神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里

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なんとしてでも 2 〜テック〜

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アヤナは誰にも渡さない。

そう思っていたのに。


「倒れた!?」

アヤナをお披露目パーティーへエスコートしようと部屋を訪れると、リュートさんが出て来てすぐに扉を閉めてしまった。

「疲れが溜まってだんだろ。パルラが城からいなくなるから、精神的にも堪えていたのかもなぁ。さっき薬を飲んで、今やっと眠ったところだ。悪いけど、このまま寝かせておいてやってほしい。」

困り顔でリュートさんにお願いされてしまえば、俺も駄目とは言えない。

ましてや、倒れたアヤナを無理矢理パーティーに連れて行くなど出来るわけがなかった。

気落ちしてパーティー会場へ向かう途中、ルイスがアヤナを連れていない俺にすぐに気付いて近寄ってきた。

アヤナが倒れてパーティーには参加しない事を伝えると、ルイスは眉間に皺を寄せて少し考えていたが、暫くすると眉間の皺はそのままに俺を怖い顔で見る。

「アヤナ様が不在でも、今夜のパーティーでは婚約を発表いたしましょう。」

「いや、待て。それでは……」

ただでさえアヤナを騙し討ちする形で婚約をしようとしているのだ。

アヤナ不在のパーティーで、しかも本人が体調の悪い時にそれをしてしまえば、たとえ結婚しても仲を修繕するのに、かなりの時間を要するのではないだろうか。

「せめて、体調が回復してからにしよう。」

「……分かりました。今日の発表は見送りましょう。王太子の婚約者がその場にいなくては、少なからず周りの不興も買うでしょうし……。アヤナ様の体調が回復次第、直ぐに発表できる場を用意いたします。」

俺の意見にルイスは少し不満気だったが、段取りを変更してくれるようだった。



しかし、アヤナの体調は数日経っても回復せず、部屋から出られないでいる。

見舞いに部屋へ訪れても、ベッドの上で儚げに微笑むアヤナの姿は弱々しく、見ていて心が痛んだ。

リュートさんは心の問題だと言っていた。

何か、アヤナが少しでも元気になれる方法は無いのか……。

何も解決策が思いつかないまま、窓から城の外に目をやる。

ついこの前あの山へピクニックへ行った時には、あんなに楽しそうに笑い、元気に遊んでいたのに……。

あの花畑でのアヤナの笑顔がまた見たい。

…………そうだ。あそこへもう一度連れて行こう。
そうすれば、きっとまたあの笑顔を見せてくれる筈。



「……お花畑?」

ベッドに横になっているアヤナに、俺は早速提案してみた。

花畑と聞いたアヤナの目が嬉しそうに輝く。

「行く。行きたい!……あ、でも私、今はあの山を登れるくらいの体力がない……。」

「それなら俺が……」

「俺が彩菜を抱えていってやるよ。お前を抱っこするのは昔から慣れてるからな。」

「いいの!?ありがとう、龍斗さん!」

アヤナを連れて行く役目は俺がしたかったけれど……あまり強引に言って困らせてしまうのも、今は良くないよな。

「明日、朝食を食べたら出掛けよう。今日はしっかり休んで、少しでも体調を良くしておいて。」

「うん。ありがとう、テック!」

俺は可愛く笑うアヤナの頭を撫でて部屋を後にした。






翌日、良く晴れた空の下。

山の麓で馬車を降りた俺達は花畑目指して歩いている。

今日は午前中だけ行く予定なのでオベントウは持ってきていない。

ルイスも午前中だけならばと一緒について来た。アヤナの様子も気になるのだろう。

リュートさんに抱えられているアヤナは、久しぶりの外で嬉しいのか、ずっと笑顔で可愛らしい。

しばらく歩くと目の前が開け、前回来た時と同じように美しい花畑が辺り一面に咲き誇っていた。

『ついにきた……。』

アヤナの小さく呟いた声が聞き取れなくて、アヤナを見る。

アヤナは、花畑を見て嬉しいというよりは、何故か感慨深いというような表情をしていた。

「アヤナ?」

「……テック……。」

アヤナは悲しげに眉尻を下げ、そのまま俺に少し微笑む。

それからリュートさんの首に顔を埋めると、スリスリと額を擦り付けた。

リュートさんはアヤナの背中を優しくポンポンと叩くと、それが合図かのようにゆっくりと花畑に向かって歩き出す。

アヤナを抱えたまま花畑を歩くリュートさんは、花畑の中央まで行っても止まらず、どんどん歩み進める。

「おいっ!危ないぞ!」

その先は、前回リュートさんに注意された崖になっていて、俺は堪らず声を掛けた。

それでもリュートさんは止まることなく歩き、崖ギリギリの所まで行くとようやく立ち止まった。


「リュートさん!!」

何を考えているんだ!?


リュートさんは静かに振り返る。

その表情は、今までに見たことの無い、とても冷ややかなものだった。

「それ以上、俺達に近づくんじゃねえぞ。」

その場にいる俺達をギロリと睨み、リュートさんが威嚇してくる。

詰め寄ろうとしたルイスも周りの者達も動けなくなった。

「リュートさん、どうしてこんな事を?何をする気なんだ!?」

俺の問い掛けに、リュートさんは小さく鼻で笑う。

「……どうして?どうしてだと?それは俺達が言いたいセリフだぜ。なあ?」

リュートさんがアヤナの頭を撫でると、アヤナはリュートさんの首からゆっくり顔を上げ、こちらを見た。

「テックとパルラは成人し、パルラも結婚した。もうお前達は十分にこの国の人間だよ。そうだろう?……なのに、なのにどうして俺達は帰れない?」

「リュートさ……」

「彩菜が何も知らないままテックと婚約させられそうなのも、フレイの結婚式を教えてもらえなかったのも、俺達が知らないとでも思っていたのか?」

「!!」

全部知っていたのか!?

俺は自分でも顔が青ざめていくのが分かった。

そんな俺を見て、リュートさんは悲しそうに顔を歪める。

「テック……。お前には、そんな事をされたくなかったよ……。」

「リュートさん……。」

「全ては私の考えで行ったことです。テック様は悪くありません。」

「宰相が首謀者なのはわかってるよ。」

ルイスをギロリと睨み、リュートさんは一歩後ろに下がる。

「だけどな、俺からすれば、ここにいる全員が共犯者なんだよ。なぁ、彩菜はお前達の為に頑張っていただろう?親元を離れて、大好きな奴らとも離れて、お前達の為に頑張っていたんだよ。そんな子に対して、この仕打ちは余りにも酷過ぎるだろ……。」

リュートさんが、また一歩後ろに下がる。

もう、一歩でも下がれば崖から落ちてしまう!!

「リ、リュートさん!!悪かった!謝るから……だから、こっちに戻ってきて!!」

俺は必死に手を伸ばすけど、リュートさんは首を横に振ってそれを拒んだ。

アヤナの目から涙が溢れる。


「もう、彩菜を自由にしてやってくれよ。もし生きていたら、俺達を国に帰してくれよな。」

「分かった!!帰すから!国に帰すから!!っ!!!リュートさんっ!!!」


リュートさんの体が後ろにゆっくりと傾く。
俺は走り出し、必死に2人に向かって手を伸ばした。


どうか間に合ってくれ!!!!!




俺の言葉を聞いて、リュートさんはニッと笑った。
そして……俺の手を掴むことなく、アヤナを抱いたまま、後ろの崖へと落ちていったのだった。



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