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城塞都市の怪異
~15~
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貧民街の悪夢のような夜が明け、その日の昼頃。
併設された休憩室で仮眠をとっていた女性隊長が、緑色の髪を掻くいつもの癖を見せながら詰め所の扉を開け、自席へと戻ってきた。
仮眠の間の代理を任せていた昼番の班長が、朝方に発生した事案の報告をするため、隊長席の前へと歩み寄る。
「昨夜は大変でしたね。まさか、不死の怪物たちが街に溢れていたなんて……。ところで隊長、第三外壁の南門から奇妙な報告を受けまして……」
白いものが髪や髭に混じった年長の部下が言うには、今日の未明のこと。
軍事行動以外では決して開かぬはずの第三外壁・南門が、あろうことか門衛たち自身の手で開かれ、何者かの通行を許したのだという。
しかも、その者の姿については、目撃した門衛たちの間で証言がまったく一致しないらしい。
黒い外套を纏った密使、ロバを連れた鎧姿の警備兵、馬に乗った白い修道士、大きな荷物を背負った赤いローブの男……。
ただ、門衛の誰もが一点だけ、口を揃えて語る証言があった。
「――腰に、赤く輝くランタンを下げていた」
その言葉を聞いた瞬間、隊長は悟った。昨夜、取り逃したあの偽薬師だと。
目撃証言が食い違うのも、門衛たちが何の疑問もなく開門したのも、奴が幻惑や精神支配の魔術を用いていたからに違いない。
城門に施された対魔法防御を容易く無効化するとは……かなりの手練れの術者なのか、それとも、あの怪しく輝くランタンそのものが強大な効力を秘めているのか。
しかし、奴が逃走した南の平野は、今や帝国との境界線でもある。
たとえ相手が犯罪者であっても、この状況下では追撃することすら許されない。
彼女は、目の前で悪を逃した自身の無力さを、ただ痛感するしかなかった。
―――
昨夜は夜番であったため、青年は今日、非番であった。
しかし、彼の心は昨日に置き去りにされたまま。
西地区にある、亡き妹が好きだった花が咲く畦道に座って、ただ、空を眺めていた。
天涯孤独になったこれからを、どう生きていけばいいのか、今の彼にはもう分からない。
この城塞都市を守る警備兵に志願したのも、唯一の家族であった妹を守るためだったというのに……。
やがて夕暮れ時、日課の報告を終えたのか、緑髪の隊長が姿を現した。
彼女は言葉もなく、彼の隣に腰を下ろす。
「何故、ここに……?」
青年は驚き、問いかけたが、彼女は何も答えない。
ただ、南方の血も引くという艶やかな小麦色の肌をした彼女の横顔は、夕日に照らされて美しかった。
~城塞都市の怪異 完~
併設された休憩室で仮眠をとっていた女性隊長が、緑色の髪を掻くいつもの癖を見せながら詰め所の扉を開け、自席へと戻ってきた。
仮眠の間の代理を任せていた昼番の班長が、朝方に発生した事案の報告をするため、隊長席の前へと歩み寄る。
「昨夜は大変でしたね。まさか、不死の怪物たちが街に溢れていたなんて……。ところで隊長、第三外壁の南門から奇妙な報告を受けまして……」
白いものが髪や髭に混じった年長の部下が言うには、今日の未明のこと。
軍事行動以外では決して開かぬはずの第三外壁・南門が、あろうことか門衛たち自身の手で開かれ、何者かの通行を許したのだという。
しかも、その者の姿については、目撃した門衛たちの間で証言がまったく一致しないらしい。
黒い外套を纏った密使、ロバを連れた鎧姿の警備兵、馬に乗った白い修道士、大きな荷物を背負った赤いローブの男……。
ただ、門衛の誰もが一点だけ、口を揃えて語る証言があった。
「――腰に、赤く輝くランタンを下げていた」
その言葉を聞いた瞬間、隊長は悟った。昨夜、取り逃したあの偽薬師だと。
目撃証言が食い違うのも、門衛たちが何の疑問もなく開門したのも、奴が幻惑や精神支配の魔術を用いていたからに違いない。
城門に施された対魔法防御を容易く無効化するとは……かなりの手練れの術者なのか、それとも、あの怪しく輝くランタンそのものが強大な効力を秘めているのか。
しかし、奴が逃走した南の平野は、今や帝国との境界線でもある。
たとえ相手が犯罪者であっても、この状況下では追撃することすら許されない。
彼女は、目の前で悪を逃した自身の無力さを、ただ痛感するしかなかった。
―――
昨夜は夜番であったため、青年は今日、非番であった。
しかし、彼の心は昨日に置き去りにされたまま。
西地区にある、亡き妹が好きだった花が咲く畦道に座って、ただ、空を眺めていた。
天涯孤独になったこれからを、どう生きていけばいいのか、今の彼にはもう分からない。
この城塞都市を守る警備兵に志願したのも、唯一の家族であった妹を守るためだったというのに……。
やがて夕暮れ時、日課の報告を終えたのか、緑髪の隊長が姿を現した。
彼女は言葉もなく、彼の隣に腰を下ろす。
「何故、ここに……?」
青年は驚き、問いかけたが、彼女は何も答えない。
ただ、南方の血も引くという艶やかな小麦色の肌をした彼女の横顔は、夕日に照らされて美しかった。
~城塞都市の怪異 完~
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