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第38話 受注拒否

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「Sランクのクエストを受注したい……ですか。」

 受付嬢のその言葉に、アドノスは小さく舌打ちをした。

 当然だが、『ルーンブレード』はAランクギルドなので、Sランクのクエストの受注書は配布されていない。
 ようするに、現状ではどんなクエストがあるかもわからないのだ。

 だからこうやって、わざわざギルドマスターが直々に出向いてやっていると言うのに、そのすっトロい反応はなんだ?

「ああ。クエストを選ぶから、早くリストを寄越せ。」
「……少々、お待ちください。」

 そう言って、受付嬢は奥へと下がっていた。

 まったく、これだからここは嫌なんだ。
 たかがクエストの仲介をするだけの単純作業だというのに、それすらまともにこなせないのか。

 イラつきを抑えながらしばらく待っていると、奥から別の女性が出てきて、こちらへ向かってきた。
 その姿には、多少の見覚えがある。

「お待たせしました。ギルド協会所長の、エリカと申します。」

 ああ、そうだ。
 確かギルドマスター引継ぎの時にもいた気がするな。
 だが、今はそんなことはどうでもいい。

「……それで、Sランククエストのリストはどこだ?」

 彼女は手ぶらだった。
 さっき下がっていったヤツから、事情を聞かなかったのか?
 無能な奴というのは、よほど時間を無駄にするのが好きらしい。

「その件ですが、アドノスさんのギルドはAランクですので……」

 エリカは笑顔のまま、そのマニュアルのような言葉を並べ始めた。

 イライラが頂点に達し、カウンターに拳を叩きつける。
 ギルド協会内が静まりかえり、周囲の視線が集まる。

「そういう前置きはいいんだよ。ギルドマスターが申請すりゃ、一つ上のランクのクエストは受けられるんだろうが。とっととリストを出せっつってんだよ!!」

 アドノスはそう叫んで、そしてぎょっとして固まった。

 目の前のエリカが、顔色一つ変えず、笑顔のままだったからだ。


「それは、できません。」

 一呼吸おいて、笑顔のまま、エリカははっきりした口調でそう言った。

 アドノスはしばらく、開いた口を塞ぐことができなかった。
 言いたいことは色々あるのだが、考えがまとまらない。

 そうしていると、エリカはそのままの口調で、ゆっくりと説明を始めた。

「確かに、一つ上のランクのクエストを受けられるというルールは存在します。ただし、それはギルド協会からの依頼、あるいはクエストの依頼主からの要望に応じる場合にのみ適応されるもので、ギルド側が自由に選択できるものではありません。」

 ――なんだと?

 いや、それは、そういう体というだけじゃないのか……?
 こっちでクエストを選んで、それをギルド協会からの依頼ってことにしてもらえばいいだけだろう。
 そういう抜け穴じゃないのか!

「だ、だから、依頼として受けると……」
「ですから。」

 割って入ったアドノスの言葉をかき消すように、エリカが口を開いた。

「現状、そちらのギルドにSランクの依頼はありません。依頼の際はギルドの方へ連絡させて頂きますので、その際は是非よろしくお願いしますね。」
「……っ?!」

 なぜ、 おかしいじゃないか。
 受ける資格がないと言うのか。

 クエストの達成率が悪いからか?
 それなら、俺のパーティーは関係ない!
 無能なギルドメンバーが勝手に失敗して、報告すらしかなったからだ!!

 Sランクの実力があるのに、周りのゴミ共のせいで、それを証明するチャンスすら掴め無いのか。
 こんな不条理があっていいのか?!


 アドノスはカウンターに両手を叩きつけ、身を乗り出して抗議した。

「ま、待ってくれ! 俺のパーティーは、他の雑魚達とは違う!! このために元Sランクの冒険者も加えたんだ、それに……」
「他の雑魚、というのは……あなたの、ギルドメンバーの事ですか?」

 そのエリカの言葉は、今までとは少し違っていた。
 アドノスはそれ以上、言葉を続けることが出来なかった。


+++


「……クソッ!!」

 アドノスは、傍にあった木に拳を叩きつけた。

 結局、酷い辱めを受けた挙句、Sランククエストを受注することはできなかった。
 結果も気分も、全てが最悪だ。

 しかし、こうして足踏みしているわけにもいかない。
 ただ怒りに任せて思考を放棄するというのは、愚か者のやることだ。

 何か、何か方法を考えなければ――。

「おや、ここに居ましたか。探しましたよ、ギルドマスター。」

 その思案を裂くように、背後からの声。
 振り返ると、そこには神父姿の竜人……ロキが立っていた。

 こいつとギィは、Sランククエストを受けさせてやるという条件でギルドに加入させた訳なので、正直今はあまり会いたくないタイミングだ。

「……何の用だ。」

 こうは言ったものの、ロキに探される要件など、前述の一つしか心当たりがない。
 そしてそれは失敗した訳なので、どう説明したものか考えなければならない。

 正直、これが一番の屈辱だった。
 言い訳じみた御託を並べるのは、自分の最も嫌いなことだからだ。

「――実は、一つお願いがありましてね。」

 しかし、彼の返答は、想像のそれとは違っていた。
 いいや、想定からすると、むしろというべきなのだろうか。

 ロキはその言葉と共に手に持っていた紙を差し出し、アドノスは目を見開いた。

「な……どう、して……」


 それは、Sランククエストの受注書だった。
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