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第47話 刺激的な日常①
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ロルフは何枚かの書類を書き終えて、ふう、と小さく息を吐いた。
それに合わせてか、窓際で丸まっていたシロも、小さく鳴いた。
シロ越しに、窓の外の空を眺める。今日もずいぶんといい天気だ。
エト、リーシャ、スゥの三人は、今日もクエストに出かけている。
Bランクになり、最初の二回ほどはロルフが付き添っていたのだが、今は装備の相性が良いクエストなら問題はないと判断し、ギルドマスターの仕事に専念することにしていた。
不安がないわけではないが、十分に戦えているのに、ずっと見ているだけというわけにもいかない。
ちなみに、ギルドマスターの仕事というのは、基本的に書類仕事だ。
ギルドの活動に必要な資金の一部は、申請によりギルド協会から出してもらえる場合がある。そのための書類を作成しているのだ。
トワイライトは、メンバーがたった三人のギルドとしては異例なくらい順調に稼いでいると思うが、そこはやはり少人数。短剣や杖はまだしも、大型武器をも十分に整備する設備を揃えるためには、資金がまだまだ足りない。
しかし一方で、ギルドとしての成果は上々なので、資金援助を受けられる可能性は高くなっている。こういった支援は国からギルドへの投資のようなものなので、将来性のあるギルドは申請が通りやすいのだ。
こういう制度を利用してギルドを良くするのも、ギルドマスターの重要な責務だ。
書き終えた書類をまとめて、紙の封筒にしまう。
さて、あとはギルド協会に持っていくだけ――と、そんなタイミングだった。
「……クシッ!」
「ん?」
あまり聞き覚えのない音。
振り向くと、それはどうもシロからのようだった。そのあとにも、「キッ」「シッ」と何度か続く。
鳴き声ではない、空気の漏れるような音だ。
「……くしゃみ?」
「キュィ……クシッ!」
シロは少し気だるそうに、頭をこちらに持ち上げた。少し目が潤んでいる気もする。
ロルフは顔を近づけて、それとその周囲に目をやった。
窓は開いていないし、埃っぽい場所でもない。
となると……もしかして、これは……。
「シロ、まさかお前、風邪を引いたのか……?」
「キュィイ……」
ロルフの脳内に、雷で撃たれたような衝撃が走る。
なんてことだ。
竜って、風邪を引くのか。
急いで、脳内の竜の情報をひっくり返し、片っ端から探る。
が、倒し方の情報こそあれ、風邪の際の対処方など見つかるわけもない。
というか、よく考えたら、シロの種類すらよくわからないのだ。
こうなると、それこそ、温めればいいのか冷やせばいいのかすらわからない。
ロルフは気づくと、その場を右に左に行ったり来たりしていた。
……いかん。
このままこうしていても、しかたがない。
一度大きく息を吐いて、シロに向き直る。
一般論ではあるが、こういったときは、食べられるなら食べさせて、なるべく安静にしておくのがいいはずだ。
「キュ……?」
ロルフは一人頷くと、弱々しく鳴くシロを抱えて立ち上がった。
とりあえず、まずは寝床に運ぶべきだ。
持ち上げた時、何か、指がパチッとする感触があった気がしたのだが、特に気には止めなかった。
書斎を出ると、ちょうど一階から玄関の開く大きな音と共に、スゥの声が聞こえてきた。
どうやら、三人も帰ってきたらしい。
とりあえず、三人にも伝えておいた方がいいな……そう思いながらドアを閉め、階段に足を向けた、その時だった。
「キュッシュィッ!!」
シロの大きなくしゃみと共に、青い閃光が炸裂した。
+++
「ただいまー! なーのだー!!」
そう言いながら、スゥは元気よく扉を開く。
ばあん、と乾いた音が、玄関に響いた。
「ちょっとスゥ、もっと優しく開けなさいってば! あんたが本気出したら、木製のドアくらい簡単に壊れるんだからね?!」
焦ったようにそれを追って、リーシャも玄関に入る。
「なんと。じゃあ鉄とかで補強しなきゃなのだ。」
「なんで扉を強化すんのよ! あんたが弱くすんの!」
てへ、と舌を出すスゥに、リーシャはやれやれと肩を落とした。
エトも苦笑いしつつ、その後に続く。
「えーと、鍵が開いてるってことは……まだ、行ってないよね。」
三人は、近場のクエストを達成して、一度ギルドハウスに戻ってきたところだった。
そのままギルド協会へ報告しに行っても良かったのだが、ロルフも昼過ぎにギルド協会に行くと言っていたので、まだいたら皆で一緒に行こうと思ったのだ。
軽く辺りを見回すと、階段のほうから物音がしたので、エトはすぐにそちらに顔を向けた。
「あ、ロルフさ――」
笑顔で片手を振り上げ、名前を呼ぼうとする。
が、その言葉は、すぐに別の声でかき消された。
「ぐあーーっ?!」
「?!」
突然の悲鳴に、三人は飛び上がった。
声がするのは、まさにその二階からだ。
「な、なな、何よっ?!」
「今の、ロルフの声なのだ?!」
「……っ!」
動揺する二人を背に、エトはいち早く飛び出していた。
飛ぶように階段を駆け上がると、ロルフの姿はすぐに見つかった。
書斎の扉の前に、何かを抱え込むようにして倒れている。
瞬時に、周囲の気配を探る。人や獣の気配は感じられない。
エトは急いでロルフに駆け寄った。
「ロルフさん! 大丈夫ですか?! 何があったんですか?!」
その呼びかけに、ロルフは微かに頭を持ち上げ、片手をエトに向かって伸ばした。
「……し……」
「し……?!」
「し……痺れ、た……。」
そう言い残すと、ロルフの手はぱたりと床に落ちた。
それに合わせてか、窓際で丸まっていたシロも、小さく鳴いた。
シロ越しに、窓の外の空を眺める。今日もずいぶんといい天気だ。
エト、リーシャ、スゥの三人は、今日もクエストに出かけている。
Bランクになり、最初の二回ほどはロルフが付き添っていたのだが、今は装備の相性が良いクエストなら問題はないと判断し、ギルドマスターの仕事に専念することにしていた。
不安がないわけではないが、十分に戦えているのに、ずっと見ているだけというわけにもいかない。
ちなみに、ギルドマスターの仕事というのは、基本的に書類仕事だ。
ギルドの活動に必要な資金の一部は、申請によりギルド協会から出してもらえる場合がある。そのための書類を作成しているのだ。
トワイライトは、メンバーがたった三人のギルドとしては異例なくらい順調に稼いでいると思うが、そこはやはり少人数。短剣や杖はまだしも、大型武器をも十分に整備する設備を揃えるためには、資金がまだまだ足りない。
しかし一方で、ギルドとしての成果は上々なので、資金援助を受けられる可能性は高くなっている。こういった支援は国からギルドへの投資のようなものなので、将来性のあるギルドは申請が通りやすいのだ。
こういう制度を利用してギルドを良くするのも、ギルドマスターの重要な責務だ。
書き終えた書類をまとめて、紙の封筒にしまう。
さて、あとはギルド協会に持っていくだけ――と、そんなタイミングだった。
「……クシッ!」
「ん?」
あまり聞き覚えのない音。
振り向くと、それはどうもシロからのようだった。そのあとにも、「キッ」「シッ」と何度か続く。
鳴き声ではない、空気の漏れるような音だ。
「……くしゃみ?」
「キュィ……クシッ!」
シロは少し気だるそうに、頭をこちらに持ち上げた。少し目が潤んでいる気もする。
ロルフは顔を近づけて、それとその周囲に目をやった。
窓は開いていないし、埃っぽい場所でもない。
となると……もしかして、これは……。
「シロ、まさかお前、風邪を引いたのか……?」
「キュィイ……」
ロルフの脳内に、雷で撃たれたような衝撃が走る。
なんてことだ。
竜って、風邪を引くのか。
急いで、脳内の竜の情報をひっくり返し、片っ端から探る。
が、倒し方の情報こそあれ、風邪の際の対処方など見つかるわけもない。
というか、よく考えたら、シロの種類すらよくわからないのだ。
こうなると、それこそ、温めればいいのか冷やせばいいのかすらわからない。
ロルフは気づくと、その場を右に左に行ったり来たりしていた。
……いかん。
このままこうしていても、しかたがない。
一度大きく息を吐いて、シロに向き直る。
一般論ではあるが、こういったときは、食べられるなら食べさせて、なるべく安静にしておくのがいいはずだ。
「キュ……?」
ロルフは一人頷くと、弱々しく鳴くシロを抱えて立ち上がった。
とりあえず、まずは寝床に運ぶべきだ。
持ち上げた時、何か、指がパチッとする感触があった気がしたのだが、特に気には止めなかった。
書斎を出ると、ちょうど一階から玄関の開く大きな音と共に、スゥの声が聞こえてきた。
どうやら、三人も帰ってきたらしい。
とりあえず、三人にも伝えておいた方がいいな……そう思いながらドアを閉め、階段に足を向けた、その時だった。
「キュッシュィッ!!」
シロの大きなくしゃみと共に、青い閃光が炸裂した。
+++
「ただいまー! なーのだー!!」
そう言いながら、スゥは元気よく扉を開く。
ばあん、と乾いた音が、玄関に響いた。
「ちょっとスゥ、もっと優しく開けなさいってば! あんたが本気出したら、木製のドアくらい簡単に壊れるんだからね?!」
焦ったようにそれを追って、リーシャも玄関に入る。
「なんと。じゃあ鉄とかで補強しなきゃなのだ。」
「なんで扉を強化すんのよ! あんたが弱くすんの!」
てへ、と舌を出すスゥに、リーシャはやれやれと肩を落とした。
エトも苦笑いしつつ、その後に続く。
「えーと、鍵が開いてるってことは……まだ、行ってないよね。」
三人は、近場のクエストを達成して、一度ギルドハウスに戻ってきたところだった。
そのままギルド協会へ報告しに行っても良かったのだが、ロルフも昼過ぎにギルド協会に行くと言っていたので、まだいたら皆で一緒に行こうと思ったのだ。
軽く辺りを見回すと、階段のほうから物音がしたので、エトはすぐにそちらに顔を向けた。
「あ、ロルフさ――」
笑顔で片手を振り上げ、名前を呼ぼうとする。
が、その言葉は、すぐに別の声でかき消された。
「ぐあーーっ?!」
「?!」
突然の悲鳴に、三人は飛び上がった。
声がするのは、まさにその二階からだ。
「な、なな、何よっ?!」
「今の、ロルフの声なのだ?!」
「……っ!」
動揺する二人を背に、エトはいち早く飛び出していた。
飛ぶように階段を駆け上がると、ロルフの姿はすぐに見つかった。
書斎の扉の前に、何かを抱え込むようにして倒れている。
瞬時に、周囲の気配を探る。人や獣の気配は感じられない。
エトは急いでロルフに駆け寄った。
「ロルフさん! 大丈夫ですか?! 何があったんですか?!」
その呼びかけに、ロルフは微かに頭を持ち上げ、片手をエトに向かって伸ばした。
「……し……」
「し……?!」
「し……痺れ、た……。」
そう言い残すと、ロルフの手はぱたりと床に落ちた。
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