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第2章 学園編
第11話
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庭園から戻ってきたトームスとエレナの態度はなんとなくぎこちない。互いに目を合わせようとしない。怪訝に思いながらもフィルミナは自分の書斎へと誘った。
「これはすごいな!」
フィルミナの書斎に入った瞬間、圧倒されたトームスは思わず感嘆の声をあげる。
壁は全て天井まで書架となっており、本がぎっしりと並べられている。ウォールナットの書架に対して、天井は高く、明るい緑のカーペットが敷かれているため、暗い印象はない。
「この書斎にはわたくしのお気に入りの本を集めております。種類別に並べてありますの」
「本の整理をするのが大変そうだよな。使用人がやってるんだろう?」
トームスは書架をぐるりと見渡し、目算してみる。ゆうに二万冊はありそうだ。
「いいえ。本の管理は全てわたくしがしております(掃除は使用人がしてますけど)」
「……お前、意外とマメなんだな」
「本を一冊一冊、棚に収める作業は楽しいですから」
フィルミナは口元に手をあてて、ふふふと微笑む。
「気になった本がありましたら、手にとってみて構いませんよ(汚さないでね)」
棚を一列ずつ見ながら進んでいくと、ある本が目につく。『美しいつむじの見分け方』である。横に陳列されている本を見ると『つむじ百選』とか主につむじに関する本がずらっと並んでいた。
(つむじの本ってこんなにあるのか。それにしてもよく集めたよな)
「フィルミナ様。これは隣国リンドストーンのロマンス小説ですか?」
「ええ。リンドストーン王国に外交に行った時に、お父様がお土産に買ってきてくださったの。面白かったわ」
エレナは本を取ろうと手を伸ばすが、届かない。梯子を探していると上から手が伸びる。
「これでいいか?」
トームスが本を取ってエレナに渡す。エドワルドとトームスは同じ顔で身長も同じなのだが、2人ともこの国の男性の平均身長より高い。
「え、ええ。ありがとう」
エドワルドがフィルミナにこっそり耳打ちする。
「いい感じだと思わないか?」
フィルミナも背伸びするとエドワルドに耳打ちする。
「ええ。先ほどはなんかぎこちなかったですけど」
お互いに顔を見合わせて、いたずらっぽく微笑む。
「エレナ、その本よろしかったら貸しますわ。連載ものなので十冊ありますの」
「十冊もあると持ち帰りが大変だな。トームス持って行ってやると良い」
「フィルミナ様。ありがたくお借りいたしますが、これくらいでしたら自分で持てますわ」
「いや。いいぞ。結構重いだろう。馬車まで運んでやるよ」
トームスは棚から本を取り出すと、書斎から運びだそうとする。エレナは後を追いかける。
「あ、あの……申し訳ありません。半分持ちますわ」
「いいから甘えとけ」
手を伸ばしたエレナから遠ざけるようにひょいと横に本を移す。エレナは目を瞠る。
「軽々と持ちますのね?」
「あ、ああ。まあ庶民の時は力仕事をしてたこともあるからな」
「初めてお会いした時に殿下の手にしては荒れているなとは思いましたけど、そういうことでしたの」
トームスは「やっぱりな」とひとりごちる。
「何か?」
「お前初めから俺が殿下じゃないって気づいていただろう? なんでわざわざ王宮まで連れていってくれたんだ?」
「ああ。そのことでしたら……」
エレナは語り始めた。
フィルミナと仲が良いエレナは、時々ヴィルシュタイン公爵邸に遊びに行っている。主にお茶をしながらロマンス小説の考察をしたり、つむじの話をしたりだが。
ある日、エドワルドがフィルミナに会いに来た時、一緒にお茶会をしたのだが、その時にマルク子爵家の話が出たのだ。マルク子爵家を乗っ取ったトームスの叔父が不慮の事故で亡くなってしまったので、爵位継承をさせるべく、追い出されてしまった先代子爵の息子を探していると。
ヴィルシュタイン公爵は子供の頃に会ったトームスがエドワルドに似ていることを知っていた。成長してもおそらくエドワルドと姿が似ているだろうと王都中を探し回っているとも。
「その話を聴いておりましたので、貴方が馬車に乗り込んできた時にもしやと思ったのです。王宮で貴方が着替えている間にヴィルシュタイン公爵にお話しました」
「それで俺が殿下のふりしてる間に裏でいろいろ工作されてたってわけか」
急ごしらえのわりには爵位継承の書類はしっかり作成されていた。あらかじめ用意されていたとしたら納得がいく。
「最初はどこか庶民の名残りがありましたけど、すっかり貴公子らしくなりましたね。言葉使いは悪いですけど」
「お前に言われたくねえよ。腹黒令嬢。殿下に貴公子の所作を叩き込まれたんだよ。おしおきされながらな」
思い出しても身の毛がよだつ。かえるの着ぐるみでバルコニーに吊るされたり、真下が池の木に吊るされたり。
エレナはコホンと可愛らしく咳払いをする。
「その……今日は申し訳ありませんでした。少しばかり熱くなってしまいました」
「ああ。アンジェリカ嬢のことか。殿下と俺で対策は考えてある。心配するな」
ふっとエレナは微笑み「そうですか」と頷いた。
「これはすごいな!」
フィルミナの書斎に入った瞬間、圧倒されたトームスは思わず感嘆の声をあげる。
壁は全て天井まで書架となっており、本がぎっしりと並べられている。ウォールナットの書架に対して、天井は高く、明るい緑のカーペットが敷かれているため、暗い印象はない。
「この書斎にはわたくしのお気に入りの本を集めております。種類別に並べてありますの」
「本の整理をするのが大変そうだよな。使用人がやってるんだろう?」
トームスは書架をぐるりと見渡し、目算してみる。ゆうに二万冊はありそうだ。
「いいえ。本の管理は全てわたくしがしております(掃除は使用人がしてますけど)」
「……お前、意外とマメなんだな」
「本を一冊一冊、棚に収める作業は楽しいですから」
フィルミナは口元に手をあてて、ふふふと微笑む。
「気になった本がありましたら、手にとってみて構いませんよ(汚さないでね)」
棚を一列ずつ見ながら進んでいくと、ある本が目につく。『美しいつむじの見分け方』である。横に陳列されている本を見ると『つむじ百選』とか主につむじに関する本がずらっと並んでいた。
(つむじの本ってこんなにあるのか。それにしてもよく集めたよな)
「フィルミナ様。これは隣国リンドストーンのロマンス小説ですか?」
「ええ。リンドストーン王国に外交に行った時に、お父様がお土産に買ってきてくださったの。面白かったわ」
エレナは本を取ろうと手を伸ばすが、届かない。梯子を探していると上から手が伸びる。
「これでいいか?」
トームスが本を取ってエレナに渡す。エドワルドとトームスは同じ顔で身長も同じなのだが、2人ともこの国の男性の平均身長より高い。
「え、ええ。ありがとう」
エドワルドがフィルミナにこっそり耳打ちする。
「いい感じだと思わないか?」
フィルミナも背伸びするとエドワルドに耳打ちする。
「ええ。先ほどはなんかぎこちなかったですけど」
お互いに顔を見合わせて、いたずらっぽく微笑む。
「エレナ、その本よろしかったら貸しますわ。連載ものなので十冊ありますの」
「十冊もあると持ち帰りが大変だな。トームス持って行ってやると良い」
「フィルミナ様。ありがたくお借りいたしますが、これくらいでしたら自分で持てますわ」
「いや。いいぞ。結構重いだろう。馬車まで運んでやるよ」
トームスは棚から本を取り出すと、書斎から運びだそうとする。エレナは後を追いかける。
「あ、あの……申し訳ありません。半分持ちますわ」
「いいから甘えとけ」
手を伸ばしたエレナから遠ざけるようにひょいと横に本を移す。エレナは目を瞠る。
「軽々と持ちますのね?」
「あ、ああ。まあ庶民の時は力仕事をしてたこともあるからな」
「初めてお会いした時に殿下の手にしては荒れているなとは思いましたけど、そういうことでしたの」
トームスは「やっぱりな」とひとりごちる。
「何か?」
「お前初めから俺が殿下じゃないって気づいていただろう? なんでわざわざ王宮まで連れていってくれたんだ?」
「ああ。そのことでしたら……」
エレナは語り始めた。
フィルミナと仲が良いエレナは、時々ヴィルシュタイン公爵邸に遊びに行っている。主にお茶をしながらロマンス小説の考察をしたり、つむじの話をしたりだが。
ある日、エドワルドがフィルミナに会いに来た時、一緒にお茶会をしたのだが、その時にマルク子爵家の話が出たのだ。マルク子爵家を乗っ取ったトームスの叔父が不慮の事故で亡くなってしまったので、爵位継承をさせるべく、追い出されてしまった先代子爵の息子を探していると。
ヴィルシュタイン公爵は子供の頃に会ったトームスがエドワルドに似ていることを知っていた。成長してもおそらくエドワルドと姿が似ているだろうと王都中を探し回っているとも。
「その話を聴いておりましたので、貴方が馬車に乗り込んできた時にもしやと思ったのです。王宮で貴方が着替えている間にヴィルシュタイン公爵にお話しました」
「それで俺が殿下のふりしてる間に裏でいろいろ工作されてたってわけか」
急ごしらえのわりには爵位継承の書類はしっかり作成されていた。あらかじめ用意されていたとしたら納得がいく。
「最初はどこか庶民の名残りがありましたけど、すっかり貴公子らしくなりましたね。言葉使いは悪いですけど」
「お前に言われたくねえよ。腹黒令嬢。殿下に貴公子の所作を叩き込まれたんだよ。おしおきされながらな」
思い出しても身の毛がよだつ。かえるの着ぐるみでバルコニーに吊るされたり、真下が池の木に吊るされたり。
エレナはコホンと可愛らしく咳払いをする。
「その……今日は申し訳ありませんでした。少しばかり熱くなってしまいました」
「ああ。アンジェリカ嬢のことか。殿下と俺で対策は考えてある。心配するな」
ふっとエレナは微笑み「そうですか」と頷いた。
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