80 / 122
第80話 竜の力の目覚め①
しおりを挟む
「はぁ……」
ギルドハウスの机を拭きながら、エトは一人、ため息を漏らした。
ふいにその肩に、リーシャの手がぽんと置かれる。
「あの、エト……」
「あっ、ごめんねリーシャちゃん、すぐ終わらせちゃうから……!」
「いや、そうじゃなくて……」
リーシャはそのまま、顔が映り込みそうなほどピカピカになった机を指さした。
「その机、もう三回くらい拭いてるわよ?」
「えっ、あっ、そうだっけ。あはは……武器庫の掃除してくるねっ!」
「あっ、ちょっと!」
そういうと、エトは呼び止める間もなく、武器庫の方へ走って行ってしまった。
入れ替わりに入ってきたスゥも、不思議そうにそれを見送ってから、リーシャの方を見た。
「んー? エト、どうかしたのだ?」
「さあ……? なんだか、様子がおかしい気がするけど……」
「エトは悩みがあると、やたらと掃除をする癖があるのですよ。昔から。」
二人の後ろから、マイアがぴょこりと顔を出した。
「い、いたのね、マイア。」
「およ、エトは何か悩んでるのだ?」
「おそらくは……何を悩んでるのかは、わからないのですけど。」
リーシャとスゥは腕を組み、マイアはそのままの姿勢で、うーんと体を傾けた。
「これといって、心当たりがないわねぇ……」
「エトのことですから、何か考えすぎとかだとは思うのですけど……」
「とにかく、このままだと、ギルドハウス中がピカピカになっちゃうのだ……!」
スゥがピカピカになった机に、バンと手をのせる。
動かすと、キュッキュっと軽快な音が鳴った。
その様子を見て、リーシャとマイアは顔を見合わせた。
「いや、まあ……それは、別に、困らないけど……」
「……そうですね。」
三人は微妙な表情で、エトの去った部屋を見つめた。
+++
武器庫の扉を後ろ手に閉めて、エトは再び、大きなため息をついた。
先日のネズミの魔物の大量発生で、自分はまたも活躍できなかった。
それだけでも落ち込む要素ではあるのだが、今はそれと同じくらいに、もやもやしていることがあった。
「やっぱり、ロルフさんって、すごいよね……」
混乱が最高潮に達した、あの時。
しかしロルフの指示があってすぐに、事態は収拾した。
それはつまり、ロルフの指示があれば、他のギルドのパーティーも強くなれるということだ。
別に、自分たちだけが特別だから、強くなれたと思っていたわけではない。
それでも、いざ他のギルドの人たちが活躍するのを目の当たりにすると、余計に自分の無力さが浮き彫りになるような気がした。
なにより、普通であれば喜ぶべきであるところ、そんな風にマイナスに考えてしまう自分自身が、嫌だった。
「キューイ?」
「あ……シロちゃん。」
武器庫の地下室――封印があった場所から飛び出してきたシロは、そのままエトの頭にかぶさるようにくっついた。
シロはギルドハウス内で放し飼いのようになっているのだが、この地下室は特にお気に入りの場所らしく、誰かの出入りの時にいつの間にか入り込んでいたりするのだ。
「ふふっ……慰めてくれてるの?」
「キュイキュイ。」
頭上のシロを持ち上げ、胸に抱き変える。
その羽に顔をうずめるようにしながら、エトは小さく言葉を漏らした。
「もっと私が、強かったらなぁ……」
それは、あまり考えて出た言葉ではなく、半ば無意識にこぼれたものだった。
「きゅ!」
「……?」
突然シロがばたばたと動き出したので、エトが手を緩めると、シロはするりと空中に飛び出した。
そしてそのまま軽やかに一回転すると、一つの武器の上にとまった。
「あ、その剣……」
全体的に白っぽく、何かの骨を加工したような、無骨な大剣。
武器庫の地下室にあり、黒竜――シロが封印されていた、そこそこに思い出深いものだ。
エトは首をかしげながら、その剣のすぐそばに近寄った。
最初に見たときに比べると、ロルフの手入れでずいぶんと綺麗になっている。
「これを、持てっていうの?」
「キュイ。」
エトはクスッと笑って、その大剣を手に取ってみた。
もちろん、それで強くなれると思ったわけではないが、この遊びのようなやり取りには、いくらか気を晴らす効果があるように思ったのだ。
両手でしっかりと柄を掴み、持ち上げて、見よう見まねで構えを取ってみる。
大剣は見た目ほど重くはなく、意外にも手になじんだ。
もちろん、自由に振れるほどの重量ではないし、これを持っていつものスピードを出すことは難しいだろう。
やっぱり、大きな武器を扱うのは難しそうだな……と、そんなことを考えていた時だった。
「キューイー!」
「え……っ?!」
突然、宙に浮いたシロの体が、白く光り始めた。
そして、数回転したのちそれは、エトの持つ大剣の刀身に、勢いよく飛び込んだ。
ギルドハウスの机を拭きながら、エトは一人、ため息を漏らした。
ふいにその肩に、リーシャの手がぽんと置かれる。
「あの、エト……」
「あっ、ごめんねリーシャちゃん、すぐ終わらせちゃうから……!」
「いや、そうじゃなくて……」
リーシャはそのまま、顔が映り込みそうなほどピカピカになった机を指さした。
「その机、もう三回くらい拭いてるわよ?」
「えっ、あっ、そうだっけ。あはは……武器庫の掃除してくるねっ!」
「あっ、ちょっと!」
そういうと、エトは呼び止める間もなく、武器庫の方へ走って行ってしまった。
入れ替わりに入ってきたスゥも、不思議そうにそれを見送ってから、リーシャの方を見た。
「んー? エト、どうかしたのだ?」
「さあ……? なんだか、様子がおかしい気がするけど……」
「エトは悩みがあると、やたらと掃除をする癖があるのですよ。昔から。」
二人の後ろから、マイアがぴょこりと顔を出した。
「い、いたのね、マイア。」
「およ、エトは何か悩んでるのだ?」
「おそらくは……何を悩んでるのかは、わからないのですけど。」
リーシャとスゥは腕を組み、マイアはそのままの姿勢で、うーんと体を傾けた。
「これといって、心当たりがないわねぇ……」
「エトのことですから、何か考えすぎとかだとは思うのですけど……」
「とにかく、このままだと、ギルドハウス中がピカピカになっちゃうのだ……!」
スゥがピカピカになった机に、バンと手をのせる。
動かすと、キュッキュっと軽快な音が鳴った。
その様子を見て、リーシャとマイアは顔を見合わせた。
「いや、まあ……それは、別に、困らないけど……」
「……そうですね。」
三人は微妙な表情で、エトの去った部屋を見つめた。
+++
武器庫の扉を後ろ手に閉めて、エトは再び、大きなため息をついた。
先日のネズミの魔物の大量発生で、自分はまたも活躍できなかった。
それだけでも落ち込む要素ではあるのだが、今はそれと同じくらいに、もやもやしていることがあった。
「やっぱり、ロルフさんって、すごいよね……」
混乱が最高潮に達した、あの時。
しかしロルフの指示があってすぐに、事態は収拾した。
それはつまり、ロルフの指示があれば、他のギルドのパーティーも強くなれるということだ。
別に、自分たちだけが特別だから、強くなれたと思っていたわけではない。
それでも、いざ他のギルドの人たちが活躍するのを目の当たりにすると、余計に自分の無力さが浮き彫りになるような気がした。
なにより、普通であれば喜ぶべきであるところ、そんな風にマイナスに考えてしまう自分自身が、嫌だった。
「キューイ?」
「あ……シロちゃん。」
武器庫の地下室――封印があった場所から飛び出してきたシロは、そのままエトの頭にかぶさるようにくっついた。
シロはギルドハウス内で放し飼いのようになっているのだが、この地下室は特にお気に入りの場所らしく、誰かの出入りの時にいつの間にか入り込んでいたりするのだ。
「ふふっ……慰めてくれてるの?」
「キュイキュイ。」
頭上のシロを持ち上げ、胸に抱き変える。
その羽に顔をうずめるようにしながら、エトは小さく言葉を漏らした。
「もっと私が、強かったらなぁ……」
それは、あまり考えて出た言葉ではなく、半ば無意識にこぼれたものだった。
「きゅ!」
「……?」
突然シロがばたばたと動き出したので、エトが手を緩めると、シロはするりと空中に飛び出した。
そしてそのまま軽やかに一回転すると、一つの武器の上にとまった。
「あ、その剣……」
全体的に白っぽく、何かの骨を加工したような、無骨な大剣。
武器庫の地下室にあり、黒竜――シロが封印されていた、そこそこに思い出深いものだ。
エトは首をかしげながら、その剣のすぐそばに近寄った。
最初に見たときに比べると、ロルフの手入れでずいぶんと綺麗になっている。
「これを、持てっていうの?」
「キュイ。」
エトはクスッと笑って、その大剣を手に取ってみた。
もちろん、それで強くなれると思ったわけではないが、この遊びのようなやり取りには、いくらか気を晴らす効果があるように思ったのだ。
両手でしっかりと柄を掴み、持ち上げて、見よう見まねで構えを取ってみる。
大剣は見た目ほど重くはなく、意外にも手になじんだ。
もちろん、自由に振れるほどの重量ではないし、これを持っていつものスピードを出すことは難しいだろう。
やっぱり、大きな武器を扱うのは難しそうだな……と、そんなことを考えていた時だった。
「キューイー!」
「え……っ?!」
突然、宙に浮いたシロの体が、白く光り始めた。
そして、数回転したのちそれは、エトの持つ大剣の刀身に、勢いよく飛び込んだ。
0
あなたにおすすめの小説
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。
シトラス=ライス
ファンタジー
万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。
十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。
そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。
おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。
夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。
彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、
「獲物、来ましたね……?」
下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】
アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。
*前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。
また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。
しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。
絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。
一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。
これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる