トワイライト・ギルドクエスト

野良トマト

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第73話 真相と団欒

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「『ルーンブレード』……ロルフさんの、元ギルドの人……?!」
「はい、そういうわけなので。」
「ロルフさまは、前のギルドマスターだったのでー。」

 ロルフに説教されているロイドを横目に、エトたちはニーナとミーナの二人から、話を聞いていた。

 要約すると、こうだ。

 ロイドたちは予定よりも早く『巣の破壊』に来ており、霧の魔法の効果範囲に人がいないか確認していた。
 そこでロイドは、自分たちを率いるロルフを見つけ、『ついでに実力を確かめてみようか』と決めたらしい。
 しかしロルフがいると一発でバレるので、離れたタイミングを見計らって、一人だけ連れ出した――と。

「ということは……これから、オオサソリバチの巣に向かわれるのですか?」
「あ、いえ。それはニーナたちが戦っている間に、兄さまが一人でぶっ壊しましたので。」
「兄さまの魔法にかかれば、オオサソリバチはよわよわさんなので~。」
「そ、それ一応、Aランクのクエストだよね……?」

 聞く限り、本当に『ついで』で力試しをしていたらしい。
 しかも、一番強いであろうロイドは、自分たちの戦いに参加すらしていない。
 もし本気で戦ったなら、きっと手も足も出なかっただろう。

 これが、Aランク。
 民間ギルドにおいて、最高ランクの強さ。

 だが、驚いたことといえば、彼らの強さについてだけではない。

「というかロルフって、Aランクギルドのギルドマスターだったのだ……? スゥは今、ソッチに衝撃を受けているのだ……」
「ふぅ、同感よ……。事情が事情だから、元ギルドの話はあまり聞かないようにしてたってのは、あるけどね……」
「あはは……まあ、過去を自慢するような人じゃないのは知ってたけど……さすがに、びっくりだね……」

 四人で、うんうんと頷き合う。
 ロルフの説明が足りないのは今に始まったことではないが、後から出てくる情報が毎回重いのである。

 そんな神妙な面持ちの四人に、ニーナとミーナは揃って、ぺこりと頭を下げた。

「急に襲ったのは、ごめんなさいなので。本当は、すぐに種明かしするつもりだったので……」
「そうなので。みんな頑張ってたから、ついつい白熱しちゃったのでー。」
「あ、ええと、大丈夫ですよ。ちょっと、驚きましたけど……」

 エトが慌てて両手を振ると、二人はすぐに顔を上げて、ずいと近づいてきた。

「でも、驚きましたので。『濃霧を漂う者ミストウォーカー』を突破した人は、これまでいなかったので。」
「そうなので! びっくりなのでー!」
「えっ、その、あはは……」

 二人のキラキラとした無邪気な圧に、思わず一歩後ずさる。
 するとその隣から、入れ替わるようにリーシャが顔を出した。

「ミストウォーカー……って、あの亡霊みたいな奴のことよね。あんなのを出す魔法なんて聞いたことないんだけど、どういう魔法なの?」

 それを聞くと、二人はすっと体を引き、背中合わせに立ちつつ片手を合わせると、びしっとポーズを取った。

「よくぞ聞いてくれたので! あれは、兄さまとミーナたちの、合体魔法なので~!」
「兄さまが霧の魔法を展開して、ニーナたちはそこに幻影を映しながら、移動したり攻撃したりしていましたので。」

 その背後に残った霧に、ぼやっと亡霊の姿が浮かび上がった。
 思わず、「おおー」と声が漏れる。

「なるほど……魔法の霧に、魔法で投影……そりゃ、まともに攻撃が当たらない訳よね……」
「でも、攻撃するときは中に入ってたので。最後の魔法には、ちょっとヒヤっとしたので~。」
「まったくなので。素晴らしい判断力と魔法技術をお持ちのなので。」

 ミーナは興奮したように笑い、ニーナは感心したように頷いていた。
 称賛の言葉に、リーシャの頬が少し赤らむ。が、照れる間もなく、二人は再びこちらに飛びよってきた。

「でもでも、どうして霧が魔法だとお分かりになったので? とっても気になりますので。」
「そうなので! 兄さまの霧の中で合流できたのも、びっくりなのでー!」
「あ……ああ、それは、マイアがね――」
「ええ。あれは、リーシャの魔法で――」

 二人の質問に四人が答え、四人の質問に二人が答え――と、しばらくは魔法の話で盛り上がっていった。
 しかし、いつの間にか内容は雑談めいたものになっていき、気づけば六人は、ただ普通に談笑するようになっていた。

「で、苔で滑ったリーシャが、スゥの斧を掴もうとしたのだ。そしたらそれも滑って、服の中にそのまま……」
「ちょ、その話は――?!」
「ふむ。ずいぶんと仲良くなったようだね。」

 そんなおり、会話の輪に突如出現した三角座りのロイドに、思わず四人は声を上げた。
 話に夢中になっていたのはあるが、本当に気配のない人だ。そして、妙に怪しい。

「ん、兄さま。」
「兄さまー!」

 ニーナとミーナが、立ち上がったロイドの両腕に抱きつく。
 そのまま、ロイドはこちらを向いて、細い目をさらに細め、微笑んだ。

「いや、すまなかったね。先生の新しい生徒たちの実力を、ぜひとも見たかったんだ。」

 相変わらず感情は読み取りづらいが、ニーナとミーナから話を聞いたからか、その表情は幾らか優しく見える。
 そしてその隣には、対照的に、心労がハッキリ顔に出ているロルフがいた。

「すまん、俺もまんまと騙された。『巣の破壊方法について相談が』だなんて、今更妙だとは思ったんだがなぁ……」
「うわぁ……。その誘拐の口上、完全にロルフの性格が利用されてるわね……」
「ロルフは武器一本で簡単に釣れそうなのだ……」

 リーシャとスゥがじとっと目を細める。
 ロルフは目をそらした。

 そんな様子を横目に見ながら、エトはおずおずとロイドに近づいた。
 一つ、気になっていたことがあったからだ。

「あの……どうしてロルフさんが、先生なんですか?」
「ん? それはもちろん、教えを乞うべき相手だからだよ。」
「教え……」

 その答えは、すぐには腑に落ちず、エトは小さく首を傾げた。
 それを見て、ロイドはふむ、と斜め上に視線を上げ、少し考えるような仕草をした。

「んー……霧を応用して蜂の連携を断つ戦術も、認識阻害魔法と幻影を組み合わせた魔法も、元は先生の発案だ。それに――」

 しかし、途中まで言って、ロイドはふいに口を止め、再び斜め上に視線を上げた。

「……いや、違うな。」
「?」

 ロイドはこちらにしっかりと顔を向けると、静かに笑った。
 相変わらず表情の変化は薄かったのだが、その笑顔は、不思議と心に響いた。

「君たちは、強かったよ。僕があの人を『先生』と呼ぶのは――そういう理由さ。」
「あ……」

 胸の奥が、強く熱を持つのを感じた。

 尊敬だったり、納得だったり。
 嬉しかったり、恥ずかしかったり、でも――どこか、悔しかったり。

 なんだかいろいろな感情が混ざって、あたまがふわふわした。


 そんなエトの心境を知ってか知らずか、ロイドは溜息交じりに、くすりと笑った。

「ま、そんな先生を追い出したもんだから、うちの現ギルドマスターなんか、ずいぶんと苦労してるみたいだけどね。」
「え?」

 どこか他人事のように言って、ロイドはわざとらしく肩をすくませた。

「先生がしてたようなことを何もしないもんだから、ギルド全体のクエスト達成率は右肩下がりさ。それを取り返す為か知らないが、まぁ無茶なことを――」
「ん……?」

 その言葉に、ロルフが怪訝な顔で反応した。
 それが意外だったのか、ロイドははたと口を止め、ロルフの方へと視線を移した。

「……おや、先生ならもう、ご存じかと思ったんですが。」
「いや……聞いてないな。何か、あったのか。」

 ロイドは一瞬考えるように目を伏せたが、すぐに顔を上げた。
 その表情からは、先ほどまでの柔らかな雰囲気は消えていた。


「彼ら、受けるつもりのようですよ。『Sランククエスト』を。」
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