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第69話 濃霧を漂う者④
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「んー……」
右から左に、ぐるりと周囲を見回す。
「んんー……」
そのまま、首を後ろに倒して、更にぐるりと見回す。
最終的には首は元の位置に戻り、隣に座るマイアと目が合った。
「……真っ白なのだ。」
「……真っ白ですねぇ。」
濃霧の中、スゥとマイアは、ぽつんと横並びで座っていた。
「はぁ~……これじゃ、魔物を退治できないのだー」
「まあ、自然現象は仕方ないのですよ。」
ふにゃっと前かがみに倒れるスゥの背中に、マイアが励ますように手を置いた。
よく霧の出るマナの森にいたマイアは、やはり濃霧の中でも落ち着いているようだった。
「でも、このまま『蜂』がでたら……少し、厄介ですね。エトとリーシャは大丈夫でしょうか?」
「にゃはは、それは大丈夫なのだ。二人ともめちゃめちゃ強いし、第一ロルフがついてるのだ。」
スゥはぴょこっと起き上がって、心配そうなマイアに、からりと笑って見せた。
もちろん、全く心配してないわけではない。
でも、どちらかといえば、自分たちを心配してソワソワしてる二人のほうが、遥かに想像しやすかった。
その様子を見て、マイアもつられて、くすりと笑った。
「皆のことを、信頼してるのですね。とっても。」
その言葉に、スゥはきょとんと目を丸くした。
そんなことは当たり前すぎて、今まで考えたことがなかったからだ。
「そりゃあ、そうなのだ。だって、エトは優しいし、いつも攻撃から守ってくれるし……リーシャは頭が良いし、いろいろ魔法が使えるし、いつも作戦とか考えてくれるし……ロルフなんか、戦わないけど、大抵のことはなんとかしてくれるし……」
そう話す間、スゥは目を閉じ、腕を組んで、一言ごとに自分でうんうんと頷いていた。
それを見て、マイアは再び、小さく笑った。
「ふふ。なんだか、うらやましいです。」
「え、何がなのだ?」
「いえ、そんなふうに信頼されたら、相手も嬉しいだろうなぁ、って。」
そういってマイアが前を向いたので、スゥは首を傾げた。
「スゥは、マイアのことも信じてるのだ。一緒じゃないのだ?」
「――!」
マイアは少し顔を赤らめ、下を向いた。
よくわからないので、スゥは更に首を傾けた。
「あれ、マイア、なんで黙るのだ? どうしたのだ、ねぇ、マイ――」
そんな、何気ない質問を重ねていた、その最中。
スゥの横目、霧の合間に、なにかキラリとしたものが映った。
「――マイア!!」
「!」
足元の斧を蹴り上げ、跳ね出た柄を、殴りつけるように掴む。
次の瞬間、縦向きになったその斧頭には、いくつかの氷柱が追突していた。
周囲に氷の破片が舞い、キラキラと光る。
「ふぅ、危なかったのだ。マイア、大丈夫なのだ?」
「は、はい……良く反応できましたね、スゥ……」
マイアもすぐに弓を取り、ぱっとスゥの後ろに着いた。
見据えた霧の向こうに、黒い影が、ぼうっと見えた。
「……むむ。」
それは、寝起きの視界のように、ゆっくりと姿を現した。
大きさは、だいたい斧二つ分くらい。
ぼろぼろの布が巻きついていて、ふわふわと浮かんでいて。
それは、かなり軽そうな、骨っぽい魔物だった。
スゥはそれを見て、目を細めた。
「ん~……? なんか、割と弱そうな感じの魔物なのだ……」
「そ、そうですか……? 結構、得体のしれない感じがするのですけど……?」
動揺するマイアを置いて、スゥは弾けるように魔物へ駆け出した。
「先手必勝――なのだッ!!」
浮遊する魔物に一直線に飛び込んだスゥは、斧を横に振りかぶり、回転しながら飛び上がった。
しかし、魔物はまるで空に引っ張られるかのように、ひゅんと上昇し、その斬撃を避けた。
「あ……っ、ちょっ、上はずるいのだ……!」
「――いえ、そのまま、その位置です。」
落下するスゥとすれ違いに、マイアの研ぎ澄まされた矢が飛んだ。
しかし、その矢は魔物には届かず、その少し下を通過した。
「あ……あれ……?」
その次の矢も、次の次の矢も、それぞれ左右にぶれ、当たらない。
目に見えている像と、どこか距離感が合わない。そんな不気味さがマイアを襲う。
そのままの位置で、魔物がくるりと一回転したかと思うと、その周囲には四つの氷の針が並んでいた。
それは次の瞬間、マイアに向かって高速で飛来した。
「?! 魔法……?! 発動が、早……っ」
「っ、だあっ!」
転がり込むように駆けつけたスゥが、振り上げる斧の一振りで、それらを切り払った。
反応は、間に合う。
でも、遠距離の攻撃に近接攻撃で対応していては、体力が持たない。
「うへぇ……これ、苦手なタイプのヤツなのだぁ。マイア、能力で何とかならないのだ?」
「……それが……今、やってみたのですが……」
横目に見えるマイアの顔が、青ざめているのが見えた。
「この霧、魔力が拡散して、まともに見えません――この霧自体が、魔法なんです!!」
「うぇえええ?! なんじゃそりゃなのだー?!」
そう言っている間にも、宙に浮く魔物は位置を変え、新しい氷の刃を周囲に携えていた。
そのそれぞれが、マイアに切っ先を向け、放たれる。
「――っ!」
スゥは斧の柄を可能な限り短く持ち、マイアの前に滑り込むと、それらを切り落とし、弾いた。
だが、そのうちの一つが手をすり抜け、マイアの足にかすった。
「ぁく……っ」
「マイアっ! 大丈夫なのだ?!」
「大丈夫、です……!」
倒れかけたマイアは、地面に片膝をつき、どうにかバランスをとった。
それを見たスゥは、強い焦燥感を覚えた。
動きが素早い敵は、自分には捕まえられない。
遠距離攻撃も、一つなら問題ないが、複数あると守り切れない。
このままじゃ――勝てないかもしれない。
しかし、スゥの背後で立ち上がったマイアの声で、そんな気持ちは吹き込んだ。
「……スゥ、聞いてください。これを、倒す方法を――見つけました。」
思わず振り返ると、マイアは強い意志の宿った目でこちらを見返し、頷いた。
「協力してください、スゥ。」
「……にゃはっ。」
スゥは斧の柄を長く持ち直し、一度横に強く振った。
風を切る音と感触が、柄を通して伝わる。
不安や恐れは、もうなかった。
信じる仲間が、傍にいる。
そして、そのために戦うのなら――
「そうこなくっちゃ、なのだぁ!!」
怖いものなど、何もないのだ。
右から左に、ぐるりと周囲を見回す。
「んんー……」
そのまま、首を後ろに倒して、更にぐるりと見回す。
最終的には首は元の位置に戻り、隣に座るマイアと目が合った。
「……真っ白なのだ。」
「……真っ白ですねぇ。」
濃霧の中、スゥとマイアは、ぽつんと横並びで座っていた。
「はぁ~……これじゃ、魔物を退治できないのだー」
「まあ、自然現象は仕方ないのですよ。」
ふにゃっと前かがみに倒れるスゥの背中に、マイアが励ますように手を置いた。
よく霧の出るマナの森にいたマイアは、やはり濃霧の中でも落ち着いているようだった。
「でも、このまま『蜂』がでたら……少し、厄介ですね。エトとリーシャは大丈夫でしょうか?」
「にゃはは、それは大丈夫なのだ。二人ともめちゃめちゃ強いし、第一ロルフがついてるのだ。」
スゥはぴょこっと起き上がって、心配そうなマイアに、からりと笑って見せた。
もちろん、全く心配してないわけではない。
でも、どちらかといえば、自分たちを心配してソワソワしてる二人のほうが、遥かに想像しやすかった。
その様子を見て、マイアもつられて、くすりと笑った。
「皆のことを、信頼してるのですね。とっても。」
その言葉に、スゥはきょとんと目を丸くした。
そんなことは当たり前すぎて、今まで考えたことがなかったからだ。
「そりゃあ、そうなのだ。だって、エトは優しいし、いつも攻撃から守ってくれるし……リーシャは頭が良いし、いろいろ魔法が使えるし、いつも作戦とか考えてくれるし……ロルフなんか、戦わないけど、大抵のことはなんとかしてくれるし……」
そう話す間、スゥは目を閉じ、腕を組んで、一言ごとに自分でうんうんと頷いていた。
それを見て、マイアは再び、小さく笑った。
「ふふ。なんだか、うらやましいです。」
「え、何がなのだ?」
「いえ、そんなふうに信頼されたら、相手も嬉しいだろうなぁ、って。」
そういってマイアが前を向いたので、スゥは首を傾げた。
「スゥは、マイアのことも信じてるのだ。一緒じゃないのだ?」
「――!」
マイアは少し顔を赤らめ、下を向いた。
よくわからないので、スゥは更に首を傾けた。
「あれ、マイア、なんで黙るのだ? どうしたのだ、ねぇ、マイ――」
そんな、何気ない質問を重ねていた、その最中。
スゥの横目、霧の合間に、なにかキラリとしたものが映った。
「――マイア!!」
「!」
足元の斧を蹴り上げ、跳ね出た柄を、殴りつけるように掴む。
次の瞬間、縦向きになったその斧頭には、いくつかの氷柱が追突していた。
周囲に氷の破片が舞い、キラキラと光る。
「ふぅ、危なかったのだ。マイア、大丈夫なのだ?」
「は、はい……良く反応できましたね、スゥ……」
マイアもすぐに弓を取り、ぱっとスゥの後ろに着いた。
見据えた霧の向こうに、黒い影が、ぼうっと見えた。
「……むむ。」
それは、寝起きの視界のように、ゆっくりと姿を現した。
大きさは、だいたい斧二つ分くらい。
ぼろぼろの布が巻きついていて、ふわふわと浮かんでいて。
それは、かなり軽そうな、骨っぽい魔物だった。
スゥはそれを見て、目を細めた。
「ん~……? なんか、割と弱そうな感じの魔物なのだ……」
「そ、そうですか……? 結構、得体のしれない感じがするのですけど……?」
動揺するマイアを置いて、スゥは弾けるように魔物へ駆け出した。
「先手必勝――なのだッ!!」
浮遊する魔物に一直線に飛び込んだスゥは、斧を横に振りかぶり、回転しながら飛び上がった。
しかし、魔物はまるで空に引っ張られるかのように、ひゅんと上昇し、その斬撃を避けた。
「あ……っ、ちょっ、上はずるいのだ……!」
「――いえ、そのまま、その位置です。」
落下するスゥとすれ違いに、マイアの研ぎ澄まされた矢が飛んだ。
しかし、その矢は魔物には届かず、その少し下を通過した。
「あ……あれ……?」
その次の矢も、次の次の矢も、それぞれ左右にぶれ、当たらない。
目に見えている像と、どこか距離感が合わない。そんな不気味さがマイアを襲う。
そのままの位置で、魔物がくるりと一回転したかと思うと、その周囲には四つの氷の針が並んでいた。
それは次の瞬間、マイアに向かって高速で飛来した。
「?! 魔法……?! 発動が、早……っ」
「っ、だあっ!」
転がり込むように駆けつけたスゥが、振り上げる斧の一振りで、それらを切り払った。
反応は、間に合う。
でも、遠距離の攻撃に近接攻撃で対応していては、体力が持たない。
「うへぇ……これ、苦手なタイプのヤツなのだぁ。マイア、能力で何とかならないのだ?」
「……それが……今、やってみたのですが……」
横目に見えるマイアの顔が、青ざめているのが見えた。
「この霧、魔力が拡散して、まともに見えません――この霧自体が、魔法なんです!!」
「うぇえええ?! なんじゃそりゃなのだー?!」
そう言っている間にも、宙に浮く魔物は位置を変え、新しい氷の刃を周囲に携えていた。
そのそれぞれが、マイアに切っ先を向け、放たれる。
「――っ!」
スゥは斧の柄を可能な限り短く持ち、マイアの前に滑り込むと、それらを切り落とし、弾いた。
だが、そのうちの一つが手をすり抜け、マイアの足にかすった。
「ぁく……っ」
「マイアっ! 大丈夫なのだ?!」
「大丈夫、です……!」
倒れかけたマイアは、地面に片膝をつき、どうにかバランスをとった。
それを見たスゥは、強い焦燥感を覚えた。
動きが素早い敵は、自分には捕まえられない。
遠距離攻撃も、一つなら問題ないが、複数あると守り切れない。
このままじゃ――勝てないかもしれない。
しかし、スゥの背後で立ち上がったマイアの声で、そんな気持ちは吹き込んだ。
「……スゥ、聞いてください。これを、倒す方法を――見つけました。」
思わず振り返ると、マイアは強い意志の宿った目でこちらを見返し、頷いた。
「協力してください、スゥ。」
「……にゃはっ。」
スゥは斧の柄を長く持ち直し、一度横に強く振った。
風を切る音と感触が、柄を通して伝わる。
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