侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里

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僕の残念な妹2 〜アーク〜

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2年前、サミュエルさんが連れ帰ってくれたエリーヌは、既に魔力切れで瀕死の状態だった。

サミュエルさんが亀裂のあった場所に到着した時には、亀裂は綺麗に塞がれていて瘴気の気配も全くなくなっていたらしい。
そしてそこには、力無くバッタリと倒れているエリーヌとクロの姿が。

ウチに運ばれて来たエリーヌとクロを、治癒魔法も使えるキリナムさんが診てくれた。
エリーヌは予想通り魔力切れで脈も細く弱く危険な状態だったが、何か強い力に包まれていてキリナムさんほどの力の持ち主でさえ外から手が出せないようになっているらしい。
エリーヌは以前、神様に会った時に加護をもらったと言っていたから、神様が関わっている可能性が高く、エリーヌの自己治癒力と神様の加護の力を信じるしかないというのが、キリナムさんの診断結果だった。
まあ、魔力切れに治癒魔法はあまり効果はないのだけれど。
2年間も外から何も手助け無く、痩せ細らず健康状態を維持出来ているのは神様の御力に違いない。
僕は……というか家族全員、エリーヌが倒れた日から朝晩欠かさず天に向かって神様へ祈りを捧げている。



クロはというと、魔力切れとかそういうのではなく、クロが自分自身に何らかの魔法をかけたのではないかということだった。

「多分、エリーヌが目覚めるまで冬眠状態になるような魔法を使ったんじゃないかな。…………従魔にとって契約者は唯一無二の存在だからね。」

サミュエルさんが納得したような……それでいて寂しそうな表情をしてそう言っていたのを覚えている。



亀裂が塞がったという朗報はすぐ3国に届けられた。国民達は皆安堵し、同時に亀裂を塞ぐ為に尽力したエリーヌの悲報に皆心を痛めた。

数日後に迫っていた王太子の成人祝賀パーティーは、僕達宰相家の事情を考慮して延期されたのだが、それ以前にパーティーの主役である王太子が心身共に憔悴しきっていてパーティーどころではなかったというのもあるのだろう。

エリーヌが倒れてからの王太子は、僕でさえ心配になるくらい日に日に弱っていった。
ろくに食事も摂らず、虚ろな目をして一日中エリーヌの眠るベッド脇に座って動かない。
見兼ねた父上や母上に体を休めるように促されても、頑なに拒否してエリーヌの側に居続けた。

「エリーヌが今日は目を覚ますかもしれないから……。」

そう言う王太子の気持ちが痛い程分かる僕達は、王太子を無理矢理城へ帰す事も出来ずにいたのだが、その状況を打ち破ったのはキリナムさんだった。


「お前は何をしているのだ。」


エリーヌが倒れて10日くらい経った頃、キリナムさんはベッド脇で項垂れていた王太子の頭をガシッと掴んで上を向かせる。

焦点の定まらない王太子の目を強引に自分と合わせると、キリナムさんは怒りを露わにして王太子をギロリと睨んだ。


「こんなお前を見たらエリーヌが悲しむとは思わないのか。」

「エ、エリーヌ…………。」


王太子の目からブワッと涙が溢れる。

「周りをよく見てみろ。」


キリナムさんは王太子の腕を取りグイッと引っ張り上げると、窓際に立たせて外を見せた。

門の外には、長蛇の人の列が出来ている。並んでいる人の手には、花や果物等が抱えられていた。

「あ……れは……。」

「エリーヌの悲報を聞いた者たちが、回復を願って宰相家を訪れているのだ。この列は今までずっと途切れていない。」


そしてキリナムさんが今度は庭を指差し「あそこを見ろ。」と王太子に促す。
その先には魔族と思われる者達が大勢集まり、庭や門の外を見回っていた。


「エリーヌが安心して眠り回復出来るようにと、あの者達は入れ替わり立ち替わり訪れては毎日宰相家の周辺を警護しに来ている。勿論、自分達の意志でな。」


王太子はジッと外を見つめキリナムさんの話しを聞いている。
そんな王太子の視線を今度は部屋の中へと向けさせると、キリナムさんは王太子の目にそっと掌を当てた。

「お前は小妖精が見えないからな。少し私の魔力を流すから大人しくしていろ。」

キリナムさんの掌から淡い光が出て王太子の目の周りを優しく包み込んだ。
キリナムさんが手を離すと、王太子は目を見開き茫然とする。


「この漂っている光は全て小妖精達だ。小妖精にはその場にいるだけで癒しや浄化の効果がある。エリーヌには外部からの力は届かないと承知した上で、皆この部屋に集まってくるのだ。少しでも良い環境でエリーヌに元気になってもらう為に。」


キリナムさんは王太子と向き合い鋭く睨みつける。


「皆、エリーヌが回復するのを信じてこんなにも行動しているというのに、お前は何をしている。この状況を悲観するばかりで何もしておらぬではないか!」

「あ…………僕……僕は…………。」

王太子がボロボロと涙を流しその場に崩れ落ちた。


「エリーヌがいない世界なんて考えられない…………。愛してる……この世でたった一人の愛する女性ひとなんだ。…………僕にはエリーヌがいないと…………」

「しっかりしろ!!お前がそんな事でどうするんだ!エリーヌはここにいる!ここで頑張って生きているだろう!!」

「うぅっ…………エリーヌ……エリーヌ!」


泣き崩れる王太子の背中をキリナムさんがポンポンと宥めるように叩く。
そしてフッと厳しかった視線を緩め、優しいものへと変えて王太子を見下ろした。

「大丈夫だ。エリーヌは必ず戻ってくる。こんなにも皆に愛されているのだからな。」

「う…………うぅっ……。」


泣き続ける王太子を僕はただ黙って見守る事しか出来なかった。


暫くして落ち着きを取り戻した王太子を部屋に残し、僕とキリナムさんは部屋を後にする。


「キリナムさん、ありがとうございました。」

「礼などいらぬ。私は恩を返しただげだ。」

「…………恩?」


廊下を歩きながら礼を言うと、キリナムさんは僕を見て頷いた。


「私は子供達と良い関係を築けずにずっと後悔していた。それをエリーヌに救われ、今では息子や、娘の子孫達とも良好な関係を築けている。エリーヌには感謝してもしきれぬ。」

「キリナムさん…………。」

「エリーヌが大変な今、今度は私が助ける番だ。エリーヌとエリーヌの大切な者達を、私は全力で守る。」


キリナムさんは眉尻を下げ、僕の頭をクシャッと撫でた。


「泣くのは今日で最後にしろ。次に泣くのはエリーヌが目覚めるその日まで、嬉し涙としてとっておけ。」

「はい…………はいっ……。」

流れ出る涙を拭いながら、僕は何度も何度も頷いた。




ーーエリーヌ。君はこんなにも皆に愛されているんだよ。


僕の残念な妹は、鈍感だから気付いていないかもしれないね。

目を覚ましたら、いっぱい、いっぱい話してあげるよ。
エリーヌがどれだけ沢山の人に愛されているかのを。



だから早く目を覚ましてね。

ーー残念だけど、愛しくて愛しくてたまらない、僕の可愛い妹ーー






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