80 / 87
僕の残念な妹 〜アーク〜
しおりを挟む
昨夜から降り積もった雪が景色を変え、辺り一面が銀世界となったウチの門前に王家の馬車が止まった。
庭に積もった真っ新な雪の上へ足跡を残しながら王太子が屋敷へと歩いて来る。
「こんな雪の日は城でじっとしていた方がいいんじゃないですか?」
「こんな日にだからこそ来たいんじゃないか。エリーヌも昔は雪の日にも部屋になんて閉じこもっていなかったんだろう?」
出迎えた僕に、王太子はブーツについた雪を払いながら言った。
「そうですね。雪が積もった時には、よくクロとマリアと庭で雪だるまを作ったり走り回っていましたよ。」
「フフッ、だと思った。…………エリーヌも見ていた宰相家の雪景色を、僕も見たかったんだ。」
廊下を歩く王太子は嬉しそうに微笑む。
最近、王太子はまた背が伸びた。エリーヌが元気だった頃は僕と同じくらいの背丈だったのに、今は少し見上げる格好になってしまう。
昔病弱だった僕にしては背が伸びた方だと思うけど、180センチ以上あるだろう王太子と並ぶと小さく見えてしまうのが悔しい。僕だって170センチはあるんだからな。
「やあ、王太子。今日も来たのかい?」
客間から出て来たサミュエルさんが王太子を見つけてこちらに近づいて来た。
「サミュエル殿こそ、昨日もここで会いましたよ。」
「あはは、そうだね。ここはもう僕の第2の我が家みたいなもんだからなぁ。」
「人の家を勝手に我が家扱いしないで下さい。」
僕がツッコむと、サミュエルさんは口を尖らせて「ケチ~」と言いながら僕達の後に歩いてついて来る。
「一緒に来るんですか?」
「うん。今日はまだ顔を見ていないからね。顔を見てから帰るよ。」
階段を上り終えたところで、絵本を数冊抱えたエドワードとマリアにガチ合った。
「王太子様、サミュエル様、アーク叔父様、こんにちは。」
「やあエドワード。君とも昨日ぶりだね。もう外の雪では遊んだかい?」
「いいえ。エリーヌ様が一緒じゃないと楽しくないので……。」
シュンとして答えるエドワードの頭を、王太子が優しく撫でる。
「僕がエリーヌに会いに来ると、君達はいつも一緒にいるくらい仲良しだったものね。」
薄ら涙目になって頷くエドワードは先日5歳の誕生日を迎えた。
言葉もしっかり話せるようになり、心身共にスクスクと成長している。
侯爵家の跡取りとしてそれなりに教育を受けているからか、他の子供より大人びて見える。
エリーヌが昔のようにエドワードの側で笑い、共に遊んでくれていたなら、もう少し違っていたのかもしれない。
エリーヌに影響されて破茶滅茶な性格になっていただろうか。
それはそれで侯爵家の将来が心配だから考えものだけどね。
エドワードとマリア親子と別れて廊下を歩いて行くと、丁度入ろうとした部屋から眉間に皺を寄せたキリナムさんが出て来るところだった。
「どうかしたんですか?」
「……小妖精達が煩かったから注意していたのだ。アイツらは集まると羽目を外し過ぎるからな。」
「賑やかでいいですよ。その方がエリーヌも寂しくないだろうし。」
小妖精達に御立腹なキリナムさんに苦笑しつつ、僕はガチャリと扉を開けた。
扉を開けると、そこには色とりどりの花がこれでもかというくらい至る所に飾られ、暖かな空気が流れている。
常にポカポカと春のようなこの状態なので、いつもこの部屋へ来ると、今が雪の降り積もる真冬だということを忘れそうになる。
「あはは。今日もこの部屋には小妖精が沢山いるねぇ。」
僕には見えないが、サミュエルさんには部屋のあちこちをフヨフヨ飛び回っている小妖精が見えている。
小妖精はかなり魔力が高い者にしか見えないというのはキリナムさんに聞いた。
人間は他の種族に比べて魔力が劣るのだが、格段に高い魔力を持つ王太子やクリフォードさんでも小妖精の姿は見えていないらしい。
それを思うと、小妖精が見えていたエリーヌの魔力はどれだけ高かったのだろうか。
王太子は勝手知ったるこの部屋を、脇目も振らず奥までスタスタと進み、ベッド脇で足を止めた。
「やあエリーヌ。今日も可愛いね。」
そっと手を伸ばしベッドに横たるエリーヌの頬を愛おしそうに撫でる王太子は、毎日来ているというのに会えて嬉しいと言わんばかりに目を細める。
僕とサミュエルさんもベッド脇まで移動し、エリーヌの様子を伺う。
僕の妹は眠っているというのに可愛い。
この暖かな部屋のせいか、頬は常にピンク色に染まっていて唇も艶やかに赤く、今にも目を開け起き出してきそうなくらいに血色が良かった。
…………どんなに願っても、それが現実になる事は今まで無かったけれど。
ーーそう、この部屋の主であるエリーヌは、あの日からずっとここで眠り続けているのだ。
2年前のあの日からずっと、僕の可愛い妹は1度も目覚める事無く眠り続けていた…………。
庭に積もった真っ新な雪の上へ足跡を残しながら王太子が屋敷へと歩いて来る。
「こんな雪の日は城でじっとしていた方がいいんじゃないですか?」
「こんな日にだからこそ来たいんじゃないか。エリーヌも昔は雪の日にも部屋になんて閉じこもっていなかったんだろう?」
出迎えた僕に、王太子はブーツについた雪を払いながら言った。
「そうですね。雪が積もった時には、よくクロとマリアと庭で雪だるまを作ったり走り回っていましたよ。」
「フフッ、だと思った。…………エリーヌも見ていた宰相家の雪景色を、僕も見たかったんだ。」
廊下を歩く王太子は嬉しそうに微笑む。
最近、王太子はまた背が伸びた。エリーヌが元気だった頃は僕と同じくらいの背丈だったのに、今は少し見上げる格好になってしまう。
昔病弱だった僕にしては背が伸びた方だと思うけど、180センチ以上あるだろう王太子と並ぶと小さく見えてしまうのが悔しい。僕だって170センチはあるんだからな。
「やあ、王太子。今日も来たのかい?」
客間から出て来たサミュエルさんが王太子を見つけてこちらに近づいて来た。
「サミュエル殿こそ、昨日もここで会いましたよ。」
「あはは、そうだね。ここはもう僕の第2の我が家みたいなもんだからなぁ。」
「人の家を勝手に我が家扱いしないで下さい。」
僕がツッコむと、サミュエルさんは口を尖らせて「ケチ~」と言いながら僕達の後に歩いてついて来る。
「一緒に来るんですか?」
「うん。今日はまだ顔を見ていないからね。顔を見てから帰るよ。」
階段を上り終えたところで、絵本を数冊抱えたエドワードとマリアにガチ合った。
「王太子様、サミュエル様、アーク叔父様、こんにちは。」
「やあエドワード。君とも昨日ぶりだね。もう外の雪では遊んだかい?」
「いいえ。エリーヌ様が一緒じゃないと楽しくないので……。」
シュンとして答えるエドワードの頭を、王太子が優しく撫でる。
「僕がエリーヌに会いに来ると、君達はいつも一緒にいるくらい仲良しだったものね。」
薄ら涙目になって頷くエドワードは先日5歳の誕生日を迎えた。
言葉もしっかり話せるようになり、心身共にスクスクと成長している。
侯爵家の跡取りとしてそれなりに教育を受けているからか、他の子供より大人びて見える。
エリーヌが昔のようにエドワードの側で笑い、共に遊んでくれていたなら、もう少し違っていたのかもしれない。
エリーヌに影響されて破茶滅茶な性格になっていただろうか。
それはそれで侯爵家の将来が心配だから考えものだけどね。
エドワードとマリア親子と別れて廊下を歩いて行くと、丁度入ろうとした部屋から眉間に皺を寄せたキリナムさんが出て来るところだった。
「どうかしたんですか?」
「……小妖精達が煩かったから注意していたのだ。アイツらは集まると羽目を外し過ぎるからな。」
「賑やかでいいですよ。その方がエリーヌも寂しくないだろうし。」
小妖精達に御立腹なキリナムさんに苦笑しつつ、僕はガチャリと扉を開けた。
扉を開けると、そこには色とりどりの花がこれでもかというくらい至る所に飾られ、暖かな空気が流れている。
常にポカポカと春のようなこの状態なので、いつもこの部屋へ来ると、今が雪の降り積もる真冬だということを忘れそうになる。
「あはは。今日もこの部屋には小妖精が沢山いるねぇ。」
僕には見えないが、サミュエルさんには部屋のあちこちをフヨフヨ飛び回っている小妖精が見えている。
小妖精はかなり魔力が高い者にしか見えないというのはキリナムさんに聞いた。
人間は他の種族に比べて魔力が劣るのだが、格段に高い魔力を持つ王太子やクリフォードさんでも小妖精の姿は見えていないらしい。
それを思うと、小妖精が見えていたエリーヌの魔力はどれだけ高かったのだろうか。
王太子は勝手知ったるこの部屋を、脇目も振らず奥までスタスタと進み、ベッド脇で足を止めた。
「やあエリーヌ。今日も可愛いね。」
そっと手を伸ばしベッドに横たるエリーヌの頬を愛おしそうに撫でる王太子は、毎日来ているというのに会えて嬉しいと言わんばかりに目を細める。
僕とサミュエルさんもベッド脇まで移動し、エリーヌの様子を伺う。
僕の妹は眠っているというのに可愛い。
この暖かな部屋のせいか、頬は常にピンク色に染まっていて唇も艶やかに赤く、今にも目を開け起き出してきそうなくらいに血色が良かった。
…………どんなに願っても、それが現実になる事は今まで無かったけれど。
ーーそう、この部屋の主であるエリーヌは、あの日からずっとここで眠り続けているのだ。
2年前のあの日からずっと、僕の可愛い妹は1度も目覚める事無く眠り続けていた…………。
242
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。
向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。
幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。
最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです!
勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。
だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!?
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。
和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。
黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。
私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと!
薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。
そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。
目指すは平和で平凡なハッピーライフ!
連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。
この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。
*他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する
タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。
社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。
孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。
そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。
追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる