トワイライト・ギルドクエスト

野良トマト

文字の大きさ
110 / 122

第110話 灰色の魔石②

しおりを挟む
「ええと……超、高密度の……?」
「汎用、魔力、結晶体……?」
「……なのだ?」

 エトとリーシャとスゥは目を点にし、こてんと首を傾げた。

「そーなんです!! 通常の魔石は一層式のマナ結晶なわけですが、この灰色の魔石は多層式の重複結合で結晶化していまして、その密度は大きさに比例して加速度的に増加することが――」
「う、うむ……?」

 ロルフたち一行は、研究室でリリィの説明を受けていた。
 レンは先ほど気絶してしまったので、別の部屋で寝かされているらしい。その間に、リリィの話だけでも先に聞こうということになったのだ。

 しかし、目を輝かせて専門用語を連発する彼女を前に、一行はやや置いてけぼりを食らっていた。

「……リリィ。マスターたちは一般人なのですよ。もう少し、具体的にお願いします。」
「ありゃ、ごめんなさい、私ったら! 確かに確かに、結論から入るべきでしたね!」

 マイアにたしなめられ、リリィはてへっと拳を頭に当てた。
 そしてその拳から人差し指を立てると、部屋の真ん中に置かれ、様々な器具につながれた、灰色の魔石を指さした。

「ズバリ、この魔石一つに、同じ大きさの魔石100個分くらいの魔力が込められてるってワケです!」
「え、ええーっ?!」

 リリィの言葉に、エト、リーシャ、スゥの三人は、思わず声を上げた。
 その反応を見て、リリィは腕を組んで、嬉しそうに頷いた。

「それは……そんなとてつもない魔力を持つ魔物がいる、ってことか……?」
「あ、いえいえ、それは無いと思います。」

 思わず100倍の大きさのとんでもない魔物を想像してしまったロルフだったが、リリィはそれをきっぱりと否定した。

「そもそも魔石は、生体濃縮によって自然の魔力が集まってできたものなのです。大きくなることはあっても、結晶構造自体が変化するとは考えられません。それにそれに、これほどの魔力量ともなると、生体内で圧縮するのは不可能です。大きすぎる魔力は毒ですからね!」
「な、なるほど。……だが、そうすると、この魔石は一体……?」

 そう尋ねると、リリィは一度口を止め、全員の顔を見た。
 全員、ごくりとつばを飲み込む。

「私たちは、これが魔石を原料として、人工的に造られたものだと考えています。」
「……?!」

 エトとリーシャは目を見開いて、顔を見合わせた。
 ロルフは目を細めて、考え込むように顎に手をやった。

「『超古代説』……か……。」

 その独り言のようなロルフの言葉に、リリィは静かに頷いて応じた。


 超古代説――正式には、『超古代文明存在説』。

 内容を簡潔にまとめると、「遺跡が造られた時代には、今よりも遥かにレベルの高い文明があった」とする説のことだ。
 遺跡を探索する者にとって実にロマンのある話で、説の名前は知らずとも、冒険者であれば内容は誰もが知っているだろう。

 とはいえ、いくつも遺跡が発掘されている昨今において、未だ決定的な証拠が見つかっていないため、空想の域を出ない話でもある。

 この灰色の魔石が、その証拠になりえる、というのだろうか。


「なので、ここから先は、お二人が見たという遺跡の話になるのですが……一つ、問題が。」
「も、問題……ですか?」

 そういって、リリィは一度言葉を止めた。
 エトが震えた声で聞き返し、その隣でリーシャも緊張に固まる。

 わずかに、時が止まったかのような静寂があった。

「……遺跡の方はレン君の担当なので、私には説明できないんですよねー!」

 リリィは再び拳を頭に当て、てへっと舌を出した。
 緊張の最中にあった一行は、地面に崩れ落ちた。

「ですので、しばらく休憩しててください。すぐにすぐに、お茶とお菓子をお出ししますので~!」

 そういって、リリィはぱたぱたと研究室を出ていった。
 どっと疲れがやってきて、ロルフは椅子に深く腰掛けた。

「マスター、少し時間を頂いてもいいですか? レンの様子を見てこようと思うのです。」
「ん? ああ、それはいいが……場所がわかるのか?」
「はい。私も、ここで働いていましたから。」

 そうか、と頷くと、マイアはお辞儀をして、静かに部屋を出ていった。

 静かになった部屋で、エトはロルフとリーシャに目配せをした。

「なんだか……凄い話になってきちゃいましたね……」
「そうなんだけど……リリィさんの話し方のせいか、事の重大さが今一つ分かりづらいわ……」
「いや、その点は、深刻そうに言われるより楽かもしれないぞ……」
「あ、あはは……確かに……」
「キュイ?」

 三人揃って溜息をついていると、エトのフードからシロが顔を出した。
 シロは知らない人がいるときは基本引っ込んでいるのだが、リリィがいなくなったので出てきたのだろう。

「ふふ、そういえば、シロちゃんも一緒に体験したんだもんね。」
「確かにそうね。シロも、あの遺跡からよく帰ってこれたもんよ。」
「本当に……運が良かったなって、今でも思うもん。」
「キュゥ。」

 エトはそういってシロを抱きしめ、目を細めた。

「ま、今のパーティーなら、何とかなりそうな気がするけどね。あの時はまだスゥも――」

 そこまで言って、リーシャはふと首を傾げた。

「そういえばスゥ、ずいぶん静かだけど……」
「……すぴぃ。」
「……」

 スゥは腕を組んで頷いたようなポーズのまま、綺麗に寝落ちしていた。

「キュイキュイ。」

 シロがやれやれと首を振るのを見て、三人は思わず苦笑いした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。 しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。 絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。 一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。 これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

処理中です...