トワイライト・ギルドクエスト

野良トマト

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第100話 危険な戦い①

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 スゥとグリッツ、アルバートの三人は、十数人の盗賊たちに囲まれていた。

 ただ、盗賊といっても、何か様子がおかしい。
 全員目はうつろで、なんだかだらりとした姿勢で、おまけに暗くて見にくいけれど、黒い霧のようなものが体から出ているのだ。

「な……なんか、ヤバそうなのだ……」

 スゥが斧を構えようとした、その瞬間。盗賊の一人がスゥに飛び掛かってきた。

「ひあっ?!」

 突然のことにスゥはまったく反応ができず――しかし次の瞬間には、盗賊は遥か右方に叩き飛ばされていた。

「おっと、下がってな、スゥ。こいつらは、俺らのお客さんらしい。」
「あ……」

 スゥは唾を飲み込んだ。

 グリッツが助けてくれなければ、さっきの短剣を防げていたか、正直わからない。
 それくらい妙に速く、鋭い攻撃だったのだ。

 吹き飛ばされた盗賊は木に衝突したが、まるでダメージが無いかのように、すぐにふらりと起き上がってきた。

 動きは速い、攻撃は重い、しかも頑丈。
 そんな人間離れした強さの敵が、十人以上もいるのだ。

「どっちが多く倒せるか、勝負しようぜ? アル。」
「無駄口を叩いている暇があるなら敵を叩きなさい、グリッツ。」
「はーっ、相変わらず面白みのねぇ男だな。」
「結構。貴方に面白がられても、何のメリットはありませんからね。」

 でも、それを優に超えるほど、二人は強かった。

「吹き飛べ、『グランドハウル』!」
「貫きなさい、『ガイアファング』!」

 二人の武器は、エトの『魔剣シロちゃん』の様に魔法が使えるみたいで、地震を起こしたり、地面から尖った岩を出したりして、盗賊たちを近づけさせなかった。
 だから最初の一撃以降、スゥにはただの一度も攻撃は来なかった。

 最初は勢いの良かった盗賊たちも、一人、また一人と起き上がらなくなり、ついには最後の一人になっていた。

「さて。この方で……」
「最後、だな。」

 ゴン、とガントレットで頭を叩くと、どうにか立ち上がろうとしていた最後の一人も、とうとう動かなくなった。

「ふう。おい、大丈夫だったか――」

 そうグリッツが聞き終わるより早く、スゥは二人に飛びついていた。

「す、凄いのだ凄いのだ! 二人とも、師匠と呼ばせてほしいのだ!!」
「し、師匠? あのですね、私たちは弟子などは……」
「ハッハッハ、しょうがねぇな! かまわねぇぜ!!」
「?! こ、こらグリッツ、勝手に……!」
「やったのだ! グリ師匠、アル師匠っ!」 

 強い、強い、強い!!
 スゥも、こんな風になりたい!!

 そんな気持ちが、あふれて止まらなかった。

「別にいいじゃねぇか、減るもんでもねぇし。」
「いいですかグリッツ、そもそも師弟というものは――」

 言い合っていた二人は、ぴたりと口を止め、再びガントレットとレイピアを構えた。
 そのあと、ずん、と妙な振動を感じ、スゥもまた斧を構えて、森の向こうの闇を見た。

 僅かな間をおいて、その主は木々の間から姿を現した。

「なんだ、こいつは……」
「魔物、なのだ……?」

 それは、熊の三倍ほどもある、巨大な化け物だった。

 おとぎ話に出てくる巨人に似ているが、頭は体にほとんど埋まっていて、髪の毛はなく、目は見えないくらいに小さい。
 筋肉質な体は少し横に大きくて、でもところどころ左と右で大きさが違う。なんというか、全体的にバランスが悪い。

 その胴体からは、先ほどの盗賊たちのように、黒い霧が絶え間なく出ているようだった。

 低く唸るその姿を見て、スゥは前に一歩、踏み出した。

「ここは、スゥがやるのだ! 師匠たち、見ててほしいのだ!!」
「! 待ちなさい、スゥ!」

 スゥはアルバートの制止を無視して、勢いよく飛び出した。
 そのまま巨人の近くで高く跳躍すると、柄を長く持ち替え、全身をばねのように使って、渾身の力で戦斧を振り下ろす。

 大きい敵は動きが鈍いし、的が大きいから、大振りの攻撃を当てやすい。
 こういう敵は、パーティーでの戦闘の時、いつもスゥの大得意だった。

「――えっ」

 だから、最初は何が起こったのか、よくわからなかった。
 目の前から、急にその巨体が消えたのだ。

 それが消えたのではなく、自分よりも上にいるのだとわかったのは、スゥの体にその大きな影がかかったからだった。

『斧を振り下ろす攻撃は、一度始めると軌道修正が難しい。きちんと相手の動きを観察するまでは、防御に徹するんだぞ。』

 それは、ロルフからよく注意されていたこと。
 他にも色々なことが頭の中をぐるぐる回るが、考えがちっともまとまらない。

 あ……。まずったのだ……。
 スゥは、ただ……だって、スゥは……。

 その小さな体の上に、巨大な拳が振り下ろされた。
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