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第46話 疑惑の受注書
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ギルドの書斎にて、アドノスは一人、机の上を睨みつけていた。
そこに乱雑に置かれているのは、Sランククエストの受注書。昨日、ロキに手渡されたものだ。
「チッ……」
アドノスは舌打ちして、椅子の背もたれに体を投げた。
『……少し、考えさせろ。』
あの時、俺はロキに、そう答えた。
奴は一瞬意外そうな顔を見せたが、すぐに表情を戻し、そのまま受注書を差し出してきた。
『確かに、急に決められるものでもありませんでしたね。それはお渡ししておきます。前向きに検討していただきたい。』
そう言い残し、ロキは去っていった。
だから今、Sランククエストの受注書は、ここにある。
この受注書は、本物だ。
これを突き出せば、あの忌々しいギルド協会の連中も、クエストの受注を認めざるを得ないだろう。
依頼主からの要望に応じる場合、一つ上のランクまで受注できる。そう説明したのは、他でもない、ギルド協会のあの女だ。
自分をコケにした奴を見返せる状況が、すぐに手に入ったのだ。
頭の悪い奴なら、「でかした」とでも叫んで、受注書を片手に意気揚々とギルド協会まで走っていったことだろう。
だが、俺は馬鹿じゃない。
Sランククエストの受注に失敗した帰りに、都合よくSランククエストの受注書を持った人物が現れるだと?
少し考えればわかる。これは、何かが妙だ。
アドノスは目を閉じ、額に拳を強く押し当てた。
――Sランククエストに、参加させる。
それが、ロキとギィをこのギルドに勧誘した際の条件だった。
Sランククエストは最も報酬が高く、冒険者としての実績にもなる。参加を望むこと自体は、何も不思議じゃない。
だが、それだけが目的なら、こんなモノはギルドに入った時点で、早々に渡すに決まっている。
ロキ自身、つい最近手に入れた――という可能性もゼロではないが、これからギルドマスターがSランククエストを受けに行くと言っているのに、わざわざ直接依頼主から受注書を貰ってくるとは考えにくい。
最初から受注書を持っていて、あえて今まで渡さなかったとしたら。
考えられる可能性は、二つ。
一つは、ギルドマスターの俺に助け船を出すことで恩を売り、ギルド内で優位に動けるようにするという作戦。
この場合、俺に勘付かれた時点で半分失敗だが、だからと言って向こうに大したデメリットはない。最終的にはSランククエストは受けられるだろうし、助け船を出した事実も残る。
信頼を失うという点を除けば、悪くない策だ。
或いは――
アドノスは薄目を開け、汚いものでも見下ろすように、受注書を見た。
「このクエストを、意地でも受けさせたい、か……。」
『遺跡最下層に住み着いた、大型魔物の討伐』と書かれているそれは、ずいぶんと前に発行されたものらしい。
言い換えれば、長い間放置されていたクエストだということだ。
そもそも、最初からSランククエストを達成することが目的なのではなく、『このクエストを受けさせること』が目的だったとしたら。
そして、じっくり調べられると困る事情が、何かあったのなら――。
アドノスは、頭を左右に大きく振り、ゆっくり息を吐きだした。
どちらにせよ、恐らく奴はギルドのルールを熟知しており――俺にはSランクのクエストが受注できないということを、知っていたのだ。
その上で、『Sランククエスト参加』の条件でギルドに加入し、発破をかけ、俺が受注に失敗するのを、待っていた。
ギルドの評価が最悪になり、この受注書を使うしかなくなる、このタイミングを。
「ふざけやがって……ッ!!」
机を蹴り飛ばす音が、部屋に響く。
その振動で受注書は宙に舞い、足元に滑り込むように、地面に落ちた。
俺は、『使う』側の人間だ。
使われるしか存在価値のない愚かな屑共とは、断じて違う。
導く立場に、上に立つべき存在なんだ。
お前らは――ただ黙って、踏み台になっていればいい!!
アドノスは、足元のその紙切れを、勢いよく踏みつけた。
怒りに歪む顔の口角を、無理やり押し上げる。
「ハッ……。いいだろう……受けてやろうじゃないか……。」
口しか能がない、ギルド協会の奴らも。
実力不相応な、ギルドの雑魚共も。
姑息な企てをする、Sランク落ちの奴らも。
「『利用する』のは……、俺だ……ッ!!」
土に汚れた受注書を拾い上げ、承認印を叩きつけた。
そこに乱雑に置かれているのは、Sランククエストの受注書。昨日、ロキに手渡されたものだ。
「チッ……」
アドノスは舌打ちして、椅子の背もたれに体を投げた。
『……少し、考えさせろ。』
あの時、俺はロキに、そう答えた。
奴は一瞬意外そうな顔を見せたが、すぐに表情を戻し、そのまま受注書を差し出してきた。
『確かに、急に決められるものでもありませんでしたね。それはお渡ししておきます。前向きに検討していただきたい。』
そう言い残し、ロキは去っていった。
だから今、Sランククエストの受注書は、ここにある。
この受注書は、本物だ。
これを突き出せば、あの忌々しいギルド協会の連中も、クエストの受注を認めざるを得ないだろう。
依頼主からの要望に応じる場合、一つ上のランクまで受注できる。そう説明したのは、他でもない、ギルド協会のあの女だ。
自分をコケにした奴を見返せる状況が、すぐに手に入ったのだ。
頭の悪い奴なら、「でかした」とでも叫んで、受注書を片手に意気揚々とギルド協会まで走っていったことだろう。
だが、俺は馬鹿じゃない。
Sランククエストの受注に失敗した帰りに、都合よくSランククエストの受注書を持った人物が現れるだと?
少し考えればわかる。これは、何かが妙だ。
アドノスは目を閉じ、額に拳を強く押し当てた。
――Sランククエストに、参加させる。
それが、ロキとギィをこのギルドに勧誘した際の条件だった。
Sランククエストは最も報酬が高く、冒険者としての実績にもなる。参加を望むこと自体は、何も不思議じゃない。
だが、それだけが目的なら、こんなモノはギルドに入った時点で、早々に渡すに決まっている。
ロキ自身、つい最近手に入れた――という可能性もゼロではないが、これからギルドマスターがSランククエストを受けに行くと言っているのに、わざわざ直接依頼主から受注書を貰ってくるとは考えにくい。
最初から受注書を持っていて、あえて今まで渡さなかったとしたら。
考えられる可能性は、二つ。
一つは、ギルドマスターの俺に助け船を出すことで恩を売り、ギルド内で優位に動けるようにするという作戦。
この場合、俺に勘付かれた時点で半分失敗だが、だからと言って向こうに大したデメリットはない。最終的にはSランククエストは受けられるだろうし、助け船を出した事実も残る。
信頼を失うという点を除けば、悪くない策だ。
或いは――
アドノスは薄目を開け、汚いものでも見下ろすように、受注書を見た。
「このクエストを、意地でも受けさせたい、か……。」
『遺跡最下層に住み着いた、大型魔物の討伐』と書かれているそれは、ずいぶんと前に発行されたものらしい。
言い換えれば、長い間放置されていたクエストだということだ。
そもそも、最初からSランククエストを達成することが目的なのではなく、『このクエストを受けさせること』が目的だったとしたら。
そして、じっくり調べられると困る事情が、何かあったのなら――。
アドノスは、頭を左右に大きく振り、ゆっくり息を吐きだした。
どちらにせよ、恐らく奴はギルドのルールを熟知しており――俺にはSランクのクエストが受注できないということを、知っていたのだ。
その上で、『Sランククエスト参加』の条件でギルドに加入し、発破をかけ、俺が受注に失敗するのを、待っていた。
ギルドの評価が最悪になり、この受注書を使うしかなくなる、このタイミングを。
「ふざけやがって……ッ!!」
机を蹴り飛ばす音が、部屋に響く。
その振動で受注書は宙に舞い、足元に滑り込むように、地面に落ちた。
俺は、『使う』側の人間だ。
使われるしか存在価値のない愚かな屑共とは、断じて違う。
導く立場に、上に立つべき存在なんだ。
お前らは――ただ黙って、踏み台になっていればいい!!
アドノスは、足元のその紙切れを、勢いよく踏みつけた。
怒りに歪む顔の口角を、無理やり押し上げる。
「ハッ……。いいだろう……受けてやろうじゃないか……。」
口しか能がない、ギルド協会の奴らも。
実力不相応な、ギルドの雑魚共も。
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