侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里

文字の大きさ
64 / 87

みんなに愛されすぎて……幸せです!

しおりを挟む
「はじめまして……。……クロ……第四王子と契約しているエリーヌです。よろしくお願い致します……。」

私は今、ズ~ンと落ち込みながら魔王の前に立ちグズグズな挨拶をしている。

一触即発だった先程の場面に、騒動を聞きつけた魔王の側近が駆け付けてなんとかその場は収まった。

側近の人の案内で魔王の待つ部屋へ来たのだけれど、第一王子との出会いで気分は最悪なまま魔王に挨拶する羽目になってしまったのだ。

そんな私の両脇には、クロとサミュエルさんが並んで立ち、手を繋いでくれている。


…………両手に第二王子と第四王子。私には荷が重いです。


シュンとしている私の後ろには、鬼の形相で怒りオーラが出まくっている面々がいて、魔王の顔が若干引き攣っていた。


「……久しぶりだな、クロフォードよ。」

「父上、ご無沙汰です。ずっと連絡せずにすみませんでした。」

「もうよい。お前はいつでも自由に各地を飛び回っていたからな。たまには連絡をよこすのだぞ。」

「はい。」

魔王はクロの返事に目を細め小さく頷くと、私達に目を移して苦笑する。

「……ところで、お前の連れ達は何故こんなに不機嫌なのだ?やり辛くてかなわん。」

「アイザック兄上のせいですよ。」

サミュエルさんが肩を竦めながら答え、「アイザック」と名前を聞いたクロの眉間に皺が寄った。

「アイザックの?」

「兄上がクロフォードの主を蔑める発言をしたんです。まったく、自分の魔力量がエリーヌに及ばないのも分からないのに何言ってんだって話ですけど。」

サミュエルさんが呆れ顔でそう言うと、今度は魔王の眉間に深い皺が寄る。


え?私はあの人より魔力が多いの?


目を丸くしている私にサミュエルさんは微笑んで優しく頭を撫でてくれた。

「兄上は自分が王位を継承すると思っているから昔から周りにもあんな横柄な態度をとるんだ。嫌な思いをさせて悪かったね。」

「……あの人、王太子じゃないの?」

「フフッ。第一王子だからって能無しが王になれる程、魔国は甘くないからね。そうでしょ?父上?」

サミュエルさんが魔王にニコッと笑うと、魔王は暫くクロとサミュエルさんを見つめ、やがて深く息を吐いた。

「そうだな。色々と思うところがあって今まで静観していたが……クロフォードも見つかった事だし、そろそろ頃合いかもしれん。次期国王を正式に決めよう。」

「遅いわ戯け者めが。お前がもっときちんとしていれば、エリーヌが嫌な思いをせずに済んだものを。」

「すまん。そう怒るな。キリナム殿は昔から手厳しい。」

ギロリと睨むキリナムさんに、魔王は眉尻を下げる。


……キリナムさんは誰にでも容赦ないんですね……。魔王を戯け者扱いって……。


「キリナム殿には、私が幼少の頃から世話になっているんだよ。」

私が複雑な表情をしているのに気づいて魔王が苦笑しながら教えてくれた。

「魔国とは先代の魔王からの付き合いがあるからな。コイツは子供の頃からよく泣く気の弱い奴だった。そのくせ魔力はどの兄弟よりも強大だったから、私が少し心身共に鍛えてやったのだ。」

「あれを少しと言うのなら、キリナム殿に本気を出されていれば私は死んでいたな。」


…………キリナムさん、恐るべし。


「父上。俺は後継者候補から外してください。この先もエリーヌと一緒にいるので魔国に戻るつもりはありませんから。」

クロが真剣な眼差しで魔王を見て言った。
魔王もジッとクロを見つめ返している。

「本気か?」

「はい。」

「お前が誰かの従魔になるなんてにわかには信じ難かったが……今のお前を見ていて納得したよ。今のお前は、此処にいる頃よりも目が生き生きとしている。」

魔王の表情が緩み笑顔になった。
そして魔王は笑顔のまま私に手招きをして近くに寄るよう促す。

私がおずおずと近づくと、魔王は私の手を取りそっと握った。

「先程は愚息が……アイザックがすまなかった。そしてこれからもクロフォードをよろしく頼む。」

「…………これからもずっとクロと一緒にいていいんですか?」

「勿論だ。」

魔王に力強く頷かれ、止まっていた私の涙がまたドバッと溢れ出す。

「わ、私、もっともっと頑張ってクロに相応しくなります~。」

うわ~んと大泣きする私に慌てる魔王そっちのけで、みんながサッと動いて私の周りを取り囲んだ。

「エリーヌ、今の言い方はどうかと思うよ?あれじゃあ恋人か婚約者のようなセリフになってしまうからね?エリーヌには僕がいるんだから。」

「僕は王太子も認めてませんけどね。ほらエリーヌ、もう泣き止んで?」

「エリーヌよ、心配ないぞ。あの馬鹿……アイザックは私が後で懲らしめておくからな。」

「キリナム様、その際は是非私にお供させてくださいませ。」

「こらクロ。どさくさに紛れて何エリーヌを抱っこしているんだ。それは父である私の役目だろう。離さんか。」

「ああ、悪い。エリーヌがあまりにも可愛いことを言うからついな。でも俺はエリーヌの従魔なんだから別にいいだろ。いつも首に巻き付いてるんだし。」

「「「よくない!!」」」


…………みんな落ち着いて。

みんなが一斉に喋ってギャイギャイと騒いでいるから、魔王もサミュエルさんも唖然としちゃってるじゃん。

「なんかすみません。」

クロに抱っこされたまま魔王とサミュエルさんに向かってペコリと謝罪すると、2人は首を横に振り笑顔を返してくれた。

「エリーヌは愛されているね。」

「はいっ!」


サミュエルさんに言われ、私は満面の笑みを浮かべて答えたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

平民令嬢、異世界で追放されたけど、妖精契約で元貴族を見返します

タマ マコト
ファンタジー
平民令嬢セリア・アルノートは、聖女召喚の儀式に巻き込まれ異世界へと呼ばれる。 しかし魔力ゼロと判定された彼女は、元婚約者にも見捨てられ、理由も告げられぬまま夜の森へ追放された。 行き場を失った境界の森で、セリアは妖精ルゥシェと出会い、「生きたいか」という問いに答えた瞬間、対等な妖精契約を結ぶ。 人間に捨てられた少女は、妖精に選ばれたことで、世界の均衡を揺るがす存在となっていく。

妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。

向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。 幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。 最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです! 勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。 だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!? ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...