悪役令嬢(仮)に断罪された偽王太子は本物王太子に影武者としてこき使われる

雪野 みゆ

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第2章 学園編

第13話

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 裏通りでの出来事をエドワルドに一通り報告すると、トームスはふぅと息を吐く。エドワルドはトームスの報告を聞き終えると厳しい顔つきになる。

「そうか。情報では推測でしかなかったが、確定だな」

「ああ。俺も偶然裏通りで見かけた時は目を疑ったぜ」

 トームスは裏通りで見知った人物のあとをつけ、ある陰謀・・・・を盗み聞いたのだ。耳を疑うような内容だったが、エドワルドに知らせるべく、その日のうちに急いで登城した。

「それにしても、お前よく見つからずにすんだな」

「庶民の頃の盗みスキルが役に立ったんだ」

 自嘲気味にふっとトームスは笑う。庶民だった頃、貴族の馬車を狙って金目のものを盗んだり、財布をすり取ったりしていた時期があった。その金は匿名で孤児院に寄付をしていたのだが、シスターマリア辺りは気づいていたかもしれない。

「盗む時は気配を殺したり、足音を消したりする必要があったからな」

「お前、暗殺者にも向いているかもな」

「見知らぬ人間を殺す気はないぜ」

 政敵を暗殺しろとか命令してみようかなという目をエドワルドがしているので、トームスはやる意志はないと釘を刺しておいた。

「話題を変えようか? 来月の叙勲式でお前を伯爵に陞爵しょうしゃくする。礼服を仕立てておけ」

 エドワルドの思わぬ話題にトームスは驚き目を瞠る。

「正気か? 陞爵しょうしゃくって大きな手柄を立てた時にするもんだろう? 俺はそんな大したことはしてないぜ」

「今、したではないか。」

 トームスははっとする。

「まさか殿下。叙勲式の前にあの陰謀を潰す気か?」

「当たり前だ」

 自信たっぷりな様子のエドワルドだ。

「それと、2週間後、お前とエレナ嬢の婚約を正式に発表する」

「は? 婚約? エレナと? おいぃぃぃぃぃ!!!!!」

 エドワルドが次に発した言葉に驚愕の叫びをあげるトームスである。

「ガードナー伯爵にはもう打診した。快諾してくれたぞ」

「何勝手に人の婚約者を決めてるんだ! だいたいエレナの気持ちは!?」

 ふぅとため息を吐くとエドワルドはトームスをきっと睨む。トームスは怯む。これは……おしおきする時の前触れのあれだ。

「トームス。貴族の婚姻は本人の意思など関係ない。家同士のつながりの問題だからな。それにお前はエレナが好きだろう?」

「そ、そそ、それは……」

 ふいと横を向くと口を尖らせ、ぼそぼそと呟く。

「どちらかといえば……好きだ」

 いつの間にかトームスの前に来たエドワルドは、満面の笑みで両肩をがっしりと掴む。

「では決まりだな」

 笑顔は浮かべていても、拒否は許さないという強い眼差しにトームスは負けた。

「……はい」

「それとな。明後日から学園は夏休みに入るから、ヴィルシュタイン公爵領に視察に行くぞ。供をしろ」

「分かりました。殿下」

 完全に敗北したトームスは素直に一礼する。彼がエドワルドに勝てた試しはない。


 ヴィルシュタイン公爵領は王都から南部に馬車で半日ほどの距離にある。馬車は南に向けて順調な旅路を行く。ヴィルシュタイン公爵家の馬車が。

「一つ聞いてもいいか?」

「なんですの?」

「なんでお前らも視察についてきてるんだ!?」

 エドワルドの視察になぜかフィルミナとエレナも同行してきたのだ。

「エドのお誘いですもの。断れませんわ(そんなことも聞いていませんでしたの)」

 フィルミナが同意を求めるように隣に座るエドワルドに微笑む。当然のようにエドワルドはフィルミナの肩を抱きよせた。

「せっかくフィーの実家に行くのだ。一緒に行きたいではないか」

「久しぶりにお兄様に会えますわ」

「うん。セイン殿は元気かな?」

 また二人の世界に旅立ってしまいそうだ。トームスはばんっと手を叩く。

「よし。分かった! エレナも誘われたのか?」

 隣で静かに本を読んでいるエレナに質問を投げる。

「ガードナー伯爵領はヴィルシュタイン公爵領の隣にありますの。フィルミナ様が領に帰る時は、わたくしも同行させていただいております」

「互いの屋敷に泊まりあって、女子会をするのですわ」

 フィルミナとエレナは顔を見合わせて、互いにふふふと微笑む。実に可憐な2人の令嬢をトームスはジト目で見る。

(その女子会って、どうせろくでもない考察してるんだろうな)

 馬車の扉にある取っ手に肘をつき、トームスは窓の外を見る。王都とは違い田園地帯と山が目に入る。自然の緑が目に優しい。しばらくのどかな風景を楽しんでいたのだが。

 突然、馬が嘶き、馬車が急停止する。衝撃で馬車が大きく揺れる。エドワルドはフィルミナを、トームスはエレナを庇うように抱き寄せる。

「殿下!」

「ああ。分かっている!」
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