トワイライト・ギルドクエスト

野良トマト

文字の大きさ
25 / 122

第25話 忘れられた場所①

しおりを挟む
 エトが目を開けると、そこはほとんど真っ暗だった。
 先ほどの強い光を見た反動もあるのだろう。何度か瞬きをして、目を慣らそうと試みる。

「キューイ……」

 胸にしがみついたシロが、不安げな声を上げた。
 どうやらあの時のまま、くっついていたようだ。

 もう光ってはいないし、いつも通りのシロのようなので、少し安心する。
 きっと突然暗くなって、この子も不安なのだろう。

「シロちゃん――」

 励まそうと声をかけようとした瞬間、何かに後ろから、肩を掴まれた。

「ひ、ひゃぁっ?!」
「キュィイ?!」

 悲鳴が部屋に反響する。
 しかしその後に続いたのは、聞き慣れた声だった。

「ばっ……急に大声出すんじゃないわよ! 私よ私……!」
「あっ、リーシャちゃん……! びっくりしたぁ……」
「それはこっちのセリフよ。突然明るくなったと思ったら、今度は真っ暗になっちゃうんだから……。怪我とかしてないわよね?」
「うん、大丈夫だよ。でも、何が起こったのかな……?」
「……とりあえず、明かりが必要ね。『ファイアトーチ』!」

 リーシャが杖を振ると、杖の上に小さな火の玉が現れた。
 二人の顔が、赤く照らし出される。

「わあ、リーシャちゃん、そんなこともできたんだ。」
「初級の魔法よ。まぁ、そんな燃費は良くないんだけど……私なら、結構もつわ。」

 リーシャが火の玉をかざすと、部屋の中がぼんやりと見えてきた。

 そこそこ大きめの部屋の中央に、大きな丸い台のようなものが置かれており、自分たちはその上に乗っているようだった。
 少し離れた場所に大きな扉があり、その両脇には大きな像が立っている。扉は半分開いているのだが、その先は真っ暗で、ここからでは見ることができない。

 壁や床の感じからして、遺跡の中であることは間違いなさそうだが……。

「……これ、絶対さっきまでの場所じゃないよね……?」
「そうね……何かの魔法で、移動したんだと思うんだけど……」
「そ、そんな魔法、あるの?」
「わ、私だって聞いたことないわよ。でも現にこうなってるんだから、それ以外説明できないでしょ……?」

 予想外の状況に、リーシャもかなり動揺しているようだった。
 周囲は見えるようになったはものの、正直、分からないことだらけだ。

 それに――。

「……ロルフさんは……いないね……。」
「そうね……ちょっと、離れてたからね、たぶん。まったく、肝心な時に……」

 不満を漏らしてはいるが、リーシャもまずロルフの姿を探していたのは、明白だった。

 こんな状況でも、博識なロルフなら、何かの推察ができたと思う。
 そうでなくても、打開策や、行動の指針を見つけ出してくれたに違いない。

 そんな彼が――今は、いないのだ。
 そのことは、とても心許なく思えた。


「……キュイ!」

 気づくと、シロは目の前まで首を伸ばしていた。
 その鳴き声は、まるで自分のことを励ましているようだった。

「シロちゃん……。」

 そうだ。私は、一人じゃない。
 今はリーシャちゃんも、シロちゃんもいる。

 それに、私だって強くなったんだ。
 いつまでも、ロルフさんに甘えてばかりじゃいられないよね。

 エトは双剣を握る手を強く締め、大きく息を吐いた。

「よーし、とりあえず、地上に出ようよ! そしたら、場所も分かるかもしれないし。」
「……そうね。ここでじっとしてるわけにも行かないし、ね。」
「キューィ!」

 リーシャの顔も、少し明るくなったように見える。
 そう、暗い場所で暗くなっていたって、しょうがないのだ。

 二人は乗っていた丸い台を降り、目の前にある扉に向かって歩き出した。
 この部屋にはその一つしか扉がないので、まずはこの部屋を出て、外がどうなってるのかを調べる必要がある。
 幸いにも扉は半分開いているので、部屋を出るのは簡単そうだ。前に来た人がこじ開けていったのかもしれない。

「……ん?」
「どうかした? エト。」
「あ、ううん、足に何か……」
「足?」

 それは、扉の直前まで来たときだった。
 足に大きめの石か何かが当たったのだが、なんとなく不思議な感じがしたので、つい足を止めてしまったのだ。

 リーシャが足元に火の玉を向けると、それが何かはすぐに分かった。

「え……! これ、魔石……?」
「嘘、こんな大きいの、見たこと無いわよ……。」

 剣を置き、両手で拾い上げると、それは紛れもなく魔石だった。
 この前のブラッドグリズリーのものと比べても、三倍はあるだろうか。明らかに異常な大きさだった。

「エト……これ……!」

 さらにリーシャが床を照らす。
 そこには、同じような魔石が、ごろごろと大量に転がっていた。


『ヒカリゴケは、探索が終わった目印として、冒険者が置いていくんだ。』

 ロルフの言葉が、脳裏に蘇る。
 そう、この遺跡は、

「リーシャちゃん……まさか、ここって、未探索の――」

 不安と期待に、胸が高鳴る。
 だが、その感情は、長くは続かなかった。

「?! エト、後ろ!!」
「……え?」

 振り向くと同時に、自分の体が何かに弾き飛ばされる感覚。
 次の瞬間には、エトの体は宙に浮いていた。

「か……はっ。」

 そのまま、中央の台座の上に叩きつけられる。
 体中に激痛が走る。リーシャが何かを叫んでいるようだが、うまく聞き取れない。

 霞んだ視界の先に、扉の横にあった鉄の像が、腕を振るう姿が映った。
 どうして、あんなものが。どうやって。
 まるで考えが追いつかない。

 巨像はその体躯に見合わない速度で動き、こちらに向かって跳躍した。

「――――!!」

 リーシャの叫び声が聞こえる。
 まるで、時間がゆっくりになったように、全ての動きが遅く見える。

 でも、体は動かない。
 意識も朦朧としている。


 目の前に、小さな竜が飛び出した。
 それは大きく翼を広げ、まるで何かを護るかのように、立ちはだかった。

 次の瞬間。
 轟音とともに、巨像を貫く、黒い巨大な稲妻。
 大きく揺れる、視界。

 その端で、小さな竜の体が、ゆっくりと落下していく。

 何が起こったのか理解ができないまま、エトの意識は、鈍く沈んでいった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

処理中です...