トワイライト・ギルドクエスト

野良トマト

文字の大きさ
101 / 122

第101話 危険な戦い②

しおりを挟む
「ぐぅっ……!」
「クッ……!」

 グリッツとアルバートは、巨人から後退すると共に、小さくうめき声を上げた。

「師匠……っ!」

 スゥは二人に駆け寄ろうとしたが、足の痛みが動きを鈍らせ、膝をついた。

「ごめんなさいなのだ……スゥが、スゥが……」
「ヘッ、気にすんな。この程度、屁でもねぇぜ。」
「……巻き込まれないように、貴方はなるべく遠くに離れていてください。」

 二人はこちらを向かずにそれだけ言うと、再び巨人へと向かっていった。

 結論から言えば、スゥは無事だった。
 手をすりむき、足首を痛めたものの、他に大したダメージはない。

 その理由は――二人が、スゥを、巨人の攻撃から庇ったからだ。

 そしてその結果、グリッツは右腕、アルバートは左脚に、深い傷を負っていた。

「ぐあっ!」
「がっ……」

 巨人の腕の一振りで、それぞれ逆方向に弾き飛ばされる二人。
 どうにか立ち上がり、武器を構えるが、動きは明らかに鈍くなっていた。

 二人の攻撃で巨人にもいくつもの傷ができたが、それも黒い霧が集まったかと思うと、見る見るうちにふさがっていく。
 まさに、絶望的な状況だった。

「スゥは……スゥは、どうしたら……」

 かすれた声で、スゥは力なく手を伸ばした。

 助けなきゃ、いけないのに。
 何とかしなきゃ、いけないのに。

 このままじゃ、負けちゃう。
 スゥのせいで。
 スゥが、弱いせいで。

 スゥの目から、乾いた涙がこぼれた。
 滲む視界の中、伸ばした手の先に、青い蝶が舞い込んだ。

「誰……か……師匠たちを……助けて……」

 刹那。

 一つの黒い影が、スゥの上を飛び越した。


+++


 エトは木々の間を飛び移りながら、森の中を進んでいた。
 そしてついに、前方の開けた場所に、目的の人影を見つけた。

「スゥちゃん!!」

 膝立ち状態のスゥの近くに着地し、駆け寄る。

「エ……ト……?」
「大丈夫?! すぐ、皆も来るから!」

 スゥは呆然としているようだったが、大きな怪我などは無いようだった。
 そしてエトの姿を見た途端、糸が切れたようにふらりと前に倒れた。

「よかった……のだ……師……匠……」
「!」

 急いで抱きとめたエトの手の中で、スゥは眠ってしまったようだった。

 スゥが無事だったことに安堵したのもつかの間、周囲を見渡して、エトは目を見開いた。
 その目の前には、幻想的ともいえる、壮絶な光景が広がっていた。

 地面の一部は白に染まり、綺麗に切り飛ばされた木々に変わって、地面からは巨大な氷柱がいくつも生えている。
 月明かりを受け、虹色に輝くそれらの中心には、竜に乗ったアインの後ろ姿があった。

 風に揺れる長い銀髪と、その隙間から見える、真横に伸ばした腕。
 そこに握られているのは長剣で、しかし厚い氷に覆われたそれは、まるで巨大な槍のように姿を変えていた。

 そしてその奥には――半分凍り付いた巨大な魔物が、うなだれるように硬直していた。

「……凄い。」

 エトは思わず、息を飲んだ。

 直接、戦うところを見たわけじゃないのに。
 それなのに、強さがびりびりと肌に伝わってくるような、そんな感覚。

 脳裏に、マイアの言葉が、熱を持って蘇ってくる。

『アイン様は……『《王の矛|キングハルバード》』のギルドマスター、つまり……王国最強の騎士と言われている方です。』

 これが、最強。
 王国で一番の――強さ。

 言葉にできない感情がこみあげ、エトは大剣の柄を強く握りこんだ。
 その刀身に、微かに、黒い霧が揺らめいていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

処理中です...