学園編
第10話
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「う~ま~い~!」
パンケーキを一口食べたトームスはあまりの美味しさに衝撃を受け、素直に言葉に出す。個室とはいえ声が店中に響き渡りそうだ。
放課後、待ちに待ったパンケーキの店でイチゴとラズベリー、ブルーベリーがふんだんに使われた生クリームたっぷりのパンケーキを頼んだトームスである。
「良かったですわね。アンジェリカ様の誘いを断ってまで、食べに来た甲斐がありましたか?」
エレナがにっこりと黒い微笑みを浮かべる。
「お前の言葉って時々毒があるよな」
「貴族の駆け引きで培ったものが板についてしまいました」
「本音だだ漏れのフィルミナの方がまだマシだと思えるのは気のせいか?」
「トームス。甘いもの好きなのも良いが、あまり太らないように節制しろ」
コーヒーを飲みながら、エドワルドは呆れた顔でトームスに注意する。フィルミナはエドワルドの隣でパンケーキを食べながら、本を読んでいる。器用ではあるが、貴族令嬢としてはどうなのか?
「少しくらい太ったって大丈夫だろ」
エドワルドの紫水晶の瞳がきらっと光り、トームスを睨む。
「おしおきされたいのか?」
ぎくりとするトームスである。それまで本に夢中だったフィルミナが好奇心いっぱいの目で2人を見つめる。
「まあ、どんなおしおきですの?(ムチでバシバシされるのかしら? わくわく)」
「ついに擬音まで本音に漏れるようになったのか? 殿下のおしおきは怖いんだぞ」
トームスがエドワルドの侍従になりたての頃、真っ先にオーグランド王国の法律を叩き込まれた。毎日エドワルドの元にくる書類の中には、違法な案件が紛れ込んでいることもある。侍従は書類の優先順位をつける際に、そういった案件を見極める必要があるのだ。
トームスは覚えが早く、暗記力もずば抜けて良かったので法律はすぐに覚えたのだが、ある日間違えて違法な案件をエドワルドの処理する書類の中に入れてしまった。
そのミスのおしおきとして、かえるの着ぐるみを着せられ、バルコニーに吊るされて法律を暗唱させられたのである。間違えればもう1度最初から暗唱するのだが、幸い1度で終えることができた。
トームスはフィルミナのせいで水が怖くなったのだが、もう一つ苦手なものがあった。それがかえるである。
「あまりの恐怖で逆に頭が冴えたんだ。1度で終わって良かったぜ」
フィルミナは頭の中のメモにトームスの苦手なものを書き加えた。いつか使えるかもしれないと思ったからだ。エレナに至っては、必死に笑いをこらえて下を向いている。
「私はあと2、3度くらい暗唱するのかと思ったぞ。1度で一言一句間違わず暗唱し終わった時には思わず舌打ちをしてしまった」
「俺、殿下にフィルミナは相応しくないって言ったけど、取り消す。お前ら似た者同士でお似合いだよ」
「今日の考察をいたしましょう。題材は『つむじ』ですわ」
司会はエレナだ。トームスはそういえばとフィルミナに借りた本『美しいつむじの見分け方』を鞄から出し、フィルミナに返す。
「この本くだらない内容かと思ってたけど、読んでみたら結構面白かったぞ」
「そうでしょう。読破したのですね(読まないと思ってたのに意外と真面目ですわね)」
お世辞ではなく、面白かった。つむじの定義から始まり、人のつむじはいろいろな形があること、ちょっと薄くなってきたら頭皮を刺激するマッサージの方法まで書かれていた。
「こういう面白い本なら歓迎だ」
トームスの賛辞に気を良くしたフィルミナはふわりと微笑む。
「では、わたくしの蔵書を見せてあげましょう。今度のお休みに3人をお茶会に招待しますわ」
「それは楽しみだ」
エドワルドがフィルミナの手を握る。しばし二人は見つめ合う。トームスとエレナは二人の世界から戻ってくるまで、辛抱強く待ち続けた。
つむじの考察が始まる。
「同じ巻き髪でもエレナとアンジェリカ様のつむじは形が違います」
「最初は似たような髪質だと思ってたんだけど、つむじの位置が違うよな。髪色のせいかと思ってたんだけど」
「それもありますが、エレナのつむじはぬいぐるみのようにふわりと可愛く巻いているのですが、アンジェリカ様のつむじは微妙に曲がっていてまとまりがありません」
フィルミナは本音で語っているので、いつものように前後に本音のつぶやきがない。
トームスはエレナのつむじを覗く。ふわりとした金色の巻き毛がきれいに渦を作っている。
「本当だ。可愛いな」
エレナの顔が少し赤く染まる。エドワルドはおや? と何かを思いつく。言葉には出さないが……。
「トームス、レディの頭を覗きこむのは紳士としてマナー違反だぞ」
「あ! エレナ悪かったな」
「いえ」とふいと横を向くエレナだった。
「フィルミナ様の御髪は見事なストレートのプラチナブロンドですが、つむじも美しくて羨ましいですわ」
「そんなことはないわ。エレナの巻き毛とつむじも可愛くて、わたくしこそ羨ましいわ」
前後に本音のつぶやきがないので、本当にエレナを可愛いと思っているのだろう。
「友情っていいなあ」
「私が友になってやろう。おまえは気味が悪いほど私とそっくりだからな。親近感がある。外では殿下ではなく、名前で呼ぶと良い」
「なんか嬉しいような……嬉しくないような……ありがたくお受けします」
「「でも、一番のつむじは殿下(エド)ですわね。天使の輪のような芸術的な渦ですもの」」
女性2人はエドワルドとトームスが友情を温めあっている間もつむじの話で盛り上がっていたようだ。2人の声が見事にハモっている。
「トームスは色も髪質もエドと同じですけれど、つむじは似てませんわね(最初薄かったせいかしら?)」
「……つむじで人を見分けれるのはお前くらいだからな」
つむじの考察はまだまだ続くようだ。
パンケーキを一口食べたトームスはあまりの美味しさに衝撃を受け、素直に言葉に出す。個室とはいえ声が店中に響き渡りそうだ。
放課後、待ちに待ったパンケーキの店でイチゴとラズベリー、ブルーベリーがふんだんに使われた生クリームたっぷりのパンケーキを頼んだトームスである。
「良かったですわね。アンジェリカ様の誘いを断ってまで、食べに来た甲斐がありましたか?」
エレナがにっこりと黒い微笑みを浮かべる。
「お前の言葉って時々毒があるよな」
「貴族の駆け引きで培ったものが板についてしまいました」
「本音だだ漏れのフィルミナの方がまだマシだと思えるのは気のせいか?」
「トームス。甘いもの好きなのも良いが、あまり太らないように節制しろ」
コーヒーを飲みながら、エドワルドは呆れた顔でトームスに注意する。フィルミナはエドワルドの隣でパンケーキを食べながら、本を読んでいる。器用ではあるが、貴族令嬢としてはどうなのか?
「少しくらい太ったって大丈夫だろ」
エドワルドの紫水晶の瞳がきらっと光り、トームスを睨む。
「おしおきされたいのか?」
ぎくりとするトームスである。それまで本に夢中だったフィルミナが好奇心いっぱいの目で2人を見つめる。
「まあ、どんなおしおきですの?(ムチでバシバシされるのかしら? わくわく)」
「ついに擬音まで本音に漏れるようになったのか? 殿下のおしおきは怖いんだぞ」
トームスがエドワルドの侍従になりたての頃、真っ先にオーグランド王国の法律を叩き込まれた。毎日エドワルドの元にくる書類の中には、違法な案件が紛れ込んでいることもある。侍従は書類の優先順位をつける際に、そういった案件を見極める必要があるのだ。
トームスは覚えが早く、暗記力もずば抜けて良かったので法律はすぐに覚えたのだが、ある日間違えて違法な案件をエドワルドの処理する書類の中に入れてしまった。
そのミスのおしおきとして、かえるの着ぐるみを着せられ、バルコニーに吊るされて法律を暗唱させられたのである。間違えればもう1度最初から暗唱するのだが、幸い1度で終えることができた。
トームスはフィルミナのせいで水が怖くなったのだが、もう一つ苦手なものがあった。それがかえるである。
「あまりの恐怖で逆に頭が冴えたんだ。1度で終わって良かったぜ」
フィルミナは頭の中のメモにトームスの苦手なものを書き加えた。いつか使えるかもしれないと思ったからだ。エレナに至っては、必死に笑いをこらえて下を向いている。
「私はあと2、3度くらい暗唱するのかと思ったぞ。1度で一言一句間違わず暗唱し終わった時には思わず舌打ちをしてしまった」
「俺、殿下にフィルミナは相応しくないって言ったけど、取り消す。お前ら似た者同士でお似合いだよ」
「今日の考察をいたしましょう。題材は『つむじ』ですわ」
司会はエレナだ。トームスはそういえばとフィルミナに借りた本『美しいつむじの見分け方』を鞄から出し、フィルミナに返す。
「この本くだらない内容かと思ってたけど、読んでみたら結構面白かったぞ」
「そうでしょう。読破したのですね(読まないと思ってたのに意外と真面目ですわね)」
お世辞ではなく、面白かった。つむじの定義から始まり、人のつむじはいろいろな形があること、ちょっと薄くなってきたら頭皮を刺激するマッサージの方法まで書かれていた。
「こういう面白い本なら歓迎だ」
トームスの賛辞に気を良くしたフィルミナはふわりと微笑む。
「では、わたくしの蔵書を見せてあげましょう。今度のお休みに3人をお茶会に招待しますわ」
「それは楽しみだ」
エドワルドがフィルミナの手を握る。しばし二人は見つめ合う。トームスとエレナは二人の世界から戻ってくるまで、辛抱強く待ち続けた。
つむじの考察が始まる。
「同じ巻き髪でもエレナとアンジェリカ様のつむじは形が違います」
「最初は似たような髪質だと思ってたんだけど、つむじの位置が違うよな。髪色のせいかと思ってたんだけど」
「それもありますが、エレナのつむじはぬいぐるみのようにふわりと可愛く巻いているのですが、アンジェリカ様のつむじは微妙に曲がっていてまとまりがありません」
フィルミナは本音で語っているので、いつものように前後に本音のつぶやきがない。
トームスはエレナのつむじを覗く。ふわりとした金色の巻き毛がきれいに渦を作っている。
「本当だ。可愛いな」
エレナの顔が少し赤く染まる。エドワルドはおや? と何かを思いつく。言葉には出さないが……。
「トームス、レディの頭を覗きこむのは紳士としてマナー違反だぞ」
「あ! エレナ悪かったな」
「いえ」とふいと横を向くエレナだった。
「フィルミナ様の御髪は見事なストレートのプラチナブロンドですが、つむじも美しくて羨ましいですわ」
「そんなことはないわ。エレナの巻き毛とつむじも可愛くて、わたくしこそ羨ましいわ」
前後に本音のつぶやきがないので、本当にエレナを可愛いと思っているのだろう。
「友情っていいなあ」
「私が友になってやろう。おまえは気味が悪いほど私とそっくりだからな。親近感がある。外では殿下ではなく、名前で呼ぶと良い」
「なんか嬉しいような……嬉しくないような……ありがたくお受けします」
「「でも、一番のつむじは殿下(エド)ですわね。天使の輪のような芸術的な渦ですもの」」
女性2人はエドワルドとトームスが友情を温めあっている間もつむじの話で盛り上がっていたようだ。2人の声が見事にハモっている。
「トームスは色も髪質もエドと同じですけれど、つむじは似てませんわね(最初薄かったせいかしら?)」
「……つむじで人を見分けれるのはお前くらいだからな」
つむじの考察はまだまだ続くようだ。
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