トワイライト・ギルドクエスト

野良トマト

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第26話 忘れられた場所②

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「……んっ……」

 目を覚ますと、そこは宿屋の一室だった。
 窓から差し込む朝日が心地よい。

「あ……」

 上半身を持ち上げると、布団の上にシロが、ベットに寄り掛かるようにしてリーシャが、どちらも眠っている姿が目に入った。
 その穏やかな雰囲気に、思わず顔が綻ぶ。

 ……あれ、でも、どうしてここにいるんだっけ……?


「おーい、起きてるか?」

 そんなとき、部屋のドアをノックする音がした。ロルフの声だ。
 その拍子に、リーシャも目を覚ました。

「ふわぁ……エト……」

 最初は寝ぼけ眼だったリーシャだが、すぐにはっとして、エトの両肩を掴んだ。

「エトっ! 目が覚めたのね、体は大丈夫……?!」
「わっ、びっくりした……! うん、全然大丈夫だよ。」
「キュィ?」

 揺れ動かされたことで、シロも目を覚ます。
 ついでに、体を心配されたことで、直前の記憶がおぼろげに蘇ってきた。

 そうだ、私、遺跡で、気を失って――。


「あの、リーシャちゃん……あの後……」

 正直、あの状況からどうなったのか、今の時点では想像もつかなかった。
 その問いに、リーシャも少し困った顔をした。

「う~ん……どう話せばいいのかな……ちょっと待って。」

 リーシャがそう考え込んでいる中、二度目のノックの音が部屋に響いた。

「……細かいことは、ロルフを交えて話しましょ。」

 エトは頷いて、ベッドから起き上がった。


+++


 ロルフ、エト、リーシャの三人は、宿屋のテーブルを三人で囲んでいた。
 昨日の夕方に起こったサボン第七遺跡でのことを、詳細に聞くためだ。

「……つまり、あの後また転送の魔法が動いて、元の場所に帰ってこれた……ってこと?」
「まぁ、ざっくり言うとそうなるわね。黒い大きな雷が落ちて、巨像が動かなくなって……それと一緒に円盤が光りだしたから、急いで飛び込んだのよ。」

 ロルフはしばらく、二人の話を黙って聞いていた。
 正直、信じ難いことばかりだ。

 遺跡のところどころに魔導回路らしきものがある……というのは周知の事実だが、それが今も起動できるという話は聞いたことがない。
 空間転移の魔法にしてもだ。
 魔法学の基礎理論では、『物理法則から外れるほど、魔力の消費量は飛躍的に増える』とされている。人を丸々別の空間に飛ばすなんて、どれほどの魔力が必要か、想像もできない。

 しかし、どちらも実際に目の前で起こった、事実なのだ。

「結局、あの巨像は何だったのかな……。魔物、って感じじゃ無かったけど……」
「そうね。ロルフなら、何か知ってるんじゃないの?」
「……ああ。一つだけ、心当たりがある。『魔導ゴーレム』というやつだ。」

 エトとリーシャが息を飲んで、こちらを見つめる。

「遺跡でいくつか、石でできた巨像が発見されていてな。最初は単なる飾りだと思われていたんだが、内部に複雑な魔導回路が存在することが分かって、簡単な動作ができたんじゃないかと推察されていたんだが……」

 それを聞いて、リーシャは上半身を乗り出して抗議した。

「簡単な動作、って……そんなわけないわ! そこらの魔物より、よっぽど強かったんだから。」
「はい……油断してなくても、勝てる感じは……しませんでした。」

 二人の表情に影がかかる。
 その様子から、どれほどの相手だったのかが、幾らか伝わってくる。

 実際にその戦いを見たわけではないが、視界が悪かったとはいえ、エトが不意打ちを食らうとは考えにくい。相手が巨大だというのなら、なおさらだ。
 すると巨大な石の塊が俊敏に動いたということになるが、それはやはり魔法学の理論から大きく反する。

 ロルフは溜息をついた。

「そればっかりは、俺にも分からんな……。実際に動いてる魔導ゴーレムは、まだ一つも見つかってないんだ。」
「そう……ですか……」
「じゃあ、私たち、相当凄い発見をしたのね。……信じてもらえれば、だけど。」

 リーシャはめんどくさそうに頬杖をついた。

 その通り、『探索済みの遺跡の一部が動いていて、転送魔法で未探索の遺跡に飛ばされて、そこで魔導ゴーレムと戦いました』なんてことを報告したとして、素直に信じられる人はまずいないだろう。
 自分自身、未だ何かの幻覚を見たという説を捨てきれずにいるほどだ。

 しかし二人の言動は一致していて、戻ってきたエトは確かに負傷していた。もちろんすぐにリーシャが魔法で治療したが、それは確かに強力な打撃の痕跡だった。

 そして、何より――

「まあその点は……これの使い方次第、だな。」

 ロルフは、テーブルの真ん中に置かれた、奇妙な魔石に目を落とした。
 それは灰色に濁ったようでもあり、角度によっては鈍い虹色にも見える、不思議な色合いをしていた。
 魔力は感じるので、魔石であることには違いないはずだが、やはり明らかに異常な大きさだ。

「それにしてもリーシャちゃん、良くこれまで持ってこれたね。」
「ちょっと、そんな余裕あるわけないでしょ。エトが持ったまま吹っ飛ばされたから、円盤におっこちてたの。偶然よ、偶然。」
「あ……じゃあこれ、あの時拾った魔石なんだ。あの後が衝撃的過ぎて、全然覚えてなかったなぁ。」

 二人の話によると、飛ばされた先の遺跡では、これと同じものがゴロゴロ落ちていたらしい。
 それこそ夢物語だが、その一つがここにあるとなれば、話は変わってくる。

 これは、この異常な現象の証拠品となりうる。

 ロルフは顔を上げ、エトとリーシャの顔を交互に見た。

「二人とも、これは間違いなく大きな発見だ。すぐに形にするのは難しいかも知れないが、お前たちの成果が認められるよう、俺も全力を尽くすよ。」
「えへへ、ありがとうございます、ロルフさん。」
「ふん、まあ、あんまり期待しないで待ってるわよ。」


 二人は良くやってくれた。
 さて、ここから先は……俺の仕事だ。

 ロルフの脳裏には、旧友の姿が浮かんでいた。
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