トワイライト・ギルドクエスト

野良トマト

文字の大きさ
88 / 122

第88話 パワーアップ遠征

しおりを挟む
「遠征、なのだ?」
「ああ、お前たちの強さじゃ、もう王都周辺にいる魔物は簡単に倒せてしまうからな。それに、戦う相手が偏ると、戦いに変な癖がつきやすい。」

 ロルフは深く頷きながらそういった。

 エトが新たな武器――『魔剣シロちゃん』と名付けたらしい――を扱えるようになったことで、このパーティーの火力は更に強化されていた。
 完璧に扱えるようになるにはまだ時間がかかるだろうが、状況に応じて盾役から近接主力へ役割を変更できるようになったのは大きい。

 こうなると他にも新しい戦術を試してみたいところだが、前述の通り、このあたりには適した魔物がいない。
 そこで今回、様々な魔物と戦える遠征を計画したというわけだ。

 それを聞いた四人は顔を見合わせ、ぱあと目を輝かせた。

「それって、遺跡に行ったときみたいなことですよね!」
「四人での遠征は初だし、腕が鳴るわ。」
「なんだか……とても、ワクワクしますね。」

 中でもスゥはずいぶんと嬉しそうで、んーっと体を縮めると、両腕を上げてジャンプした。

「やったのだー! それじゃ、レッツゴーなのだー!!」


 +++


「ほぎゃああああ死ぬのだぁああああ」

 スゥの涙は暴風にさらわれ、大量の雨粒とともに馬車の後方へ吹っ飛んでいった。

 前回同様、ロルフたち一行は行商人の馬車にのせてもらったのだが、運悪く局所的な暴風雨に遭遇してしまったのだ。
 ぬかるんだ地面はいつも以上に豪快に揺れるし、荷馬車を被う革が雨風に叩かれ、とんでもない騒音になっていた。

「スゥちゃん、首出すと危ないよーっ!」
「ほああぁもう降ろしてほしいのだあぁああぁあ」

 目をぐるぐるさせて荷馬車の後ろから顔をだすスゥを、エトがひっぱる。

「エト。」
「ま、マイアちゃんも、手伝って……」
「いえ、リーシャが泡を吹いて倒れました。」
「ええーっ?!」

 そんな中、前の革が開き、雨と一緒にびしょ濡れのロルフが入ってきた。

「予定を変更して、近くの村に寄ってくれるらしい。一旦そこで雨宿りを……って、何をやってるんだ……?」
「ろ、ロルフさん、助けてぇ……」

 ――そんなこんなあって。

 ほどなくして、馬車はポキ村という小さな村に着いた。
 荷台から降りると、ロルフは目を回したスゥを背負い、エトとマイアは目を回したリーシャを担いで、足早に村の宿へと向かった。

「おやまぁ、災難でしたねぇ。」

 宿に入ると、亭主らしき女性が拭くものを持ってきてくれた。

「でも……困りましたねぇ。急な豪雨で二階が雨漏りしてしまって、二人用のお部屋が一つしか空いてないんです。」
「そうですか……この村には、他に宿は……?」
「いいえ、なにぶん、小さな村なものですから……どうしましょうねぇ。」

 エトたちに拭くものを回しながら、ロルフも唸った。

 二人用の部屋に五人が入るのは無理があるだろうが、エトたちだけならどうにかなるだろう。
 自分は雨漏りしている部屋を使わせてもらうか、最悪馬車の荷台でも……。

 そんなことを考えていると、ふいに近くの部屋のドアが開いた。

「――おや。聞き覚えのある声だと思ったら。」
「!」

 その声にロルフが顔を向けると、そこには修道服を着た、老年の女性が立っていた。

「ロルフじゃないかい。こりゃまた久しいねぇ。」
「先生じゃないですか、どうしてここに……?!」

 ロルフの驚きの声に、エトとマイアは思わず顔を見合わせた。

「ロルフさん、お知り合いなんですか?」
「ああ。こちらマーガレット教授と言って、俺の魔術の師だった人だ。」
「マスターの……というと、魔導回路の……」

 おお、と二人は声を漏らし、次いで急いで頭を下げた。

「ハッハ! 教授なんてもうとうの昔にやめているよ。そんなかしこまらなくても結構さね。」

 マーガレットは豪快に笑いながら手を振ると、改めてエトたちに目をやった。

「それで、その子たちはあんたの教え子かい?」
「ああ、いえ、彼女たちはギルドメンバーなんです。遠征の途中で、この嵐に見舞われてしまいまして。」
「え、エトです!」
「マイアです。よろしくお願いします。」

 再びぺこりと頭を下げた二人を見て、マーガレットは嬉しそうに頷いた。

「話は聞こえてたよ。私の部屋も使いな。一人にゃ少し広い部屋だと思ってたところさ。」
「まぁ~、助かりますわ。すぐに準備しますねぇ。」

 そういうと、亭主はぱたぱたと奥へと引っ込んでいった。

「ありがとうございます。正直、助かりましたよ。」
「ま、困ったときはお互い様さね。そっちのダウンしてる二人も――」

 そこまで言って、マーガレットはぴたりと言葉を止め、目を丸くした。

「リーシャ……驚いたね、リーシャじゃないかい。」
「えっ。」

 その言葉に、今度はロルフとエトとマイアの三人が、目を丸くした。

「リーシャを……知っているんですか?」
「そりゃあ、知ってるも何もないさ。」

 マーガレットはロルフに視線を戻すと、さらりと言い放った。

「私の娘だもの。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。 しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。 絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。 一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。 これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!

処理中です...