トワイライト・ギルドクエスト

野良トマト

文字の大きさ
37 / 122

第37話 ジャンボカニ祭り③

しおりを挟む
「んー……! おいしい……!」

 カニの身を頬に詰めて、エトは目を輝かせた。

「カニにかぶりつくなんて、夢みたいなのだ~!」
「ホント、まさか魔物の肉が食べれるなんて……」

 スゥとリーシャも驚きながら、その身を口に運んでいる。

「はは、そうだろう。これがダイオウガニが駆除されない最大の理由だな。」

 ロルフ一行は、町の料理屋に来ていた。
 取ってきたハサミを買い取ってもらうためと、それを料理してもらうためだ。

 ちなみにエト達も驚いていたが、基本的に魔物の肉は食用に向かない。
 魔物とそうでない動物の最大の違いは、体内に魔石を持ち、魔力を体に巡らせて身体能力を強化している点だ。
 このため巨体を維持できるのだが、死んで魔力の供給が止まると、筋肉に残った魔力が逆流するとかで、その肉質は急激に劣化してしまう。

 この現象は『魔力焼け』と呼ばれており、味は悪くなるわすぐ腐るわで、食用としては非常に扱いにくいのだ。

 しかし一方で、ダイオウガニのハサミは、切り落とすと内部の魔力を消費して、可能な限り閉じ続けるようになっている。
 倒せない敵に出会った際に相手の体を挟んだままハサミを自切し、逃げるためではないか……と昔の仲間が分析していたが、ともかくこの性質のおかげで、ハサミだけ落とせば魔力焼けが起こらないのだ。

 固く閉じたハサミが手で開けるようになれば、魔力が切れた合図。すなわち、食べごろなのである。


「たしかにこんなおいしいなら、倒しちゃうのはもったいないのだ。」
「そうね。ハサミが生えてきたら、また上がってくるんでしょ?」
「うんうん、なんだか、すごくお得な魔物って感じがするよね。」

 楽しそうに話す三人を見て、ロルフは軽く溜息をついた。

 やれやれ、そんな簡単に取ってこれるものじゃないんだけどな。
 店の人も『ハサミ六本』と伝えたときは驚いていたが、自分だってこの子たちのポテンシャルには驚かされっぱなしだ。

「さて、お前たちのおかげで、ずいぶん臨時収入があったからな。港町でしか食べられないものは多いんだ、まだまだ料理は来るぞ!」
「うわあ、楽しみですねっ。」
「望むところなのだー!」
「……食べ過ぎて倒れないでよ?」


 四人は心ゆくまで、魚介料理を堪能したのだった。


+++


「うっぷ……食べ過ぎたのだ……。」
「言わんこっちゃないわね……こういうのは自制が、大事、なのよ……。」
「り、リーシャちゃん、無理に喋らないほうがいいよ……?」

 料理屋を出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
 ロルフは少し補充したいものがあるらしく、先に馬車のところで待っていてほしいと言われたので、今は三人だけで向かっている。

 みんなでついて行っても良かったのだが、二人がこんな感じなので、きっとロルフも気を使ったのだろう。


「それにしても、エトとリーシャをクビにしたギルドはアホなのだ。二人ともめちゃくちゃ強いのだ!!」

 突然、スゥは自分とリーシャに向かって、そう言い放った。
 その表情は、とても嬉しそうだ。

「そ、それはスゥもでしょ。一番活躍してたじゃない。」

 褒められるのが不得意なリーシャは、相変わらず頬を赤らめている。

「いやぁ~……スゥもこんなに戦えたのは初めてなのだ。まさか武器を変えただけで、こんなふうになるなんて……」

 スゥは軽く照れながら、昼の戦いを思い出しているようだった。
 その言葉に、思わず笑みが漏れる。

「ふふ、それ、私たちもなんだよ。」
「え……っ、そうなのだ?」

 意外そうな顔をするスゥに、うん、と深く頷いて返す。

「私は壊れた武器で戦ってて、リーシャちゃんは杖の調整があってなくて。それを見つけてもらって、直してもらって、今みたいに戦えるようになったんだよ。」

 噛み締めるように、一言一言、ゆっくりと口に出す。

 言葉にすると、こんなにも短い。
 でもその中には、いろんなものが詰まっている。

 苦しかったこと、辛かったこと。
 そして何より、嬉しかったこと。

「エト……」

 スゥの目は少し、潤んでいるようだった。
 リーシャは軽く微笑みながら、静かに頷いていた。

「だから……私は、恩返しがしたいの。」

 夜空を見上げると、満天の星が輝いていた。

 自分に何ができるのか、まだ分からないけど。
 それでも、いつか。

 あの人が苦しい時に、助けられるように。
 辛い時に、手を差し伸べられるように。

 私は、強くなりたい。


「……なんて、ね。ほらほら、早く行かないと、馬車行っちゃうかもだよ!」
「あっ、ちょっとエト、走らないで……っ!」
「うぐ、まだ、お腹が――」

 二人の手を引いて、走り出そうとした、その時だった。

 まさにその先から、怒声が聞こえてきたのだ。

「泥棒だ! 馬車の積み荷が、盗まれたぞーッ!!」

 三人は足を止め、顔を見合わせた。

「……馬車の」
「積み荷……?」

 思わず、息が止まる。
 自分たちの荷物も、ほとんどは馬車に置いてあるのだ。

 そして、その中には――

「シロちゃん……っ!!」

 気づけばその足は、声の方へと駆け出していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...