~死霊術師と死神騎士~

みずもCOLD

文字の大きさ
18 / 20
城塞都市の怪異

~13~

しおりを挟む

「おい、動け! ランタンの光を見るんじゃない! 奴の戯言も聞くな!!」

赤光が漏れ出す室内で、硬直したままの新参に声をかけながら、緑髪の警備隊長は長剣を振るっていた。
蝙蝠の翼のごとく腕が変じた怪物どもから、入り口を死守するためだ。
もし奴らを中に入れれば、身動きが取れない彼は瞬く間に餌食にされるだろう。

先の乱戦で相対した四つん這いの個体とは違い、この翼手型たちは自在に高低を使い分けて飛び回り、隊内随一の手練れである彼女でも的確に捉えるのは困難だった。
しかも、理性は失えど知性が残っているのか、奴らは連携と虚実を交えるだけでなく、深手を負えば回復するまで屋根の上へ逃れる。
その小賢しさが、彼女の間合いをわずかに乱していた。
自分を狙ってくるだけなら、迎撃の一打を叩き込めるものを……と彼女は内心で唇を噛んだ。

四苦八苦する最中、突如として背後から差し込んでいた赤光が途絶え、遠ざかる小さな蹄の音が響く。
それが何を意味するかと悟るより早く、眼前の敵らは興味を失ったのかのように屋根の上へ跳躍し、何かに呼ばれるがまま闇へと消えていった。

どうやら犯人には逃げられたようだと室内に視線を戻せば、暗がりに沈んだ部屋の中で、青年はいまだ硬直したままで立ち尽くしている。

「おい、大丈夫か?」

彼女が肩に手を置いたのが刺激となったのか、ようやく呪縛が解け、彼は床へ崩れ落ちる。
そして、先ほどまで妹が立っていた場所まで、床を這うように進んでいった。

そこにあったのは灰の山で、白い花の首飾りや衣服が半ば埋もれていた。
……兄はその首飾りを拾い上げると、花びらが散るほどに強く握りしめ、哭いた。

緑髪の上司は、再び肩に手を置いて温もりを分かつ以外に、彼を慰める術を知らなかった……。

―――

同じ頃、貧民街の中央にて。

黒い騎士は長柄の武器を水平に構え、その湾曲した刃に青き火を灯す。
そして、己を取り巻き、血の泡を吹いて唸り吠える者たちへ告げた。

『――汝ら、生きながらにして亡者と化せられた者共か。無念と苦しみに満ちた魂の声、我にはしかと届いておる。汝らの魂、その呪われし肉の枷から解き放たん!』

その声を聴き、一斉に躍りかかる呪われし者共。だが、その紅き眼には、哀願が報われんとする涙が浮かんでいた。

死神が鎌槍を一閃。
その刹那、光景は一筋の鋭利な刃で切り裂かれた絵画のように映った。
鎌に燃え上がった浄化の炎により、両断された闇の眷属は瞬く間に焼き尽くされ、たなびくマントに触れることさえ叶わず灰と散る……。
その様は、月下に映える黒い騎士へ、雪が舞い散るかのようであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

碧天のノアズアーク

世良シンア
ファンタジー
両親の顔を知らない双子の兄弟。 あらゆる害悪から双子を守る二人の従者。 かけがえのない仲間を失った若き女冒険者。 病に苦しむ母を救うために懸命に生きる少女。 幼い頃から血にまみれた世界で生きる幼い暗殺者。 両親に売られ生きる意味を失くした女盗賊。 一族を殺され激しい復讐心に囚われた隻眼の女剣士。 Sランク冒険者の一人として活躍する亜人国家の第二王子。 自分という存在を心底嫌悪する龍人の男。 俗世とは隔絶して生きる最強の一族族長の息子。 強い自責の念に蝕まれ自分を見失った青年。 性別も年齢も性格も違う十三人。決して交わることのなかった者たちが、ノア=オーガストの不思議な引力により一つの方舟へと乗り込んでいく。そして方舟はいくつもの荒波を越えて、飽くなき探究心を原動力に世界中を冒険する。この方舟の終着点は果たして…… ※『side〇〇』という風に、それぞれのキャラ視点を通して物語が進んでいきます。そのため主人公だけでなく様々なキャラの視点が入り混じります。視点がコロコロと変わりますがご容赦いただけると幸いです。 ※一話ごとの字数がまちまちとなっています。ご了承ください。 ※物語が進んでいく中で、投稿済みの話を修正する場合があります。ご了承ください。 ※初執筆の作品です。誤字脱字など至らぬ点が多々あると思いますが、温かい目で見守ってくださると大変ありがたいです。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ

流石ユユシタ
ファンタジー
 2032年、日本。
この国には異形の化け物――【怪異】が潜む。
だが、その事実を知る者は少ない。
表の世界は平穏を装い、裏でただひとつの集団――陰陽師が怪異を封じるために命を散らしてきた。  倒すことは不可能。
祓うことも不可能。できるのは、ただ寿命を削って封印することだけ。  そんな理不尽な世界へ、ひとりの少年が転生した。  そして彼だけは、人の身で容易に怪異を倒せてしまった。しかも本人はこの世界をRPGのシステムだと勘違い。 
  それにより、人類最悪の怪異領域すら「レベリング場所」と信じて突っ込んでいく。 ──いずれ、彼は伝説と化す。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

処理中です...