トワイライト・ギルドクエスト

野良トマト

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第53話 マナの森⑤

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 エトたちは、待合室に置いていた各々の武器を回収した後、マイアの案内で森の中を進んでいた。

 天気としては晴れていたはずなのだが、巨大に生い茂る木々は徐々に陽を遠ざけて行き、今や曇りの朝方よりも薄暗い。
 辛うじて道と呼べそうな場所を歩いてはいるものの、ひざ丈まで伸びた雑草と、進むごとに濃くなる霧の前では、その恩恵はあってないようなものだ。

 とはいえ、森の中で育ったエトやマイアにとっては、この程度は慣れたもの。
 さして苦も無く進むことができるのだが――。


「……」
「……」

 足元の根やぬかるみを器用に避けつつ、エトは小さく軽く頭を抱えた。 

 会話するタイミング、完全に見失ったぁ……。

 久しぶりの同郷の友達。当然、話したいことも聞きたいことも沢山ある。
 しかし、会ってすぐにこの素材集めを頼まれたのもあり、「久しぶり、元気だった?」というような再会の挨拶ができないまま、とうとうこんな森深くまで来てしまったのだ。

 こういうものは時間がたてばたつほど切り出しにくくなるわけで、比較的無口なマイアの性質も相まって、エトはまさに森に迷い込んだような心境だった。

 助けを求めて、ちらりと背後を振り向く。

「うわぁ、この岩ヌルヌルするし、根っこも引っかかるし、めちゃくちゃ歩きにくいのだぁ……」
「うぅ……ま、まだ……目的地、には、つかないの……?」

 そっちはそっちで、スゥとリーシャが、足場の悪さに悪戦苦闘していた。
 スゥは汗だくで、うんざりした顔をしているし、魔法の杖を文字通り杖にしているリーシャに至っては、体力の限界が近そうだ。助言を期待できそうな雰囲気ではない。

 マイアもそれを気遣ってか、ゆっくり歩いてはくれているものの、慣れていない者にとって足場の悪さは想像以上に体力を削る。
 これは一度休憩を提案したほうがいいかな……と、思った時だった。

「ついたのですよ。」
「あ……っ。」

 マイアはぴたりと立ち止まると、顔だけをこちらに向けて、足元にある白い花を手で示した。

 両手でぎりぎり覆えるくらいのその花は、微かに青白く光っている。
 顔を近づけると、花弁の内側には一さじほどの蜜が包まれるように入っていて、キラキラと輝いているようだった。

「これが……マナの花……?」
「……そうです。マナの森にしか咲かない、魔力を蜜にして貯め込む性質を持つ、希少な花。」

 そう呟くように言って、マイアは更に前に歩き出した。
 それに気づいて、慌てて頭を上げる。

 次に目に飛び込んできたのは、マイアの周囲から波が広がるように、マナの花に次々と光が灯っていく、不思議な光景だった。

 その光は、星のようでもあり、また蝶のようでもあり、やっぱり花でもあって。
 その中心で振り返るマイアは、まるでおとぎ話の妖精のようだった。

「こうやって魔力を流し込んでやると、魔力の蓄積量に応じて強く光るのです。ここから光量が一定以上の物を――」
「……きれい。」

 エトの口から、思わず言葉がこぼれる。

 その直後、マイアの話を遮ってしまったことに気づいて、はっと口を抑えた。
 恐る恐るその表情に目をやると、彼女はきょとんとした目でこちらをしばらく見ていたが、ふいに顔を緩めた。

「ふふっ……変わってないですね、エトは。」
「え、えっと……ご、ごめんね?」

 恥ずかしさで、思わず頬が赤くなる。
 でも、それ以上に、マイアが笑ってくれたことが嬉しかったりもして、エトはつられて笑顔になっていた。

 ようやく、マイアと話せた。
 そんなような気がしたのだ。

「でも、マイアちゃんだって変わってないよ。」
「……え?」
「昔から魔法が得意で、優等生で……それで今は、Sランクギルドにいるんだもん。やっぱり、凄いなあって。」
「……」

 エトその言葉に、マイアは静かに目を伏せた。

「そんなこと、ないのですよ。」
「えっ、でも……」

 口に出そうとしたその声を、エトは思わず飲み込んだ。
 顔を上げたマイアのその表情が、いつか見た、寂しげな笑顔だったからだ。

「もう……治癒魔法が使えないと言っても、ですか?」

 淡い光の中にただ一人立つマイアの姿は、そのまま儚く消えてしまいそうに思えた。
 まるでおとぎ話の、妖精のように――。
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