トワイライト・ギルドクエスト

野良トマト

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第79話 モフモフパニック⑤

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「すみません、あの場では私が一番しっかりしなきゃいけなかったのに……。ほんっとうに、ご迷惑をおかけしました。」

 深々と頭を下げるエリカに、ロルフはいやいやと手を振った。

「こればかりは、しょうがないですよ。前代未聞の事態でしたからね。」
「そ、そうよ、しょうがないわ。」
「にゃはー、ロルフはリーシャに言ったわけじゃないのだ~?」

 リーシャがきっと睨むと、スゥはさっとエトの後ろに隠れた。

「あはは……。ギルド協会の方は、大丈夫だったんですか?」
「ええ、おかげさまで……戦闘が屋外でしたから、建物の被害も最小限です。魔石もほとんど回収できましたし、後は――」

 エリカはせわしなく動き回る職員にちらりと目をやった。
 彼らは地面や卓上に散らばった紙を、一生懸命拾い集めている。

「破れたりかじられたりした書類は、再度作り直さないといけなさそうです。これが一番大変ですね。」

 そういって、エリカは苦笑した。


 魔法によって大部分の魔物が討伐された後、建物や周囲に残っていたいくらかの魔物は、一目散に森に逃げ帰っていった。
 これはオオケダマネズミの弱点が火であるためだと思われるが、そうでなくともあの火柱を見れば、小さな魔物はおおむね同じ行動を取っただろう。
 相変わらず、リーシャの魔法出力は規格外と言わざるを得ない。

『おお! なるほど、最後は魔法でとどめを刺す作戦だったのか!!』
『これが連携を基底とした作戦……参考になる……!!』
『よし、早速ギルドハウスに戻って、作戦会議だッ!!』

 講義を聞きに来ていたギルドマスターとそのパーティー達についても、何やら満足げに帰っていったので、この件はさほど悪い話にはならないだろう。
 ……何か勘違いしていた気もするが。

 この問題は、一件落着といったところか。


「……それにしても、どうしてこんなに急に、ネズミが出たのでしょう?」

 マイアのその言葉に、ロルフとエリカは、同時にうーんと唸った。

「習性的なものではないと思うんだが……正直、わからないな。」
「そうですね。魔物が急に王都に出るなんて、まるで……」

 そこまで言って、エリカははっと口を押さえた。
 ロルフの表情に影がかかる。

 エリカの思い至ったことは、ロルフにもすぐに理解できた。

 ――『ギルド暴動』。
 あの日、突如として王都を襲った、魔物の大群のことを。


+++


「ダル……もう、鎮圧されちゃったよ。やっぱりネズミじゃ弱すぎたんじゃないの、ロキ。」
「今回は騒ぎを起こすことが目的だったのですよ、ルーカス。あまり被害が大きいと、私たちも動きにくくなるでしょう。」

 ギルド協会から少し離れた丘の上に、二人の男が立っていた。

「ふぅん……なら、別にいいけど。例のヤツはあったの?」
「ええ、回収してきました。ネズミが邪魔で、思ったより手間取りましたがね。」

 そういって、何かの書類の束を取り出す。
 もう一人は、それを興味なさそうにちらりと見て、ため息をついた。

「じゃ、もう帰っていい?」
「……まあ、いいでしょう。あとは私がやっておきますよ。」
「やりぃ。」

 ルーカスと呼ばれた男は、けだるそうに立ち上がると、森の中へと消えていった。

「……」

 残った一人は、しばらくギルド協会の方を見つめていた。
 思わず手に力が入り、持っていた紙が、くしゃりとひしゃげる。

「本番は、ここからです。……あなた方に、神の御加護があらんことを。」

 それは怪しげに笑うと、その場から姿を消した。
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