トワイライト・ギルドクエスト

野良トマト

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第97話 失われた武器②

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「ありがとうございますじゃ。魔物も、最近は外に出てくるのも増えましてな……困っておったのです。どうぞ、遠慮せずに食べてくだされ。」

 一行は村の食堂で、村長に歓迎されていた。
 しかし、テーブルに並べられた料理は、お世辞にも豪華とは言えなかった。山菜やキノコばかりで、肉の類はほとんど見当たらない。
 もっとも、スゥなどは喜んで食べ物に飛びついていたのだが。

「このようなもてなししかできず、申し訳ないですな……」
「いえいえ、とんでもない。ですが、村にあまり活気が無いように思いますが……それも、魔物のせいでしょうか?」

 ロルフの問いかけに、村長は眉をひそめた。

「いえ……どちらかというと、盗賊のせいなのですじゃ。」
「盗賊?」

 村長は力なく頷いて、目を伏せた。

「鉱山から掘り出した竜炎鉱を、奪っていく輩がおるのです。国に掛け合い、人を派遣してもらえることになっとるんですがの……少々、時間がかかっておりましてな。」
「竜炎鉱を? それはまた、妙な話ですね。」

 食事の手を止め、考え込むロルフに、エトたちは顔を見合わせた。

「ロルフさん、それって、どんなものなんですか?」
「奪われてるんだから、価値がないわけじゃないのよね?」

 マイアも興味深そうに、スゥも食べ物を頬に詰めながら、こっちを見ている。

「うん。竜炎鉱はな、魔力的な刺激を与えると、ゆっくり超高温になる鉱石なんだ。最終的には鉄を溶かすほどに熱くなって、建築や採掘に利用できる。もちろん、整備にも使うぞ。」
「左様。あまり目に触れることはないと思いますがの、この国で流通する竜炎鉱は、ほとんどこの鉱山で採れるのですじゃ。」

 村長もうんうんと頷いて、ロルフの説明に言葉を付け足した。

「それが奪われるのが、なにか妙なのですか? マスター。」
「ああ。これを大量に保管するとなると、そこそこ管理が難しいんだ。連鎖して全部発熱したら、大惨事だろう?」
「それは……なるほど、確かに。」
「でも、お高いんじゃないのだ?」

 頷くマイアの隣で、お代わり、とお椀を差し出しながら、スゥが問いを重ねた。
 ロルフは腕を組んで、うーんと唸った。

「まあ、確かに、安くはないんだが……。出所が限られてるわけだから、売れば足が付きやすいし、運搬その他諸々のリスクを考えると、割に合うとは思えないんだがなぁ。」
「私どもも、同じような見解ですじゃ。よもや盗賊どもが、自身で使うとも思えませんしの。」

 村長もふぅ、と溜息をついて、かぶりを振った。
 そしてそのあとすぐに、はっとしたように顔を上げた。

「いや、暗い話題を持ち出して失礼しましたな。魔物の件が解決しただけでも、十分にありがたいこと。本当に、感謝しておりますじゃ。」

 そう寂しげに笑う村長の表情には、やはり心に刺さるものがあった。


+++


「うーん、盗賊かぁ……どうにか、してあげたいけど……」

 例のごとく、ロルフはもう少し依頼の話していくというので、四人は先に宿に向かっていた。
 その道中で、最初に言葉を漏らしたのは、エトだった。

「国から人が来るって言ってたでしょ。……私たちが出る幕じゃないわ。」
「それは……まぁ、そうなんだけど……」
「気持ちはわかるのですよ。村長さんも、いい人でしたし。」

 エトとマイアは浮かない顔をしているし、リーシャだって、あえて突っぱねてはいるが、同じように考えているのは見え見えだ。

 スゥは腕を組んで、うんうんと大げさに頷いた。

「スゥもそう思うのだ。きっと盗賊がいなければ、ご飯ももっと豪華だったのだ!」
「……いや、ご飯の問題じゃ……っていうか、めちゃくちゃ美味しそうに食べてたじゃないの、スゥ。」
「キノコのスープが絶品だったのだ!」
「品目を聞いてるんじゃないのよ??」

 ふふ、と三人の間に笑いが起こる。
 それにのっかるように、スゥも笑った。

 しかし、その笑顔の裏にあって、内心は穏やかではなかった。
 盗人の濡れ衣を着せられて、ギルドを追放された過去の記憶。重なる点は少なくとも、盗みが原因で追いつめられている人を見るのは、胸が締め付けられる感じがした。

 リーシャが言うように、自分にはどうしようもないこともわかっている。
 胸のもやもやは、なくなるどころか、余計に大きくなってしまっていた。

 そんな思いを飲み下せぬまま、一行が宿に着いた時だった。

「……あ、あれ?」

 他の三人が宿に入ろうとする中、スゥだけが一人、ぴたりと足をとめた。
 先頭にいたエトが、扉を片手に振り返る。

「スゥちゃん、どうかしたの?」
「なによ、キョロキョロして。」
「何か忘れ物でもしたのですか?」

 それらの問いに答えるまでの間に、スゥの顔は、見る見るうちに青ざめていった。

「スゥの、武器が……無いのだ……。」

 そういって、宿を出る前に武器を置いたはずの、今は何もない宿の壁の一角を、力なく指さした。
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