トワイライト・ギルドクエスト

野良トマト

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第81話 竜の力の目覚め②

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「あれ……?」

 気が付くと、エトは真っ暗な場所にいた。
 自分の姿だけは普通に見えるのだが、それ以外は、どこが床なのかすらわからない。

 エトは、この場所に覚えがあった。

「これって……最初に、封印を触った時の……?」

 ゆっくりと周りを見回し、シロの姿を探す。
 するとその視界の端、自分の背後あたりに、なにかぼやっと白いものが見えた。

「あ、シロちゃ……、っ?!」

 振り向いたその先に立っていたのは、『人』の後ろ姿だった。
 予想外の出来事に、思わず体が硬直する。

 その周囲は変わらず真っ暗なのに、その後ろ姿ははっきりと見えていた。
 そしてその人物は、ゆっくりとこちらを振り向いた。

「……えっ。」

 その姿は、自分そのものだった。

 いや、正確に言えば、ところどころ差異はある。
 髪は金髪ではなく銀髪になっているし、虚ろな目は緑ではなく深い黒で、肌は病的に白い。さらにその顔には、不思議な赤い模様が浮き出ていた。

「わ、私……?」
『嫌……弱イノハ、嫌……』
「――?!」

 その声は、頭に直接響くように伝わった。

 そしてその直後、その姿はこちらへ跳躍し、襲い掛かってきた。
 よく見ると、その手にはいつもの双剣が握られている。
 そしていつの間にか、それは自分の手にもあった。

「くぅ……ッ」

 キィン、という甲高い音が、暗い空間に響きわたる。
 間一髪でその斬撃を受け止めたエトだったが、その攻撃は重く、いなすこともはじくこともできない。

『強クナリタイ……認メラレタイ……』
「何、を……あっ?!」

 すると今度は、突如その姿が目の前から消え、前方の少し離れた個所に現れた。
 支えを失ったエトは、前に大きくよろめいた。

 もう一人はそれを見て、そのまま腰を低く落とし、双剣を構えた。
 地面を交互に蹴って助走をつけ、ジグザグな軌道で突っ込んでくる。

『強クナリタイ……必要トサレタイ……!!』

 エトは何とか体勢を元に戻し、右手の武器で受け流そうとするが、予想以上の衝撃に手ごと押し返され、はじかれた剣が宙に舞った。

「うぁ……っ!」

 攻撃はそれで終わらず、反動でひねった半身から、逆の刃の一撃が襲う。
 とっさにこちらも左手の武器で受けるが、上半身が後方へのけぞった状態では踏ん張ることができない。
 嫌な金属音とともに、もう一方の剣も、高く弾き飛ばされた。

 強い。
 虚を突かれたからじゃない。
 速さも力も技術も、自分よりも数段上だ。

 ……羨ましい。
 ふいに、そんな想いが浮かんだ。

「あぐっ……」

 バランスを崩したエトは、そのまま仰向けに転倒した。
 その上にもう一人が現れ、馬乗りになると、首を片手で押さえつけられる。

『ソウナレバ……誰モ、自分ヲ捨テナイ……?』
「――?!」

 もう片手は腹部に当てられており、それが次第に沈み込んでいく。
 痛みはないが、代わりにどす黒い何かが、冷たい力を伴って、自分の中に流れ込んでくる。

 いくら体を動かそうともがいても、その拘束は固く、逃げることができない。

「嫌……助、けて……誰か……」

 視界がぼやける。
 考えがまとまらない。

 このままじゃ、私――

『キュイイイ――!!』
『?!』

 突如、シロの声が響いたかと思うと、二人のエトの間にまばゆい閃光が走った。
 もう一人は目を押さえて叫び、エトの上から飛びのいた。

「けほ……っ、シロ、ちゃん……?」

 エトがふらつきながら立ち上がると、そこには光の玉のようなものが浮かんでいた。
 それはエトの手に飛びつくと、まるで大剣のような姿へと、形を変えた。

「これ……武器……?」

 横なぎに振るうと、もやもやと纏っていた光が吹き飛び、鋭利なその刀身が姿を表す。
 淡く青白く輝くそれは、この闇の中にあって、とても美しく見えた。

 剣から、何か暖かなものが流れ込んでくる。
 エトは半ば無意識のうちに、それを両手で強く握っていた。

『オオオオオ……』

 もう一人は、目を押さえて苦しんでいるようだったが、そのままだらりと腕を落とすと、手を獣のようにかっ開き、凄まじい速さで飛びかかってきた。

 そうした緊迫した状況の中で、エトの思考は穏やかだった。
 目を閉じると、仲間たちの顔が浮かんでくる。

 照れ隠しするリーシャの顔。笑顔で飛びついてくるスゥの顔。心配してくれるマイアの顔。
 そして、私を見つけてくれた――

「……行くよ、シロちゃん。」

 足を大きく開き、上半身をひねり、その力のすべてを両腕に込める。
 胸の内側から弾けた力が、刀身に集まっていく。

『ウアアアァアアア!!』

 目前まで迫った、自分自身の姿。
 それに向かって、エトは淡く輝く大剣を、横なぎに振りぬいた。

 弾けるような、眩い閃光。

 刀身には幾重にも稲妻が走り、その光によって拡張された刃は、もう一人の姿を真っ二つに切り裂いた。

『ァ……今ハ……マダ……』

 その姿は黒い影になり、闇に溶けるように消えていった。


+++


「……あれ?」

 気が付くと、エトは武器庫の中にいた。
 周りを見渡しても、自分以外の姿は無い。

 今のは、夢だった?
 それとも――

「エト?! 大丈夫?!」
「なな、何があったのだー?!」

 突然背後の扉が叩き開けられ、リーシャとスゥとマイアが飛び込んできた。
 その声と勢いに、思わず飛び跳ねそうになりながら、エトはそちらを振り向いた。

「えっ、ど、どうしたの、みんな?」
「どうしたって、今の音――」

 と、そこまで言って、リーシャは言葉を切った。
 ぽかんとした表情で、目を瞬かせている。

 不思議に思っていると、マイアがこちらに、すっと指をさした。

「あの……エト、それは、何なのです……?」
「……え?」

 その指をたどると、それは自分の手元を示していて。
 そして、その手には――

 稲妻が走る、淡く青い光を纏った大剣が、握られていた。
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