トワイライト・ギルドクエスト

野良トマト

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第82話 竜の力の目覚め③

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「も、もう一度、やってみてもらえないか……」
「は、はい。シロちゃん?」
「キュイ!」

 シロは空中で二回転すると、体に淡い光を纏い、エトの持つ古びた大剣に飛び込んだ。
 するとシロの姿は完全に剣の中へと消え、代わりに刀身全体が、淡い輝きを放ち始めた。

「……」

 ロルフは思わず腕を組んだまま、空を仰ぎ見た。

 ……なんだこれは。
 どうしてそうなった……?

 その日の夕暮れ――ギルド協会の手伝いから戻ったロルフは、ギルドハウスに戻るや否や、「見てほしいものがある」と四人に引っ張り出された。
 そうして裏の空き地にいるわけだが、そこでまず聞かされたのは、こうだ。

『エトがシロと合体したのだ!!』

 ……さっぱり意味がわからなかったが、実際に現象を目にした今では、悔しいながらも納得できる。

 ちなみに、エト以外が持っても、こうはならないらしい。
 大剣はもともと黒竜が封印されていたものであり、それにエトが触れた際、シロは外に出ることができた。すると逆に、エトが触れている間なら、シロが再び入ることも可能……と、いうことなのだろうか。

 もしかすると封印魔法全般にそういった特性があるのかもしれないが、前例はない。
 自分から封印に戻る魔物などいるはずもないからだ。

「あー……その状態で攻撃すると、どうなるんだ。」
「ええと……こうなります。」

 エトは訓練用に立ててある木の柱に向かって、横なぎに刃を振るった。
 この時、刃自体は柱まで届いていなかったのだが、その刀身から出た雷のような余波が木を貫通し、焦げたようなダメージが残った。

 ロルフは再び天を仰ぎ見た。

「ロルフ、これは何なのだ?」
「『目』で見たところ、剣自体を魔力が覆っているようですが……」
「そもそも、シロはどういう状態なのよ……?」

 横で見ていた三人の視線がこちらに飛ぶが、そんなのはこっちが教えてほしいくらいである。

 だが、現象だけ見れば、心当たりが皆無というわけではなかった。

「正直、細かいことは俺にもわからんが……魔法が使えるシロが武器に入っているということは、剣に魔法が宿っていると言えなくもない。つまり――」
「つ、つまり……?」
「キュイ?」

 エトが剣を抱えて、ごくりと唾を飲む。その隣に刀身から飛び出たシロが浮かぶ。
 ほかの三人も同様に、緊張している様子が見て取れた。

「原理的には、魔剣と同じ状態なんだ。」

 魔剣とは、特殊な儀式で魔法を封じ込めた武器だ。
 つまり、雷の魔法を使うシロを封じたこの剣は、『雷の魔剣』と限りなく近い性質を持っている。

 おそらくは封印を作った本人にも想定外の事態だろうが、魔剣として整備することで、同様の使い方ができるかもしれない。

 ロルフはシロの抜けた大剣を受け取ると、いつものように整備を始めた。
 出力を安定させ、その力を持ち主の魔力で呼び出せるようにする調整である。

 しばらくして、ロルフは整備の終わった大剣を、再びエトに差し出した。

「場当たり的な処置だが、これで魔法の発生を制御できるはずだ。さっきみたいな雷撃を使いたいときは、それを頭でイメージしてみてくれ。」
「わ、わかりました!」

 三人が期待と不安が入り混じった表情で見守る中、エトは再び剣を構えた。

 先ほどと同様にシロを刀身に呼び込むと、淡く輝くその刀身に、魔導回路の青白い模様が浮かんだ。
 おお、と小さく歓声が上がる。

 エトはそのまま、弱く一度、次は強めに一度、剣を振るった。
 その両方で雷撃は出ず、しかも先ほどよりも、明らかに軽く感じる。

「よし……いくよ、シロちゃん……!」

 囁くようにそう口にすると、エトは足を開いて腰を落とし、真横に剣を振りかぶった。

 その刃先に雷撃を、強くイメージする。
 刀身の輝きが増し、その表面に稲妻が散る。

 そして、先ほどと同じ要領で、訓練用の柱の前に踏み込み――
 一歩手前で、横なぎに振りぬいた。


「……こ、これは……すごいな……」
「ご、ごめんなさい……っ。やりすぎちゃいました……!」

 エトはロルフに向かって、深く頭を下げた。
 それに手で問題ないと示しながら、ロルフは苦笑いした。

 訓練用の柱は、先ほどのように焦げ目がつくだけでは収まらず、半分以上が焼き切れ、メキメキと音を立てながら、後ろに倒れていってしまった。

 スゥ、リーシャ、マイアの三人からも、おおーと声が上がる。
 ロルフも顎に手を当て、うーんと唸った。

「これは……まだまだ未知数なところはあるが、ちゃんと調整すれば、戦いにも十分に生かせるだろうな。」
「ほ、本当ですか……?! やったぁ!」
「キュイー!」

 エトは片手に大剣を持ったまま、飛び出してきたシロをもう片手で抱きしめた。
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