トワイライト・ギルドクエスト

野良トマト

文字の大きさ
107 / 122

第107話 止まらぬ異変

しおりを挟む
「今週だけで、封印が破壊されたことによる魔物の被害が、四件も報告されています。どれもマーガレット氏やキングハルバード側で早急に処理できたため、大きな混乱はありませんでしたが……これは……」
「ああ。やはり、紛失した『封印の所在の資料』が、悪用されていると見て間違いないな。」

 エリカの報告に、最奥に座るユーリが言葉をかぶせる。
 席についていた残りの二人、アインとレイナの表情が曇る。

「……その資料、紛失した時期はわかりますか?」
「それが……実は資料の整理の日が近かったので、ギルド協会がネズミの魔物に襲われる前日までは、あることが確認できていたんです。ですから……」
「ふぅん。すると、前日の深夜に盗んだか、魔物の討伐後のどさくさに紛れて盗んだか、あるいは――」
「あの騒動が、そもそも資料を盗むためのものだったか……だな。」

 レイナが人差し指をくるくる回しながら言葉を並べると、そこにユーリが続いた。
 それを聞いて、エリカは思わず立ち上がった。

「そんな……! 魔物を王都に誘導したっていうんですか?! どうやって……?!」
「それはわからん。ただ、もしそれが可能だとすると……一つ、説明できるようになる事件がある。」
「……! 『ギルド暴動』……。しかし、それでは……」

 エリカはその続きを言う代わりに、力なく、席に座った。
 その様子を見て、ユーリは視線をレイナに移した。

「例の盗賊団からの情報は、どうだ?」
「いや、ダメだね。生きてこそいるけど、人格が完全に崩壊してしまってる。まともに口が利ける状態じゃないよ。」
「……そうか。」

 患者の様子を思い出し、レイナは顔をゆがめた。
 入れ替わるように、アインが口を開く。

「密偵の方は、どうです? そちらで何か挙がれば、強硬手段という手もあるでしょう。」
「それが……」

 ユーリの前に、エリカが苦々しい口調で割って入った。

「ライゼンさんと、連絡が取れなくなっています。『直接潜入を試みる』という書面を、最後に……」
「……」

 レイナとアインの視線が、ユーリに向けられる。

「聞いての通り、事態は最悪に近い。だから――」

 ユーリは顔の前で組んでいた手を解き、三人の顔を見ながら、小さく頷いた。
 そして席を立ち、扉へと歩き出した。

「俺が、直接出向く。」


+++


「決めたのだ! この子の名前は、『トワトワ』なのだ!!」

 天気の良い昼下がり、馬車に揺られながらのんびりしていると、スゥが突然そう叫んだ。
 見ると、両手に例の魔剣を持っている。

「名前……その武器の、か?」
「そうなのだ! トワイライトから取ったのだ。」

 スゥはふふんと胸を張った。よほどその命名に自信があるのだろう。

「なーんか静かだと思ってたら、武器の名前なんて考えてたのね?」
「なるほど。戦斧が二本あることを、語感の繰り返しで表現しているのですね。」
「えっ、そ、そうなのかな……?」
「キュイ!」

 三人ともそこそこ興味があるようで、そこそこ盛り上がっている。
 シロもエトのマントから顔を出して、一鳴きした。

「にゃはは、シロ助もいいねって言ってるのだ!」

 その様子を、ロルフは少し意外そうに見ていた。
 ロルフにとって武器は『状況によって使い分けるもの』であるので、名前を付けて愛でるという発想自体、あまりなかったのだ。
 確かに魔剣を扱うなら、魔法発動の感覚をぶらさないよう、同じ武器を使い続けるのが効率的ではあるが――

『よし、気に入ったッ! 今日からこの大剣は、俺様専用だ!!』

 ……!

 ロルフの脳裏に、最初に武器を渡したときの、アドノスの姿が浮かんだ。
 そういえば、他の冒険者に同じ武器を貸し出したとき、ずいぶん怒っていたっけな……。

 戦斧を失くしたときのスゥの姿が、ぼんやりとそれに重なる。
 次の町で新しい武器を買う提案を、スゥは頑として受け入れなかった。

 効率を求めることだけが、正しいことではないのかもしれない。

「……少し、考え直すべきなのかも、しれないな……」

 ロルフは一人空を見上げて目を細め、苦々しく呟いた。

「えっ」
「んっ?」

 ふと視線を戻すと、スゥたちが顔を青くして、こちらを凝視していた。

「こ、これ、そんなにマズイ名前だったのだ……?」
「ロルフさんが深刻そうな顔を……!」
「ま、まさか、呪いの言葉なの……?!」
「あるいは、曰くつきの武器の名前という可能性も……」
「キュイ?」

「……誤解だ!」

 馬車の上は、すぐに笑いで満ちた。

 青空の下、皆をのせたそれは、順調に目的地へと進んでいった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。 しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。 絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。 一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。 これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!

処理中です...