トワイライト・ギルドクエスト

野良トマト

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第102話 静寂の死闘

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 暗く、静まり返った深夜。

 ライゼンは音もなく塀を飛び越え、敷地の中に着地した。
 そのまま滑るような足取りで建物の中に入り、廊下を進んでいく。いくつかの突き当りを慎重に曲がると、突き当りに古びた扉が見えた。

「……」

 キィ、と小さな音とともに、その扉を押し開ける。
 ツンとする薬品の匂いと、何かが焦げたような不快な匂いが、同時に鼻をかすめた。

 人の気配は無い。

 まず最初に目を引いたのは、やはり中央にある診察台。暗さのせいではっきりとは見えないが、血のようなものが付着した、大きな白い布がかぶせてある。

 ライゼンはそれに近づくと、慎重に布を捲った。

「……?! なんだ……これは……?!」
「キヒヒ、驚いたかぁ?」
「――!!」

 咄嗟に声のした方へ目を向けると、奥の暗がりから大鎌を持った男が一人、微かに揺らめきながら現れた。

「なかなか、見事な隠密魔法だったぜぇ? まぁ、俺ほどでは無いけどなァ。」
「……貴様。」

 次の瞬間、二人の体は雷光とともに窓を突き破り、外へと投げ出されていた。
 大斧と大鎌が幾度となくぶつかり、火花が散りつつも、周囲は依然として静寂に包まれていた。

「へぇ、音を遮断しながら……見た目に寄らず器用だな、オマエ。」
「悪いが、助けは呼ばせない。見られたからには、貴様にも来てもらうぞ……!」
「助け?」

 大鎌で斧を絡めとるように固定すると、男はぐいっと顔を近づけた。

「そんなもん必要ねぇよ、バァカ。」
「クッ……」

 片手を離し、殴りぬけようとするも、大鎌使いは瞬時に拘束を解き、ひらりと躱した。

「貴様らの目的は何だ……。をして、神にでもなったつもりか……!」
「ハハッ、そうかもなァ。」
「真面目に答えろッ!」

 再び静寂の中、斧と鎌が強烈にぶつかる。

「ヒヒッ……弱え奴はなぁ……何されても仕方ないんだよ。強者が弱者を支配する。当たり前のことだろ?」
「……貴様にも、家族がいるだろう……! なんとも思わないのか?!」
「はぁ? そんなもん――」

 突然、大鎌からの力が抜け、前のめりに倒れそうになるのをこらえる。
 見ると、大鎌の男は片手で頭を抑え、何やら呻いているようだった。

 ――好機。
 ライゼンは、その隙を見逃さなかった。

「ぐ……あぁあああぁあっ!」

 大鎌ごと切り落とされた右腕が、地面に跳ねた。

「悪いな……。無傷で連れ帰れるほど、貴様は弱くなかった。」
「お……おぉお……あ……」
「もう終わりだ。諦めて投降……を……」

 そこまで口にして、ライゼンは目を見開いた。
 切り落とした男の腕から、黒い霧のようなものが噴き出したのだ。

 それは腕の形に留まると、その靄の中に骨を、筋を、筋肉を、見る見るうちに形成していく。
 数秒と経たないうちに、そこには元通り、右腕があった。

 何だこれは、魔法?
 いいや、馬鹿な、あり得ない。
 切られた腕を繋げるならまだしも、など。

「貴様は……、なんなんだ……?!」
「あぁ……? うるさい……そろそろ、黙れ……!」

 男は切り落とされた右腕から、新しい右腕で大鎌を取り上げ、目にもとまらぬ速さで斬りかかってきた。


+++


 ……頭痛が収まらない。

 気分が悪い。
 吐き気がする。

 ギィは左手で頭を掴みながら、もはや動かなくなった侵入者を引きずって、建物の方へと歩き出した。

「ハッ、結局……大したやつじゃ、無かった、な……」

 また、ずきりと頭に痛みが走り、思わず膝をつく。

 なんだ、この頭痛は。
 アイツの言葉を聞いてから、妙に痛む。

 何を……言われた……?

「クソ……ッ、頭が……痛…………」

 ギィはそのまま、前のめりに倒れこんだ。
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