トワイライト・ギルドクエスト

野良トマト

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第109話 灰色の魔石①

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 クルトン村を出た一行は、最終目的地であるフリットの街に到着した。

 フリットは『陸の港』とも呼ばれており、交易で大きく発展した街だ。
 商売にほとんど税を掛けない方針のため、国中からこぞって商人が集まり、商店の数だけなら王都よりもずっと多い。

 しかし昨今、この街の近くで魔物の被害によるBランク相当の依頼が増加傾向にあるらしい。
 そこでしばらくこの街に腰を落ち着け、周辺の依頼をこなしながら、チームワークの更なる強化を図る――それが、この遠征の目的なのだ。

 大きな街であるため、フリットにもギルド協会の支部がある。
 ロルフは今までのクエストの報告と、周辺クエストの受注のため、そこへ出向いていた。

「おや、トワイライトの……ロルフ様ですか。少々、奥でお伝えしたいことが。」
「?」

 しかし、手続きの途中でなにやら呼び出されたので、ロルフは四人に少し待っていてほしいと伝え、奥の部屋へと入っていった。

 ロルフがいなくなった後、四人は受け取った報酬の袋を開けて、中を覗き込んだ。

「うわぁ……過去最高記録、更新なのだ。」
「まあ、確かに道中、結構な数のBランク依頼をこなしたけど……こんなになるのね……」
「あはは……なんか、まだ、慣れないよね。」
「……確かに、これは凄いですね。」

 その発言に、三人はマイアの方を見た。

「あれ? マイアちゃんは、流石に前の方が多かったんじゃ……?」
「いえ、私は治療院にいたので、毎月決まった額の報酬を貰っていたのです。なので安定はしていましたが、量はこちらの方が多いのですよ。」
「なるほど。そういえばマイアは、冒険者じゃなかったのよね。」
「そっか、いっぱい治療したから増える、ってわけじゃないんだね。」
「つまりスゥはSランクギルド並みのお金を貰ってるってことでいいのだ?!」
「……あんた半分くらい聞いてなかったわね?」

 みんなでくすくすと笑う。
 そんな中、エトはマイアが懐かしそうに窓の外を見ているのに気づいた。

「ええと、マイアちゃんは王都に来る前、この街で働いてたんだよね。」
「……ええ。時間があれば、治療院の皆にも挨拶したいのですが……」

 そこまで言ったところで、奥の扉が開き、ロルフが顔を出した。
 四人の視線がそちらに集まる。

「すまん、ちょっと先にクインシールドの支部に行くことになった。皆も一緒に来てくれ。」

 そのまま四人は、お互いに顔を見合わせた。


+++


 クインシールドの支部は、マナの森の本部同様、少し離れた森の中にあった。
 おそらく理由も同じくマナの濃度等によるものだろう。

 支部の扉を開いた一行を出迎えたのは、快活そうな少女だった。

「ようこそようこそ、クインシールド・フリット支部へ! 研究者一同、歓迎しま……おやおや?」

 その少女はそのまま受付を出ると、ロルフ達の隣を足早に通り過ぎ、マイアに顔を寄せた。

「マイアさんじゃないですか! これはこれは、どうしてここに?」
「リリィ……あなたこそ、何をやっているのですか。」
「何って、受付嬢ですよ? どんなお仕事なのか、興味が湧いたので!」
「それは……大丈夫なのですか、色々と。」

 リリィと呼ばれた少女はひらひらしたスカートの裾を掴み、くるりと回って、にこやかにお辞儀をした。
 どことなく呆れた様子のマイアに、ロルフは目を向けた。

「……マイア、知り合いか?」
「はい。リリィはこう見えて、優秀な研究員です。自己肯定感が高すぎるのが欠点なのですが。」
「ええっ、そんなベタ褒めされると、流石に流石に照れちゃいますよー!」
「おお、スゴいのだ。見事にいいところしか聞こえてないのだ。」
「研究者って、ちょっと変わった人が多いの……?」

 リリィはきゃーと両手で顔を隠して、嬉しそうに体を振った。
 しばらくそれを見てから、マイアはついに溜息をついた。

「……いいから受付をしてください、リリィ。」
「はっ、そうでしたそうでした! 皆さま、本日はどういったご用件で?」
「あ、ああ。『魔石の件』と伝えればいいと、聞いてるんだが……」
「!」

 ロルフがそういうと、リリィはすぐに奥へと案内してくれた。

 『魔石の件』――これは、以前エトとリーシャが遺跡から持ち帰った、あの大きな灰色の魔石についてのことだ。
 突如起動した遺跡の回路、調査のされていない謎の空間、動く巨大な石像――エトとリーシャが遭遇した謎に迫る、唯一の鍵である。

 ギルド協会で聞いた話によると、ユーリに渡した魔石はクインシールドに秘密裏に調査依頼が出されていたらしく、そして今回、その結果が出たというのだ。

「一応機密というコトで、文書で伝えるのが難しくてですね。ちょうど遠征に来るというのをギルド協会で聞いたので、それなら直接話したいなと思ったわけです!」
「なるほど、たしかにそれなら、エトとリーシャには居てもらう必要があるな……」

 廊下を歩きながら、リリィは大まかな経緯を説明してくれた。
 エトとリーシャが、少し緊張した表情でこちらを見る。やはり直接体験した二人、思うところはあるのだろう。

「それにしても、まさかまさか、マイアさんがトワイライトのメンバーになっていたとは!」
「私も驚いているのですよ。この件は、私が合流する前のことでしたし……」
「でもでも、元気そうで何よりです。みんな心配してたんですよ、急にいなくなっちゃうんですもん。」
「……」
「あ。つきましたつきました、ココです!」

 リリィが指差す扉には、でかでかと『倉庫』と書かれていた。
 ロルフは思わずマイアを見たが、マイアはわからないと首を横に振って返した。

「たのもーっ!」

 そう言ってリリィが扉を開け放つと、中には見たこともない様々な器具と、それを操作しているらしい、一人の少年の後ろ姿があった。

「ちょ……っ、リリィさん、脅かさないでよ……。どこ行ってたのさ、まだ数値が安定してないんだから、持ち場を離れちゃ……」
「ごめんなさいレン君! ちょっと受付嬢をやってました!」
「え……受付、えっ?」
「そしてこちらが、トワイライトのみなさんです!」
「え??」

 レンと呼ばれた少年は振り返り、こちらを見て暫し固まると、顔を赤くして慌てだした。

「こっ、こんな汚いとこに連れてきちゃだめだよ! 研究室に通してって言ったじゃないか……!」
「え? だって、レン君、いつもここにいるじゃないですか。」
「だ、だからそれは、なんていうか……ああ、皆さん、すみません、すみません! すぐに隣の研究室の用意を――」

 そういって立ち上がろうとしたレンは、何かのケーブルに引っかかって派手に転倒し、片手をついたテーブルが傾き、上にあったビンがずり落ち、それが頭にぶつかると――
 最終的に、気を失った。

「…………」

 皆がぽかんと静観する中、マイアがすっと前に出て、その手で哀れな少年を示した。

「彼はレン。優秀な研究者なのですが、自己肯定感が低すぎるのが欠点です。」
「ああ……うん。なるほど……」

 ロルフは、そうコメントするのが精一杯だった。
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