トワイライト・ギルドクエスト

野良トマト

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第64話 恒例の歓迎会①

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「これは……少し、多すぎるのでは……?」

 テーブルいっぱいに置かれた料理を見て、マイアは目を丸くしていた。

「そんなことないわよ。どっちかというと、ようやく適正量になった感じね。」
「あはは、確かに。今は、五人もいるもんね。」
「?」

 そこに更に二枚の皿を加えながら、エトとリーシャが目を合わせて笑う。

「にゃはは、今回はスゥも、殻を割ったり種を割ったり手伝ったのだ!」
「キューイ!」

 今度はスゥが、最後の大皿を頭上に掲げて、くるりとやってきた。
 その周りをさらにくるりと飛んで、シロも舞い込んでくる。

 危ない、と焦るエトとリーシャ。おどけて返すスゥ。その周りを、楽しそうに飛び回るシロ。
 そんなみんなの様子を見て、マイアはくすりと笑った。

 とても賑やかで、それでいて穏やかな時間が、優しく流れていた。


 マイアを仲間に加えたトワイライトの一行は、元気になったシロも連れて、ギルドハウスに帰ってきていた。
 そして――家の紹介もそこそこに――エトたちが早々に取り掛かったのは、『歓迎会』の準備だった。

 テーブルいっぱいの料理でもてなすのが、一般的! ……なんてことはまったくないのだが、トワイライトに新しい仲間が加わるときは、だいたいこんな状況だった。
 そういうわけで、エトもリーシャもスゥも、自然とこうしたいと思ったのだ。

 準備は首尾よく進み、料理は全て完成。あとはギルド協会に報告に行っている、ロルフの帰りを待つだけだった。

 すべては、順調であるかのように見えた。


「それにしても、マイアも料理ができたのね。それも、結構上手だし。」

 リーシャは、マイアがさっきから両手で持っている、プリンのお皿を指差した。
 それには、横からひょこっと顔を出して、エトもスゥも頷いた。

「うんうん、凄く手際よかったよね。」
「おいしそうなのだ!」

 三人の言葉に、マイアはほんのり頬を赤らめ、顔を伏せた。

「いえ、あの……料理は、初めてだったのです。一度、やってみたくて……」

 それを聞いた三人は、一拍置いて、改めて顔を見合わせた。
 そしてすぐに、視線をマイアの手元の皿へ向けた。

「ええ……っ! 初めてでこんなにできるって、凄いよ!」
「治療と料理に、共通する部分があるのかしら……?」
「おいしそうなのだ!!」

「え、えっと……」

 三人の圧に押され、恥ずかしそうに目を逸らしながら、マイアは小さな声を出した。

「……食べて、みますか……?」


+++


 ギルドハウスへの道を歩きながら、ロルフは一人、考え事をしていた。

 今回ギルド協会へ行ったのは、主に、マナの森の魔物の件を報告するためだ。
 民間ギルドには、『自他問わず、ギルド活動に大きな影響を与えうる事象』を確認した場合、それを国へ報告する義務がある。
 今回の場合、どちらかと言えばクインシールド側が報告するのが筋だが、レイナに任せるとただの魔物の研究報告になりかねない。それに何より、関連のありそうな事件などが起こっていないか、直接確認したいというのもあった。

 しかし――結果から言えば――これといって有力な情報は、得られなかった。

 やはりギルド協会側も、今回の『魔法を使う魔物』は把握していなかったらしく、いつも冷静なエリカも、終始落ち着かない様子だった。
 もっとも、王都付近に推定Aランクの魔物が出たというのだから、無理もないのだが。

 その後、ある程度は周囲の探索を行い、安全を確認したことと、魔物自体の調査はクインシールドに任せてあり、別途連絡が行くということを伝え、ロルフはギルド協会を後にした。

 これで、この件はひとまず解決――ということになるのだろうが、ロルフの胸に渦巻いた疑念の霧は、一切晴れていなかった。

『最後に……ロルフ。私は偶然の一致というやつに、ことさら懐疑的でね。』
『ん? どうした、急に。』
『魔法を使う魔物は、希少だ。それが矢継ぎ早に二体となると……生物学者は、関連性を疑う。』
『……シロのことか? それはお前、いくら何でも――』
『まあ、可能性の話だ。だが、注意はしておいてくれ給えよ。私は今、いつでも君を治療してやれる場所には、いないのだからね。』

 別れ際の、レイナの言葉が脳を過る。
 無意識に、眉間に皺が寄る。

 もしかして、何か、重大なものを見落としているのか。
 実は、全ての出来事は、何らかの関連性があって、例えばシロが――

「……っと!」

 気が付くと、ロルフのすぐ目の前には、ギルドハウスの玄関扉があった。
 考えがまとまらないままに、帰りついてしまったようだ。

 ふと、おいしそうな料理の匂いが、鼻をくすぐった。
 家を出る前、エトが歓迎会の準備をすると言っていたのを思い出す。

 ロルフは自嘲気味に笑って、頭を軽く振った。

 今、考えすぎても仕方がない。
 出来事だけで見れば、体調不良だったシロは元気になり、魔法を使う強力な魔物を倒して、新しい仲間まで加わったのだ。
 これで暗い顔をして帰るなど、ギルドマスター失格といえよう。

 ロルフは両頬を叩くと、笑顔をつくり、皆が待っている、ギルドハウスの扉を開けた。


「エト!! みんな……しっかりしてください!!」
「――?!」

 そんなロルフの目に飛び込んできたのは、とりあえず、テーブルいっぱいのご馳走。
 次に、その手前で床に倒れている、エト、リーシャ、スゥの三人。
 そして、それを両手で懸命にゆする、マイアの姿だった。

 予想外の光景に、先ほど切り替えたばかりのはずの思考が、一気に混沌へと投げ出される。

「ま、マイア……これはいったい、どういう……?」
「……! マスター、みんなが、私の料理を食べて……」
「りょ、料理??」

 ロルフに気づいて、マイアは涙目のままこちらを振り返った。
 そして、何やら脇に置いてあった皿を手に取り、こちらに差し出そうとした――らしかった。

「……ぁっ」
「あ」

 急いで立ち上がったマイアは、足をもつれさせ、反動で手に持った皿が、バネのように跳ねた。
 その勢いで――なにやらぷるぷるしたものが宙を舞い――曲線的な軌道を描きながら――ロルフの顔へと、飛来した。

「うぷっ」
「!」

 まず感じたのは、滑らかな触感と、微かなバニラの風味。
 少し遅れて、卵の優しい甘味が、カラメルの香ばしい香りと共に広がる。

 そしてそれを追うように――否、後ろから猛スピードで追突するように、焼きつくような苦味、突き刺すような酸味、爆発するような辛みが連撃を繰り出す。
 それらは更に混ざり合い、お互いを高めあうと、もはや感じたことのない数多の刺激となって、ロルフの脳を直撃した。

「マスター……、マスターっ!」

 朦朧とする意識の中で、ロルフは辛うじて震える腕を上げ、こぶしを握り、親指を立てた。

「見事な……連携……だ……ごふっ」
「マスターーーっ?!」

 それだけ言い残すと、その体は真っ直ぐに床に倒れた。
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