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第108話 最悪の目覚め
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『はぁあああッ!!』
アドノスは巨大な魔物を、大剣で真っ二つに切り裂いた。
黒い血しぶきが、体中に降りかかる。
『はぁ、はぁ……やった……か……』
酷い疲労感にふらつき、剣を地面に突き立てる。
ふと、右腕に妙な違和感を感じ、目を向ける。
血しぶきに濡れた腕は一部が裂けており――その中に、触手のようなものが蠢いていた。
『な、なんだぁっ?!』
思わず、剣から手を離す。
すると地面に倒れた剣は、まるでガラス細工のように、粉々に砕け散った。
なんだ、これは。
俺は、何を見ている。
腕の触手はついに外に這い出し、腕を食い破って、奇妙な頭が叫び声を上げた。
『う……うわああああああッッ!!』
アドノスが跳び起きると、そこは見知らぬベッドの上だった。
まるでバケツをひっくり返したかのように汗だくで、妙に全身が冷たい。
「こ……こは……?」
どうにか記憶を辿ろうとして、頭を軽く振るう。
「――がぁッ?!」
突如、気が狂いそうなほどの激痛が右腕に走る。
思わず体をよじった勢いで、ベッドから落ち、体が地面に叩きつけられるが、とてもそれで紛れるような痛みではない。
痛みはどんどん大きくなり、内側から焼かれているようにすら感じる。
アドノスは歯を食いしばり、消し飛びそうになる意識を必死につなぎとめて、無理やり視線を右腕に送った。
そして、そこにあったのは、悪夢のような光景だった。
「なん……だ、これは……?!」
巨大なそれは、鱗と黒い剛毛に覆われ、四本しかない指には、長く鋭い爪があった。
自分の右腕があるべき場所に収まっていたのは、魔物の腕だった。
痛みと混乱で、アドノスは声にならない叫び声を上げた。
「あら、あらあら! 目が覚めたのねぇ?!」
慌ただしく扉を押し開け、部屋に白衣の男が駆けこんできた。
見覚えがある。あのクソ司祭に、ミゲルとか呼ばれていた奴だ。
アドノスは地面に伏せながらも、ミゲルの姿を睨みつけた。
「貴様……っ、俺に……何を、した……ッ?!」
「まあ、驚いたわぁ……しっかり意識まであるじゃない。」
その視線など意にも介さず、ミゲルはしげしげとアドノスの様子を観察した。
自分でも驚くほどの怒りが沸き上がり、体が沸騰するように熱くなるのを感じた。
「答えろッッ!!」
「!」
怒りに任せ、その獣の腕を振ると、それは瞬く間に周囲の棚やベッドを破壊した。
上に載っていた器具や薬瓶が床に落ち、砕け散る。
しかしミゲルはそれを簡単に躱すと、興奮したように顔をゆがめた。
「すごい……すごいわぁ。大成功じゃないの……」
アドノスはどうにか立ち上がろうとしたが、体中が千切れそうな痛みに襲われ、再び地面に倒れた。
痛みは増すばかりで、意識を保つだけでも精一杯だった。
「ふふ、何をしたのか……って? 私は死にかけてた貴方を、治療で助けてあげたのよぉ。」
「何を……バカなぁ……ッ!」
「――起きたようですね。」
「?!」
気が付くと、半分壊れて千切れ落ちた扉の向こうに、ロキが立っていた。
逆光で表情は見えないが、その声色は氷のように冷たい。
「ロキ……貴様……、貴様ァ……!!」
「その腕は、貴方が切り落とした黒晶獣の腕です。本来の腕はもう使い物になりませんでしたので、それの縫合をドクター・ミゲルに依頼しました。他に、質問は?」
「な……」
ロキはまるで何の感情も無いかのように、さらりとそう語った。
怒りが、憎悪が、屈辱が。
様々な感情が駆け巡り、頭がおかしくなりそうだった。
「ちょっと、私の患者を刺激しないで欲しいわぁ。病み上がりなのよ?」
「おっと……そうでしたね。あとはお任せしますよ、博士。」
「ま……待、て……」
ロキに向かって、左手を伸ばす。
それは視界の中でかすんでゆき、ぐらんぐらんと揺れながら、次第に彩度を失っていった。
最後に見えたロキの表情は、笑っているように見えた。
「貴方には期待していますよ――アドノス。」
アドノスは巨大な魔物を、大剣で真っ二つに切り裂いた。
黒い血しぶきが、体中に降りかかる。
『はぁ、はぁ……やった……か……』
酷い疲労感にふらつき、剣を地面に突き立てる。
ふと、右腕に妙な違和感を感じ、目を向ける。
血しぶきに濡れた腕は一部が裂けており――その中に、触手のようなものが蠢いていた。
『な、なんだぁっ?!』
思わず、剣から手を離す。
すると地面に倒れた剣は、まるでガラス細工のように、粉々に砕け散った。
なんだ、これは。
俺は、何を見ている。
腕の触手はついに外に這い出し、腕を食い破って、奇妙な頭が叫び声を上げた。
『う……うわああああああッッ!!』
アドノスが跳び起きると、そこは見知らぬベッドの上だった。
まるでバケツをひっくり返したかのように汗だくで、妙に全身が冷たい。
「こ……こは……?」
どうにか記憶を辿ろうとして、頭を軽く振るう。
「――がぁッ?!」
突如、気が狂いそうなほどの激痛が右腕に走る。
思わず体をよじった勢いで、ベッドから落ち、体が地面に叩きつけられるが、とてもそれで紛れるような痛みではない。
痛みはどんどん大きくなり、内側から焼かれているようにすら感じる。
アドノスは歯を食いしばり、消し飛びそうになる意識を必死につなぎとめて、無理やり視線を右腕に送った。
そして、そこにあったのは、悪夢のような光景だった。
「なん……だ、これは……?!」
巨大なそれは、鱗と黒い剛毛に覆われ、四本しかない指には、長く鋭い爪があった。
自分の右腕があるべき場所に収まっていたのは、魔物の腕だった。
痛みと混乱で、アドノスは声にならない叫び声を上げた。
「あら、あらあら! 目が覚めたのねぇ?!」
慌ただしく扉を押し開け、部屋に白衣の男が駆けこんできた。
見覚えがある。あのクソ司祭に、ミゲルとか呼ばれていた奴だ。
アドノスは地面に伏せながらも、ミゲルの姿を睨みつけた。
「貴様……っ、俺に……何を、した……ッ?!」
「まあ、驚いたわぁ……しっかり意識まであるじゃない。」
その視線など意にも介さず、ミゲルはしげしげとアドノスの様子を観察した。
自分でも驚くほどの怒りが沸き上がり、体が沸騰するように熱くなるのを感じた。
「答えろッッ!!」
「!」
怒りに任せ、その獣の腕を振ると、それは瞬く間に周囲の棚やベッドを破壊した。
上に載っていた器具や薬瓶が床に落ち、砕け散る。
しかしミゲルはそれを簡単に躱すと、興奮したように顔をゆがめた。
「すごい……すごいわぁ。大成功じゃないの……」
アドノスはどうにか立ち上がろうとしたが、体中が千切れそうな痛みに襲われ、再び地面に倒れた。
痛みは増すばかりで、意識を保つだけでも精一杯だった。
「ふふ、何をしたのか……って? 私は死にかけてた貴方を、治療で助けてあげたのよぉ。」
「何を……バカなぁ……ッ!」
「――起きたようですね。」
「?!」
気が付くと、半分壊れて千切れ落ちた扉の向こうに、ロキが立っていた。
逆光で表情は見えないが、その声色は氷のように冷たい。
「ロキ……貴様……、貴様ァ……!!」
「その腕は、貴方が切り落とした黒晶獣の腕です。本来の腕はもう使い物になりませんでしたので、それの縫合をドクター・ミゲルに依頼しました。他に、質問は?」
「な……」
ロキはまるで何の感情も無いかのように、さらりとそう語った。
怒りが、憎悪が、屈辱が。
様々な感情が駆け巡り、頭がおかしくなりそうだった。
「ちょっと、私の患者を刺激しないで欲しいわぁ。病み上がりなのよ?」
「おっと……そうでしたね。あとはお任せしますよ、博士。」
「ま……待、て……」
ロキに向かって、左手を伸ばす。
それは視界の中でかすんでゆき、ぐらんぐらんと揺れながら、次第に彩度を失っていった。
最後に見えたロキの表情は、笑っているように見えた。
「貴方には期待していますよ――アドノス。」
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