トワイライト・ギルドクエスト

野良トマト

文字の大きさ
98 / 122

第98話 失われた武器③

しおりを挟む
「……ダメだ。宿の人は、誰も見てないらしい。気を使って家の中に入れてくれた、って訳ではなさそうだ。」

 ロルフの話を聞いて、四人は顔を伏せた。

「そんな……じゃあ、やっぱり……」
「そもそも、なんで外にほっぽっておいたのよ。それじゃ盗んでくれって――」

 そう言いかけたリーシャは、スゥの顔を見て、ばつが悪そうに言葉を切った。

「まあ、起こってしまったことは仕方ない。皆の活躍で資金はあるからな、次の街で新しい武器を――」
「ダメなのだ!!」

 バン、と机に手をついて立ち上がったスゥに、ロルフも他の三人も驚いた。

「スゥは……スゥは、あの斧のおかげで強くなれたのだ。だから……だから……」

 スゥは消え入るようにそう言って、また力なく座った。

 スゥに限った話ではなく、大剣や槌など重量級の武器は、あまり敵によって使い分けることをしない。スペース的に複数用意するのが難しいというのもあるが、小型武器よりも重量感や距離感を手になじませておく必要があるからだ。
 そのためスゥはこのギルドに入ってから、あの戦斧しか使っていない。強い愛着があるというのは、想像に難くない。

「ばちが当たったのだ。スゥが、武器を変えたいなんて思ったから……」

 ぽろりと、スゥの膝に雫が落ちる。
 その様子をみて、エトたち三人は顔を見合わせ、小さく頷いた。

「……まだ、なくなったと決まったわけではないのです。もう一度、皆で村を探してみましょう。」
「うん、そうだね! 誰かが見てるかもしれないし!」
「しょうがないわね。全員で回っても効率悪いから、手分けするわよ。」
「みんな……」

 そういった経緯で、五人はそれぞれ手分けして、村の探索をすることになった。


+++


 日も落ちかかる中、スゥは一人、人気のない森の中を進んでいた。
 というのも、荷馬車のおっちゃんから、『そういえば、そんな斧を担いだ男が、森に入っていったのを見たな。』という話を聞いたからだ。

 それからすぐに森に入って、結構な距離を歩いたと思う。
 すると、焚火らしき明かりが見えてきた。

「……! 誰か、いるのだ……?」

 抜き足差し足、焚火に近寄ると、近くに馬車とテントのようなものが見えた。
 こんなに近くに村があるのに、野宿しようとしてるなんて、少し変だな……と思っていたら、突然自分の足が地面から離れた。
 背後から襟をつかまれ、誰かに持ち上げられたのだ。

「……なんだ? いやにちっこいヤツが来たな。」
「グラッツ。油断するなといつも言っているでしょう。小さくとも盗賊、何を隠しているかわかりませんよ。」
「わかってんよ、アル。」

 スゥを持ち上げている男は赤茶の短髪で、いかにも肉体派という感じだった。両手にはごつい鉄製のガントレットをつけている。
 対してもう一人の眼鏡の男性は細身で、青みがかった長髪。腰のレイピアを抜いて、周囲を警戒していた。

 スゥは心底驚いていた。
 どちらも急に現れたというか、まったく気配に気づかなかったからだ。

 しばらく唖然としていたが、はっと気を取り直し、ばたばたと両手両足を動かす。

「な、何を言ってるのだ! 盗賊はそっちじゃないのだ?! スゥの斧を返すのだ!!」
「はぁ? 何を言って……斧?」

 男はびくともしなかったが、その言葉には何か引っかかるものがあるようだった。

「……グラッツ、何か心当たりが?」
「あー……無くは、ない。」

 眼鏡の男性は速やかに武器を収め、冷ややかな目でこちらを見た。


 話を聞くと、二人はアルバートとグリッツという名で、この付近に出る盗賊を退治するため、国から派遣されてきたらしい。
 二人は盗賊のアジトを見つけ、襲撃しようとしたのだが、盗賊に感づかれて逃げられてしまったのだそうだ。

「ま、それでアジトから、奴らのお宝だけ回収してきたってワケだ。ここで野宿してたら、取り返しに来るかもしれないしな。そしたら今度こそとっ捕まえてやる。」
「おお~っ! 凄い作戦なのだ! カッコいいのだ!」

 バン、と掲げた腕を叩くグリッツに、スゥは目を輝かせた。
 その隣でアルバートは深くため息をついた。

「何を自慢げに言っているのです。そもそも、あなたが門を派手に破壊して、『キングハルバードだ!』なんて名乗るから、盗賊達に逃げられたのですよ。」
「しょうがないだろ? まさかそれだけで逃げる臆病者だとは、思わなかったんだよ。」
「あなたは盗賊を何だと思ってるんです……。」

 そう、そしてこの二人は、最強と名高いSランクギルド、『キングハルバード』のメンバーなのだ。
 それは強い冒険者を目指していたスゥにとって、まさにヒーローのような存在だった。

「しかし、スゥ。あなたには謝罪せねばなりませんね。うちのバカがとんだご迷惑を。」
「いやー悪い悪い。てっきり、アルが落っことしたのかと思ってな。」

 アルバートの冷ややかな視線を躱しつつ、グリッツは二本の戦斧を指さした。
 そこにはスゥの武器ともう一つ、それを鏡に映したかのような、左右対称の斧が置かれていた。

 つまり、盗賊から回収した品の中に、スゥの斧とそっくりのものがあり――それを村で見つけたグリッツは、自分たちが落としたと思って持って来てしまったというわけだ。

「スゥもびっくりなのだ。まさか、こんなにそっくりの斧が、もう一つあるなんて……」
「ふむ。見たところ遺跡で発掘されたもののようですし、もともと二つで一つの武器だったのかもしれませんね。専門家に聞いてみないと、何とも言えませんが。」
「二つで……一つ……」

 そういわれてみると、二つが並んでいることは、とても自然なことのように思えた。
 なんとなく、それを両手に持ってみたくなって、スゥは手を伸ばした。

「しかしまぁ、鬼人とはいえ、よくそんな小さい体で、これだけデカい武器を扱えるもんだ。そうだ、小さい鬼人といやぁ……」

 そこまで言って、グリッツはふと言葉を切って、アルバートの方を見た。
 そして僅かな間をおいて、再び口を開いた。

「なあ、おまえ、兄貴がいたりしないか? 大鎌使いの――」
「えっ? それ……」

 スゥは思わず手を止め、二人の方を見た。
 しかし、それに答えようとした声は、森に響く奇妙な咆哮に、かき消された。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

辺境の最強魔導師   ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~

日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。 アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。 その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...