侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里

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お久しぶりですっ!

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フワフワとする意識の中で、私は夢を見ていた。
大人になった私が、たくさんの子供達に囲まれて笑っている。
そんな私の横には、これまた大人なセディがいて、やっぱり幸せそうに笑っていた。



あぁ、大人になったセディもカッコいいなぁ。
あの子達は、もしかして私とセディの子なの?メチャクチャ可愛い子達じゃん!

…………大人になりたかったなぁ。

あの子達を、本当に私が産んであげたかったよ。


「あら、産めばいいじゃない?」


聞き慣れない透き通るような綺麗な声に、ふいに意識が浮上する。

パチリと目を開けると、私は誰かの膝の上に頭を乗せて……膝枕というものをされていた。

慌てて体を起こし辺りをキョロキョロするも、どこまで見渡しても真っ白で何も見えない。


「久しぶりね、エリーヌ。」


振り返ると、赤、緑、金色の髪をした3人の美人さんがいた。


…………前にも似た様なシチュエーションがあったような……。


「あの頃よりもっと美人さんに成長したわね。私達を覚える?」


…………お久しぶりです、神様達。忘れるわけないじゃないですか。


「本当なら、もう会う事は無い筈だったのに…………ごめんなさいね。」

「でも、エリーヌのおかげで世界は救われたわ。本当にありがとう。」


…………いえいえ、お役に立てて良かったです。せっかく転生させてもらったのに、また死んじゃってごめんなさい。


「あらやだっ!まだ死んでないわよぉ!まだって言うか、死なせる予定はないんだけど?」

3人の神様達が慌てて否定する。 


…………え?死んだんじゃないんですか?


「違う違うっ!ちゃんと生きてるから!魔力を全部使い切っちゃってちょっとヤバイ状態だったから、私達で保護させてもらったの。世界を救ってくれた恩人を易々と死なせる訳にはいかないでしょ?」


金色の髪の神様が微笑んでパチンとウィンクをした。


…………私、死んでないんだ……。


「そうよ。でも、想像以上にヤバイ状態だったから、回復するのに結構時間がかかっちゃったのよね。」


…………時間?そんなに寝てないと思うんだけど。


私が首を傾げると、神様達は顔を見合わせて困り顔をしていた。


「あのね……もともとこの空間では時間の流れがゆっくりっていうのもあるけれど……今の貴方が体感しているよりも、かなり時間は経過してると思うわ。」


…………私、せいぜい長くても2、3日眠り続けていたくらいだと思っていたんですけど……。


「ブー、残念!正解は2年でした!」


…………に、2年!?…………マジか……。


あまりに時間が経ち過ぎていて私はただただ呆然とするしかなかった。


…………2年かぁ。

みんな変わっちゃったかな。

セディは……王太子だから、きっともう他の人と結婚とかしちゃってるよね。
いつ目覚めるかも分からない私を待つはずないよ。
私だって、もしもの為にセディから貰った指輪を置いて来たんだし。
…………しょうがないよね……。


っていうか、2年も寝たままって、私の体大丈夫?


「それは大丈夫よ。私達が保護してるって言ったでしょ?回復して目覚めたらすぐにでも起き上がれるようになってるわ。」


…………あの有名なお伽噺の眠り姫的な?


「そうそう!私あのお話好きなのよね~。長い眠りから王子様のキスで目覚めるなんて素敵だわ~。」


…………そうですか。良かったですね。


うっとりと言う緑髪の神様を、ついジト目で見てしまった。

金髪の神様がクスクスと笑いながら私の頭を優しく撫でてくれる。

「そんな顔しないの。エリーヌにだっているでしょう?素敵な王子様が。」


…………そりゃいましたよ。2年前までは。…………でも、もう…………。


「フフッ。エリーヌは、どれだけ自分が愛されているのか分かってないわね。まあ、それはあの王子様だけに言えることじゃないのだけれど。」


…………どういうことですか?


「それは戻ってから自分で確かめて。」


赤髪の神様がニッコリ笑って両手を私に向かって差し出すと、手が淡く光始めた。
それを合図に、緑髪の神様と金髪の神様も私に手を向ける。


「もう、私達がエリーヌに会えるのは、これで本当に最後だと思うわ。でも、貴方のことはこれからもずっと見守っているから。…………幸せになってね。」


…………はい。助けてくれてありがとうございました。


笑顔が最高に綺麗な神様達の姿を目に焼き付けながら、私もとびきりの笑顔で神様達に別れを告げたのだった。


眩しいくらの光を浴びて、私の意識はそこで途絶えた。








「おはよう、エリーヌ。今日はとても良い天気だよ。これだけ天気が良いと、外の雪はもう全部溶けてしまうかもしれないね。」


浮上し始めた意識の中で、とても聞きたかった声が私の耳に届く。


「もうすぐ春か……。春になったら元気なエリーヌと散歩出来るといいなぁ。」


私に話しかけるような、独り言を呟いているような小さく発せられているその声は、前に聞いた時よりも少し低く大人びたように思う。


重たい瞼をゆっくりと持ち上げると、ぼんやりとしか見えなかった視界がだんだんとハッキリしてきて、ベッド脇の椅子に座りながら窓の外を見ているセディを捉えることが出来た。

「宰相家の別荘にある湖の畔を散歩するのもいいね。きっと楽しいよ。…………まあでも、僕はエリーヌと一緒ならどこだって楽しいんだけどね。」


目を細めて言うセディの横顔はとても格好良く、もとから綺麗な白金髪は窓からの光を受けてより一層キラキラと輝いて見える。


「…………私もだよ。」

私も、セディとならどこだって楽しいよ。

そう伝えたくて必死に出した声は、久しぶりに発したせいで酷く掠れてガラガラで全然可愛くないものだった。
そんな声にビクリと反応しこちらをゆっくりと向くセディとバチリと目が合う。

セディの目が信じられないものを見たというように見開き、私を見たまま固まっている。

私はフッと目を細め、もう一度声を出した。


「セディ」

私が名前を呼んだ瞬間、セディの目からブワッと涙が溢れ出した。


「セディ…………。」

「エ、エリーヌ…………。エリーヌ!!」

震える手を持ち上げてセディの前に差し出すと、セディは戸惑いながらも私の手を優しく握り両手で包み込んでくれた。


「エリーヌ!!」

「エリーヌ様!!」

アーク兄様とソフィーが部屋へ入って来るなり大きな声で叫ぶ。

私は扉の方へ目を向け、2人に微笑みかけた。

「アーク兄様、ソフィー。」

名前を呼んだ2人の目にも涙が溢れる。

「ソフィー、父上と母上にすぐ知らせてきて!」

目をゴシゴシと擦りながらソフィーに言うアーク兄様の顔は既に涙でグシャグシャだった。

「エリーヌ!!」

凄い勢いでベッドに駆け寄ってきたアーク兄様は、横に並ぶセディと一緒に人目も憚らず号泣している。

私が目覚めたという報告を聞いて、部屋には父上や母上、ウィル兄様、ラルフ兄様、マリア、エドワードと家族全員が続々と駆けつけて泣き声の大合唱が暫く続いた。勿論、私もそれに参加していたのだけれど。

家族と少し離れた所で、キリナムさんとサミュエルさんが私達を見守るように立っていた。
それに気づいて私が2人に手を振ると、2人は表情を緩めて手を振り返してくれた。……何度も目尻を手で拭いながら。




その日、私は大声で泣いた。

生きていることを確かめたくて。

ちゃんとみんなの元へ戻ってこれたことを確かめたくて。



ーー泣いて泣いて、声が枯れるまで泣き続けた。
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