侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里

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僕の残念な妹 〜アーク〜

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昨夜から降り積もった雪が景色を変え、辺り一面が銀世界となったウチの門前に王家の馬車が止まった。

庭に積もった真っ新な雪の上へ足跡を残しながら王太子が屋敷へと歩いて来る。

「こんな雪の日は城でじっとしていた方がいいんじゃないですか?」

「こんな日にだからこそ来たいんじゃないか。エリーヌも昔は雪の日にも部屋になんて閉じこもっていなかったんだろう?」


出迎えた僕に、王太子はブーツについた雪を払いながら言った。


「そうですね。雪が積もった時には、よくクロとマリアと庭で雪だるまを作ったり走り回っていましたよ。」

「フフッ、だと思った。…………エリーヌも見ていた宰相家の雪景色を、僕も見たかったんだ。」


廊下を歩く王太子は嬉しそうに微笑む。

最近、王太子はまた背が伸びた。エリーヌが元気だった頃は僕と同じくらいの背丈だったのに、今は少し見上げる格好になってしまう。

昔病弱だった僕にしては背が伸びた方だと思うけど、180センチ以上あるだろう王太子と並ぶと小さく見えてしまうのが悔しい。僕だって170センチはあるんだからな。


「やあ、王太子。今日も来たのかい?」


客間から出て来たサミュエルさんが王太子を見つけてこちらに近づいて来た。


「サミュエル殿こそ、昨日もここで会いましたよ。」

「あはは、そうだね。ここはもう僕の第2の我が家みたいなもんだからなぁ。」

「人の家を勝手に我が家扱いしないで下さい。」


僕がツッコむと、サミュエルさんは口を尖らせて「ケチ~」と言いながら僕達の後に歩いてついて来る。


「一緒に来るんですか?」

「うん。今日はまだ顔を見ていないからね。顔を見てから帰るよ。」


階段を上り終えたところで、絵本を数冊抱えたエドワードとマリアにガチ合った。

「王太子様、サミュエル様、アーク叔父様、こんにちは。」

「やあエドワード。君とも昨日ぶりだね。もう外の雪では遊んだかい?」

「いいえ。エリーヌ様が一緒じゃないと楽しくないので……。」


シュンとして答えるエドワードの頭を、王太子が優しく撫でる。


「僕がエリーヌに会いに来ると、君達はいつも一緒にいるくらい仲良しだったものね。」


薄ら涙目になって頷くエドワードは先日5歳の誕生日を迎えた。

言葉もしっかり話せるようになり、心身共にスクスクと成長している。
侯爵家の跡取りとしてそれなりに教育を受けているからか、他の子供より大人びて見える。

エリーヌが昔のようにエドワードの側で笑い、共に遊んでくれていたなら、もう少し違っていたのかもしれない。
エリーヌに影響されて破茶滅茶な性格になっていただろうか。
それはそれで侯爵家の将来が心配だから考えものだけどね。

エドワードとマリア親子と別れて廊下を歩いて行くと、丁度入ろうとした部屋から眉間に皺を寄せたキリナムさんが出て来るところだった。


「どうかしたんですか?」

「……小妖精達が煩かったから注意していたのだ。アイツらは集まると羽目を外し過ぎるからな。」

「賑やかでいいですよ。その方がエリーヌも寂しくないだろうし。」


小妖精達に御立腹なキリナムさんに苦笑しつつ、僕はガチャリと扉を開けた。

扉を開けると、そこには色とりどりの花がこれでもかというくらい至る所に飾られ、暖かな空気が流れている。

常にポカポカと春のようなこの状態なので、いつもこの部屋へ来ると、今が雪の降り積もる真冬だということを忘れそうになる。

「あはは。今日もこの部屋には小妖精が沢山いるねぇ。」


僕には見えないが、サミュエルさんには部屋のあちこちをフヨフヨ飛び回っている小妖精が見えている。
小妖精はかなり魔力が高い者にしか見えないというのはキリナムさんに聞いた。
人間は他の種族に比べて魔力が劣るのだが、格段に高い魔力を持つ王太子やクリフォードさんでも小妖精の姿は見えていないらしい。

それを思うと、小妖精が見えていたエリーヌの魔力はどれだけ高かったのだろうか。


王太子は勝手知ったるこの部屋を、脇目も振らず奥までスタスタと進み、ベッド脇で足を止めた。


「やあエリーヌ。今日も可愛いね。」


そっと手を伸ばしベッドに横たるエリーヌの頬を愛おしそうに撫でる王太子は、毎日来ているというのに会えて嬉しいと言わんばかりに目を細める。
僕とサミュエルさんもベッド脇まで移動し、エリーヌの様子を伺う。

僕の妹は眠っているというのに可愛い。
この暖かな部屋のせいか、頬は常にピンク色に染まっていて唇も艶やかに赤く、今にも目を開け起き出してきそうなくらいに血色が良かった。

…………どんなに願っても、それが現実になる事は今まで無かったけれど。




ーーそう、この部屋の主であるエリーヌは、ずっとここで眠り続けているのだ。




2年前のあの日からずっと、僕の可愛い妹は1度も目覚める事無く眠り続けていた…………。
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